領主の娘はひろい世界に憧れているようです 7
深夜、カイの姿に化けた俺は街角で一人モンターヴォを待っていた。
あのネタキャラ野郎、トレーニング初日からさっそく遅刻である……。
と、やっとのことで待ち人が来た。
フレームレスの眼鏡をかけたモンターヴォが、悠然とこちらに向かってくる。
歩いてやがる。
ぶっ殺すぞ。
「いやあ、遅れて申し訳ない。高貴にしてエクセレントエリートなこの僕くらいになると身支度にも時間がかかりましてね。庶民風情のように着の身着のままみじめな姿で出歩くわけにはいかないのですよ。高貴なるこの僕は家名を背負ってますからね」
まったく悪びれた様子のないモンターヴォである。
ぶっ殺すぞ。
「いいのかモンターヴォ、そんな態度で。――これがどうなっても知らないぞ」
俺はそう言って、昨晩モンターヴォから奪い取ったネックレス――『秘蹟籠』を掲げた。
これがないとモンターヴォは魔法無効化能力を失い、決闘相手のユータロウに2秒と持たずに敗北するだろう。
「な!? 僕の秘蹟籠に手を出さないで下さい! それは高貴にしてアメイジングな我が一族に伝わる秘法なのです……! 壊したらママ上に怒られてしまいます!」
「ネタキャラな上にマザコンかよお前……。――いいかモンターヴォ、よく聞けよ」
俺はモンターヴォの胸ぐらをつかんだ。
「今後もし俺の言うことを聞かなかった場合、お前の大事な秘蹟籠はぶっ壊す。あとぶっ殺す。いいな?」
「う……うぅ……」
「返事!!」
「は、はい……高貴にしてワンダフルエリートなこの僕ですが……しばらくはあなたに従いましょう」
モンターヴォはしぶしぶ頷いた。
「ところでモンターヴォ、お前誰に断って空気吸ってんだ?」
「それも許可が必要なのですか!?」
「当然だ」
「う……うぅ……高貴にしてマスターエリートなこの僕に空気を吸うことをご許可下さい……」
「よし、いいだろう」
駄犬のしつけは最初が肝心なのだ。
しつけを終えた俺は、さっそくモンターヴォと作戦会議を始めることにした。
議題はもちろん、いかにして決闘相手のユータロウに勝つか。
「なあモンターヴォ、お前さ、『ユータロウに勝つ』ってどういうことだと思う?」
「ユータロウに勝つ? そんなの単純なことではありませんか。高貴にしてプラチナエリートなこの僕が、華麗な剣技でユータロウを斬り捨ててしまえばいいのです」
「いいや、お前は何もわかっていない」
俺は首を振る。
「ユータロウってのはな、『主人公』だ。物語において主人公は負けない。お前がどれほどユータロウを圧倒しても、窮地に陥ったユータロウは都合よく『真の力』に覚醒し、戦況をひっくり返す」
「そんな……。高貴にしてゴッドエリートなこの僕が、敗北を運命づけられているというのですか……?」
「そうだ。まずそれを受け入れろ。――『主人公』には勝てないんだ」
「で、ではどうすれば……!」
モンターヴォの顔はみるみる青ざめていく。
「落着け、勝ちの目はちゃんとある。俺のしかけた数々の策略(寝取り)によって、ユータロウは今、女神からの加護を失いつつある。――それに、メンタルもぼろぼろだ」
ミリアが恋人(俺)とやりまくっていることは、ユータロウの耳にも入っている。
俺が街の噂好きの老婆に化けて、ユータロウに直接伝えたからだ。
ミリアがどんな風にされるのを好むのか、ラーニャと一緒に俺のどこをなめてくれたのか、あのかわいい口でナニをしてくれたのか、どんな風に鳴くのか――リアリティーたっぷりに教えてやった。
ユータロウはルビィに続いてミリアまで他の男にやられてしまったことに、ひどくショックを受けていた。
カタカタ震えていた。
処女厨の中学生にとって、寝取られなど悪夢でしかない。
ミリアはユータロウにとっての母性枠。
中学生のユータロウにとって、ミリアの母性はたまらなく魅力的だっただろう。
それがとられた。
他の男にめちゃくちゃにやられまくっている――その事実は、ユータロウの心に深いかげを落とした。
「ユータロウを倒すなら今だ、今しかない」
俺は拳をかためて断言する。
「しかし、倒すといってもどうすればいいのです……? 普通に力比べをしても無駄なのでしょう?」
「そんなの簡単だ。ユータロウを倒すには――お前がユータロウに勝る『主人公』になるしかない」
俺が、お前を『主人公』にしてやる。
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