また、赤毛か・・・。
やっぱり毎日は間に合わず、作者には無理でした。
はぁ、今日何度目かわからない小さなため息をつく。
わたしは、ハルシュレック冒険者ギルドの看板受付嬢・・・。
いや、今のは少し願望が入った。
新米受付窓口担当員だ。
冒険者ギルドとは様々な外敵から街を守る正義の組織!っと広報担当がギルド職員の中から一押しの娘に、さわやかスマイルで2時間笑わせ続けた力作ポスターに目が行く。
はぁ、まぁ確かにわたしより笑顔はいいかもね?わたしは可愛いと言うより美人系だし。
またため息が出た。
別にこのポスターが恨めしいわけでは無い、断じてない。
わたしは魔力時計を見る。
まだまだ、お昼まで時間がある。
このギルドで忙しいのは早朝で、次が午後からだ。
朝は、早くに出発する冒険者達が多いため、馬車や乗用馬の手続きや彼らの出発確認などで忙しく、午後は達成報告や討伐部位の確認や、依頼者の対応などで忙しい、さらには冒険者達へ仕事の斡旋や彼ら同士の仲介までする。
午後になれば、終業時間まではあっという間だ。
しかし、午前のこの時間は何度時計を見ても全然針が進まない。魔力切れてるんじゃないかって思うほどだ。
同僚の中には、忙しく無い方がいいという子もいるが、仕事が無いからといって、ダラダラしていいわけでは無い。
ギルド内には冒険者が常時4~5人はいるし、わたしの受付の隣には同僚が、後には上司がいる。
常に背筋を伸ばして気を張る必要があるのだ。
そんなことを思っているとまた冒険者が入ってきた。
また赤毛だ。
この街には赤毛の冒険者が多い、似合う似合わないは関係ない。
ギルドの注意事項1行目に“赤毛の冒険者と揉め事を起こすな”とあるのだ。
その為、新人やケンカに向かない職種の人などの中には赤毛に染める人も少なからずいるのだ。
魔除けみたいなモノかも知れない。
まぁ、彼女の場合は似合っているし色合いも綺麗だから自前かも知れないが。
うわ、しかもあいつと一緒だ。
あんなのに引っかかるとか勘弁してよ。
顔はわたしより、ちょっとだけ・・・スタイルもまぁ良いとしても頭は足りない馬鹿女なのかもね。
あいつは、最近力をつけてきたルーキーパーティーのリーダーで、職員内の容姿に優れる女に声をかけまくっている男だ。
わたしにもゴブリンの巣を駆除しただなんだと、自分の武勇伝を延々しゃべり続けていた。
無心に、ひたすら手を動かし緑の左耳を数え続けた記憶がある。
中には一晩共に過ごした子もいると聞いたが、特定の女性と交際する気は毛頭無いらしく、遊ばれて終わりらしい。
その為、職員内の女性の敵ランキング1位である。
しかし、一部にはそこが良いという意見もあるらしい。
・・・どこがいいんだ?理解できぬ。
「おねぇさん、ここですよ!この時間はすいてるんですよ!あっ!そんな、俺のおかげっすけどぉ、お礼な・・・」
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
イラッとするので話をぶった切る、すいてる事にお前は関係ない!
「ゴブリンを使役したので登録を頼む」
・・・ゴブリンを使役って、今までに無いパターンだ。
最も魔物を使役する冒険者自体少ないようだけど・・・。
しかし、それなら受付のわたしが出来る事はほとんどない。
専門的な知識を持つ人に任せる必要がある。
でもその前に。
「わかりました、では冒険者様の登録証とお名前を教えて頂けますか?」
そういうと、彼女は腕にはめたギルド証を外して無造作に放って来た。
「レティシアだ」
あ、ちょっとやめてよね!落としちゃったじゃない!今のはわたしがどんくさいんじゃないんだから!
「・・お預かりいたします。現在、何か進行中の依頼はございますか?」
「いや、ない」
ギルド証は親指サイズの鋼のプレートで、ギルドの象徴である上半身が鷲で下半身がライオンのグライフと番号が刻印されている。
彼女の番号は9番、別に数が少ないと偉いとかそういう事ではなく、ただギルドが資料を整理するのにわかりやすい様に付けたもので、その番号の人が様々な理由でギルドを抜ければ別の誰かに割り振られる。
わたしは彼女のプレートを持って席の後ろにある履歴棚を確認する。
一か月以内に依頼を受けた人はここに簡単な資料が保管され、依頼を遂行中の人は別のところに置かれる。
彼女はまだ登録して間もないのかと思ったが違ったようだ。
隣の部屋の資料庫へ行き、9番の資料を探すが・・・無かった。
別に珍しい事ではない。冒険者は入れ替わりが激しい職場なので、長くギルドを利用しなければ資料は破棄される。
「・・・お待たせしました、申し訳ございません、既定期間以上ギルドの依頼をお受けになってないようですので資料が破棄されております。あたらしく作り直す必要がございます。その場合、再登録に小銀貨3枚が必要になりますがよろしいですか?場合によっては前借し依頼成功報酬の1割から差し引いていくことも可能ですが」
再登録は初回登録より割高になる。理由は定期的にギルドに貢献してほしいからだ。
「かまわない」
そう言って彼女は珍しいコインケースを取り出し大銀貨1枚をカウンターに置いた。
無骨だがセンスのいい小物だ。
わたしは小銀貨7枚を返し書類を用意する。
「では手続きに入らせていただきます。こちらの用紙に必要事項のご記入をお願いいたします。文字はお書きになられますか?別料金が発生しますが代筆も承っております」
そう言って用紙とペン、魔力インクを渡す。これは特殊なインクで、簡単に消えず、用紙を焼失しても内容を確認できる優れものだ。
彼女は何も言わずに書き始める。愛想の無い女。
でも、文字は綺麗ねって古い書体の文字だ。・・・レティキエかしらね?意外と年なのかも知れないわ。
・・・レティキエ?どっかで似たような名前を聞いたことがあるような?
