第9話 健全なパパ活はじめます!
「お待ち合わせのお客様は、あちらのお席です」
「ありがとう」
案内してくれたボーイに手を振って、私はバーの一番奥にあるソファ席へと歩み寄る。
髭面のオジサンが一人、両脇に女の子が二人。自慢話のだみ声が、遠くに居ても聞こえてくる。
「やはり楽器はいい。私が先日買ったホルンは、都に家が建つほどの価格でな!」
「わあ、すごいですねぇ~さすがガラブ伯爵ですぅ~」
「ガッハッハ! お前たちも良い楽器の音ぐらい聞き分けられるようになりなさい。さて、この二つのオカリナ……どちらが高級かわかるかな?」
ピヨロロロロロと情けない音が響き渡る。店内で楽器を吹くなと言いたいけど、お得意様だからか店員たちは見て見ぬふり。他の客も相手が権力者だと知ってか諦め顔だ。気の毒に。
ヒールを鳴らして歩み寄る。演奏が終わったタイミングで、すっと自然に会話の中へ。
「……まあ。それはもしかして、バノスの森の土で作られたオカリナでは?」
ガラブ伯爵はオカリナを下ろし、驚いた顔で私を見つめてきた。
「そのとおりだ、なぜわかった?」
「音色を聞けばそれぐらいは。音の伸び方からして、比較的年代物のようですね。名匠ヤコンの初期の作品かしら」
「音を聴いただけでそこまで見抜くとは。ふむ……ご婦人、私と音楽談義はいかがかね」
「はい、喜んで」
「おい、お前たちは邪魔だ! さっさとあっちへ行け!」
両脇の女の子たちはほっとした顔で立ち上がる。わけのわからない話をされて、完全に引いてたもんね。あとは私に任せなさい。
彼女たちと入れ替わるように、私はガラブの隣へ腰を下ろした。
「お嬢さんはどんな楽器がお好きかな?」
品定めするような視線に、柔らかく微笑みかける。私はそんなに安い女じゃない。『お話』をする価値があると思い知らせてやらなきゃ。
「そうですね……最近ではバリファヴァ産のホルンが気になっていますわ。帝国歌劇場でマシウスの演奏を聴いて以来、あの音が忘れられなくて」
「ほう……そのホルンなら、最近購入したばかりだ。マシウスが使ったものをな」
「まあ。では、いつでもあの音が自宅で聴けますのね。なんて羨ましい」
わかる……わかるわ。私にはわかる!
この男が求める答えが。どう答えれば喜ばせることが出来るか、手に取るようにわかる。
これは言わば『ガラブルート』の攻略だ。彼の反応に対し、頭に浮かんだ選択肢の中から最も好感度が上がりそうなものを選ぶ。正解すればガラブは喜び、私に対する反応が良くなる。
(乙女ゲーとギャルゲーも極めた私には、簡単すぎる攻略キャラね。このままイベントを成功させてやるわ!)
――数時間後。
「ただいま~。見て見て、これもらっちゃった」
森の中の小屋に帰ってきた私は、戦利品をクラウに披露する。
「……いや、もらったって。馬? マジで?」
「マジよ。可愛いでしょ」
真っ白な馬は、つぶらな瞳で私たちを見下ろしている。可愛い。可愛いけど私、馬の乗り方知らないんだよね。おかげでここまで徒歩で引っ張ってくる羽目になった。
「うちじゃ飼えない」
「わかってるわよ! 明日街で売ってきてくれない?」
「簡単に言うが、こいつは相当な値が付くぞ。ガラブのお気に入りで有名な馬だ。適当に売り飛ばせば足が付く」
「だから頼んでるのよ。クラウなら良い売り手を探してくれるでしょう?」
クラウは溜息を吐きながら肩をすくめた。
「全く……。今回だけだぞ」
「ありがとう! 次からはもっと手放しやすい品物をねだるわ」
「次もあるのか、大したもんだ。一体どんな手を使ったんだい?」
「話をしただけよ。身体には指一本触れさせなかったし」
「それはそれは。さすが悪女様だ、やるねぇ」
褒められてるんだかけなされてるんだか。
とにもかくにも初日の『パパ活』は大勝利に終わった。
私、悪役令嬢の才能あるのかも。