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『第九話』

 二人の話を聞いて、リンカは盛大なため息を吐いて。


「ハクヤ君って、頭良さそうに見えるけど、馬鹿だよね…」


 リンカの呆れたため息と共に、本当に子どもを見るみたいな目で見られたハクヤは、少し後ずさり、相当に衝撃を受けたのか腹部にボディブローを受けたように苦悶の表情をしてマウスピースを吐き出すような動きをすると。


(…俺が馬鹿…馬鹿な…こいつよりも年は四つ上だし…三か国語以上話せて、日本語ペラペラの俺が馬鹿…)


 ハクヤはこうやって苛めが始まっていくのかという感傷と共に片膝を付いて、リンカに頭を下げて。


「…教えてくれ。リア充はどうやって直せばいい…?」


「…はあ、それ本気で言っているの? 言っておくけどリア充って病気じゃないのよ…」


「そんなバカな。俺が見た現代の高校生では、不治の病の一つじゃないのか?」


「全然違うわよ。 リア充っていうのはね、彼女がいない男たちが、彼女のいる男たちを妬んで作った言葉なの……分かった?」


 ハクヤはリンカの説明を聞くと、感銘を受けたように目を見開くと。


「…そうだったのか」


 何かを悟ったように、立ち上がり手を握り締めると。


(…やはり、そうか、俺はリア充なんかじゃなかったんだ…)


 ショックから立ち直ったハクヤはユリナの方を向くと。


「だそうだ。ユリナ、俺たちはリア充なんかじゃなかったぞ」


「良かったです…これで、ちゃんと訓練に入れますね」


 ユリナが両手を胸元でグッと握り締めると、失念していたのか――ハクヤは何のために集まっていたのかを確認する。


(…そうだったけ…たしかお互いの力量を確認するために集まったんだっけかな…)


 ハクヤは思い出したように苦笑すると。


「ユリナは、魔術では何が得意なんだ?」


 ハクヤの問いかけにユリナは、少し戸惑ったように人差し指を両手でクルクルと回しながら。


「……実は私、召喚師なんですけど、留年してから上手く出来なくなってしまって」


 召喚師というのは、一般的に動物を召喚してその動物と契約を結ぶことである。

陸ならライオンや熊、水の中ならイルカや鯱という風に召喚して使役する者の事だ。

 ただし使い手が非常に少なく、絶滅種といっても差し支えない程に術者がいなかった。


(……召喚師か……どうしたものかな)


 ハクヤは魔術が使えないが、魔術師については学年の生徒の誰よりも理解して恐れていた。

 ハクヤは魔術師の敵である聖十字教会の人間である。その為に敵である魔術師の事は誰よりも研究しているし、この学院に入る前は魔術学院の勉強も全て叩き込んだと言ってもいい程だった。

 しかし召喚師などと戦った事もないし見たこともないハクヤは何を教えればいいのかが全く分からいとうのが本音である。


「とりあえず、普通の魔術からやってみればいいんじゃないのか?」


 ユリナは俯いていた顔を明るく輝かせると。


「そうですね」


 ユリナは言われた通りに、ひと通りの魔術をやってみせるが、一応はひと通りの魔術は出来る様だ。


 だが、それだけである。

 彼女がやっているのは基礎であり、学院にいる生徒は一学年のうちに終えていることだからだ。

 一学年の技術が仕えたとしても誰にも誇れることではないし、あまり意味がなかった。

 ユリナの魔術がひと通り終わって休んでいるところで、ハクヤは自分の木刀を持ち丹念に素振りを繰り返す。


 表芸大会では刃物は禁止である。

 使うとしても刃引きした刃物をつかうしかない、それならば効率がいいと選んだのは刃渡りが50センチほどの小太刀ぐらいしかない自分の得物に似た武器を選んだ。

 懐かしいなと思いハクヤは揺れる剣先の筋を見ながら、遠く異国の地を思い馳せる。

 あの頃はただ自信を鍛えていればといいだけだったのであるが、現実は良くわからない物で魔術の勉強や心理学など気づけばいつの間にか勉強漬けだ。

 ハクヤは空中に幾つかのペットボトルを投げると、それを落とさずに二刀でとらえ続ける。

 それをずっと続けて一時間も経とうとするとハクヤは、最後に高くペットボトルを打ち上げると、弓なりに体を逸らして大きく振りかぶり残心の残らない程の一撃を放ち。

 ペットボトルを縦に真っ二つにした。

 それを見たリンカとユリナが二人ならんで拍手を送っていた。


「凄いですー」


 ハクヤは余程夢中になっていたのか、最後に見せたのは敵対した相手を確実に倒すための一刀両断と呼ばれる一撃だった。


「ハクヤさん凄いです」


 汗だくになったハクヤを、休日なのに他にも登校していた生徒がいたのか随分とみられている事に気づくと。


「少し夢中になりすぎたな……」


 桜の木の下にシートを広げて、ハクヤとユリナとリンカの三人は一休みすることにした。


昼食には少し早いだろうが、お弁当を持参してきていたのか、二つの重箱を開けると、一つにはおにぎりがいっぱい詰まっており、もう一つはおかずが詰まっており、彩りもよく見る者の食欲をそそった。