「ほら」
「おねぇさんの名前・・・難しい字だね」
うわ、こいつまだいたのか!?
窓口のついたての横から顔を覗き込ませ書類をみようとする。
最近は個人情報とか色々うるさいんだ、こいつはほんとにデリカシーないな。
って、あー!インクこぼしやがった!消えないんだぞ!消えないだぞ!!
「あ、めんごめんごー」
めんご、じゃねぇよ!
書類は死守したが、彼女のギルド証が、黒く汚れてしまう。
「申し訳ありません。すぐ新しいモノとお取り替えします。しかしその場合、違う番号となってしまうのですが、御了承いただけますか?」
「何でもいいさ」
「それと、登録者様以外の方は後の待合室に椅子をご用意しております。そちらでお待ち下さい」
わたしは返事を待たず席を立ち、物品室のケースから新しいプレートを取り、真っ黒で読めなくなったプレートをゴミ箱へ投げる。プレートは量産されているため、価値は低い。魔力インクを落としてもらう方がはるかにお金がかかる。あのカウンターも綺麗にしてもらえるのか怪しいもんだ。
「それでは、以上で新規登録を終わります。注意事項など改めて確認いたしますか?」
「いや、必要ない」
「それでは、使役した魔物の登録ですが、魔物の強さや危険性について査定を担当する者が現在不在です。ご不便をお掛けしますが、午後にまたお越しいた抱くことは可能でしょうか?もしくは、魔物をお預け頂ければ、担当者が戻り次第査定する事も可能です。ただしその場合はギルドでお預かりしている間、冒険者が見張ることになり、その間の魔物の態度も査定評価の対象になります。加えて、見張る冒険者には依頼という形を取りますので、追加料金が発生します。この場合のメリットとしては、主人が離れた状態を見ることで魔物の危険性をより精査できるとし、査定時間を短くすることが可能です。最後に、安全を保証する見返りではありませんが、登録完了後にギルドの依頼を使役した魔物と共に達成して頂きます。」
「・・・だって、どうする?」
その時はじめて気づいたが、彼女の足元にフードを被ったローブ姿の子供?がいた。
彼女はその子をじっと見ている。心なしかさっきまでの不愛想な感じではない。
「・・・そっか、じゃあアタイは買い物にいくわ」
「ワガッタ」
そのローブからやや聞き取りにくいだみ声が聞こえた。
「それで?料金はいくらだ?」
「基本の料金は大銀貨10!?あ、失礼致しました。大銀貨10枚です。追加料金につきましては、少々お待ちください。今すぐ冒険者の仲介をいたします」
カンペを見ながら、驚きに声を上げてしまった。
大銀貨10枚と言えば大金だ、ゴブリンを複数討伐しても小銀貨1枚にすらならないのに・・・。
魔獣の登録者が少ないわけだわ。
わたしは席を立ち、上司に魔物の査定と監視依頼の事を説明に行く。
さすがに窓口のわたしでは仲介や料金の交渉などは行わない。
幸い冒険者はすぐに見つかった。夕方まで暇だという方で、ここ数か月で実績をあげて来た人だ。
「依頼を受けた。よろしくな、チビっ子顔を見せろ」
ローブの子はフードを開けて素顔をさらした。
へぇ、これがゴブリンか、緑色の肌で顔の造形も確かにブサイクだがどこか愛嬌があるそんな顔だった。
その時、不覚にもわたしはそのゴブリンと目が合った。
「いいぜ、ついでだしな。ただし小銀貨5枚だ。吹っ掛けるようで悪いが、最近ちと仲間が痛い目見てな。治療費やらなんやらと入用なんだ」
「かまわん、前金で払う」
そして彼女は振り返りもせず、あいつを引き連れて出て行った。
なぜか、イラッとした。
またフードを被ったそのローブは、あっちにトテトテこっちにトテトテと、つい目で追ってしまう。
気が付けば、午前は終わっていた。
わたしが昼休みをとってる間に、査定の担当者が戻ってきたため連れて行ったようだ。
その後は午後の忙しさで、意識することは無かった。
そして、その日の終わりに、ふとあの目を思い出した。
その時は何故かわからなかったが確信があった。
きっとわたしはこれから何度も、あの目を見たことを後悔すると・・・もう二度と無心にはなれないだろうと。
読んでいただきありがとうございます。




