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『第十話 オオカミーーオーク」

 翌日、ハクヤは昨日の出来事を思い出して全然、生産性のない一日だったなと実感していた。

 ハクヤはあの後に気分が悪くなり、まるで頭が働かなくなって動けなくなったというのが本音だった。


(…今日は真面目にやらないとな)

 

 昨日と同じようにハクヤは早朝に、校庭でユリナと集まり―ー昨日用意していた触媒を持ち出すと、幾何学模様の書かれた羊皮紙の前に置くとユリナに召喚をするようにした。

 ユリナに指示するが彼女は怖がっているのか余り意欲が感じられなかった。


「……本当にやらなきゃ駄目ですか?」


 召喚師で恐ろしいのは制御できない物を召喚した時であるが、それらが召喚されることはまずないのである。

 召喚師はまず始めに召喚したい対象の一部を入手して、それを触媒にして呼び出さなければならない。

 つまり竜を召喚したければ、竜の鱗を、ライオンを召喚したければライオンの毛なり牙なりを手に入れなければならない。

 そしてそれらは触媒の重要度が高ければ高いほど呼び出せる確率が高くなる。

 例えばライオンなら牙、象なら象牙などその呼び出す部位の重要度が高い物質ほど可能性が高くなるのが召喚術である。

 しかし竜の鱗などハクヤですら見たことがないので、ペットショップで少し拝借してきた犬の毛を用意した。


「……大丈夫だろ。例え制御出来なくても俺もいるし……それに出てきたとしてもチワワぐらいなもんさ」


ユリナは地面に置かれた羊皮紙に精神を集中して手を翳して――ハクヤはその光景を緊張しながら見ていたら。彼女はヘンテコな呪文を唱えだした。


「…ええとワンちゃん。出てください」


 ハクヤはこけそうになり、少し額に手を当てた。

 目の前でこちらを向いている珍獣にハクヤはどう形容していいのか分からなかった。

 それに、余りにも温室育ち過ぎて教え方が分からないというのが本音であり。ハクヤは男なら放り投げて終わりなのだが、任務ということもあるが、いかんせん彼女はどうにも放っておけないのだ。


「もう一回やってみてもらってもかまわないか?」


 ハクヤはユリナに催促をすると彼女は苦しそうに息をしながら。


「――やっぱりやらなきゃ駄目ですか?」


 何かトラウマでも抱えたような表情をしていた。

 ハクヤは何かあると思っていたがこれほどとは思わなかった――少々手助けが必要かと感じて動くと。


「今度は俺も手伝ってみるよ。魔術は行使できないかもしれなけどな……魔術の知識については、誰にも引けを取らないつもりだ…」 


 ハクヤは少し自信ありげに応えて彼女の手を取り後ろに立ち、一緒に召喚術を行使しようとする。


「……あ」


 ユリナは手を握られて赤面しているのだろうか、彼女の水色の髪が流れて心地の良い香りが風と共に運ばれる。


「いいか? ユリナ。召喚って言うのはそんなに難しい術じゃない。君ぐらいの才能があれば、出来る筈なんだ」


 ハクヤは確信を持つ。彼女の過去を少し調べてみたが、過去には問題なく召喚術を行使していたはずだ。


(……後は、それをもう一度思い出させてやれば……)


「精神を集中させて」


 ハクヤの目が少し変化したようになり彼の顔に刺青が浮かび上がったかの印象が見られ、召喚の光の粒子が校庭に漏れると共にハクヤとユリナが言霊を唱える。


「「この世に燃える杯の業と剣の業。

我は神成り、人なり、獣なり、

過去、現在、未来をしるものなり

太陽と月と海を支配するものである。

我が内の燃ゆる声に従い、出でよ」


 光の後にでてきたのは小さな銀色の毛並みを持つ子犬だった。


 「「……」」


 二人の間に沈黙が流れる。


「…子犬ですね」

「…ああ獣がいるな」


 子犬はユリナを主人と見たのか、彼女に寄り添うように足に擦り寄り舐めようとしていた。


「出てきてくれて、ありがとうございます。今日から私が貴方のご主人ですよ」


 ユリナが子犬の体を抱き上げて、自分の顔に持ってきて挨拶をする。


「――えーと、名前はなんにしましょうか?」

 

ハクヤは銀色の毛並みなど珍しい犬が出てきたなと目を細めた――もしかしたらオオカミかもしれない。


「……オークでいいんじゃないか狼に似ているし」


 満面笑顔のユリナとは対象にハクヤは投げやりだった。


(……あれだけ、期待させといてこれとはな……)


 ハクヤはユリナほどの才能があれば、魔獣でも呼び出すのかと期待していたのだが――出てきたのは子犬だとは期待外れもいいところだ。


「今日からよろしくねオークちゃん」


 ユリナはオークの鼻にキスすると共に、オークもそれを名前と了承したのか『オン』と声帯の発達していない声で鳴いた。


 ちなみにハクヤが適当にペットショップから持ってきたのは、犬の毛だったのだが目の前のオークは幼いのに牙が少し発達していることに気付かなかった。

 もしも触媒と違う動物を召喚したという事実があるのならば、それはとてつもない幸運か余程の才能がない限り不可能である。


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