一方で対照的なのが、リンカのお弁当だった。

水分を吸いまくってベシャベシャになったサンドイッチ、卵を一杯はさもうとして、卵がいっぱいはみ出ているサンドイッチっぽいもの、なんというか見た目からして残念な食べ物な感じがするのは気のせいだろうか。


 ハクヤは遠く離れた欧州の方角を見ながら、神に祈った――どうか人間の食べれる食べ物でありますようにと――。


「…なかなか個性的な食べ物だな」


 ハクヤは引きつった笑みを浮かべて、目の前の対照的なお弁当を見た。

冷や汗を垂らしながら、どんな香辛料を使ったのか異臭を放つ、お弁当とおせち料理ですと嘯かれても差支えない二つのお弁当。

 さすがにユリナもアハハと少し苦笑いをしており、その異常さがうかがえた。

 リンカは自分でも、ユリナとのあまりの差にハクヤに恨みでもあるのか、彼の方をジロリと睨みつける。


「…何よ、文句あるなら、食べなくてもいいんだからね」


 どうして、ハクヤは怒こられなければいけないのだろうと考えあぐねていたが、機嫌の悪くなり涙目になった女に何をいったところで、自分が悪者にされるだけだろうと思われた。


「……とりあえずは、危険地帯ではない方から逝くか…」


 ハクヤは、まずはベシャベシャのサンドイッチから手にした。


(……まだ人類が食べれるレベルの出来だな……)


 トマトの水分で真っ赤になっているサンドイッチなど見た事ないが、ハクヤは恐る恐る食べてみた。


「…大丈夫だ」


 パンが水分を吸ってベシャベシャ以外は、食べれた――味については、トマトの味以外しないので、ほとんど噛まずに飲み込んだ。


「…個人的には、問題ないが、もう少し考えて作った方がいいかもな…」


「食べといて、何よそれは……」


 他人にとんでもないものを食べさせておいて、文句ばかり言う輩は放っておいてハクヤは、ユリナのお金を取ってもいいのではないかというぐらいのお弁当のおにぎりを取って食べる。


「……上手い」


 純粋に美味しい、おにぎりには工夫がしてあるのか、みじん切りにしたカリ梅が入っているのか、程よい酸っぱさとちりばめられた紫蘇がアクセントとなって、食べるものを飽きさせない味になっていた。


 そのほかにも、味付けの単純なホウレン草のお浸しなど素朴な家庭的な料理が綺麗に並べられており、数分と待たずに食べつくしてしまった。


「……久しぶりに、旨い物を食べた気がするな…」


 ハクヤにとっては、食事は楽しむものではない――いかに、身体のバランスを整えるかだ。


「…久しぶりに作ったんで、ちょっと自身がなかったんですけど、全部食べてもらえて良かったです」


 少しばかり、照れているのか、嬉しそうに笑う。


「…ああ、本当に旨かったよ、ご馳走様」


 しっかりと向き合いユリナに礼を言うと、一つだけ残った物質がある。


「……あれだけ残ったな……」


 ハクヤが一つだけ残った、緑色の卵サンドを見た。


「…そうね「…もったいないですね」


 ユリナとリンカの二人が残った緑色のサンドイッチを見ていた――ハクヤは何を混ぜたら、卵サンドが緑色になるのだろうと考えた。


 青虫でもすり潰していれたのだろうか――幸い、何とか他のいただけなさそうな申し訳ないサンドイッチはハクヤに口によって破壊されたが、あれだけが難攻不落に城として残ったというわけだ。


「……ええいままよ」


 ハクヤは、性格上に食料を捨てるという事はできない――ならば食べるしかないだろう


緑色の物体を口に入れた瞬間ハクヤの味覚を司る味蕾が破壊されたような衝撃が走る。


「…なんだこれは」


 あまりにも刺激に意識が失いそうになるのを耐える。

 ハクヤは――飛びそうな意識の中で緑色の物質の正体を判明させた。卵サンド緑色の物質は、ワサビだった。

おそらく粉ワサビを粉のまま、マスタードの代わりに入れたのだろう。

―ーただし、その量が桁違いだったというだけだった。


「……ちょっといいか」


 ハクヤは顔をしかめて、立ち上がると。

 急いで走り、 水飲み場まで行くと勢いよく蛇口を捻り、とにかく水で口を洗い流した。


「死ぬかと思った」


 しばらくは味覚が使い物にならないだろうと思い。

 これならば、リンカに文句の一つでも訴えたところで罰は当たらないだろう。



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