第19話 仕事熱心!
ドアを開けると、温かいオレンジ色の明かりが出迎えてくれた。
手拍子と軽やかなヴァイオリンの音、そして綺麗な歌声。酒場の中は大勢の人でいっぱいだった。
「まあ素敵。雰囲気のいいお店ね」
ビクムを見上げて微笑むと、彼もずいぶん気を良くしたようだ。ニコニコ顔で答えてくれる。
「今日はいつもより賑やかだな。明日はセインハーモニアとの親善試合だから、みんな酒場に集って前祝いをしているらしい」
「それでこんなに人が多いのね」
「いつも混んではいるが、今日は特にすごいな。ガースバルトの勝利を祝って俺たちも飲もうじゃないか」
隅のテーブル席に腰を下ろすと、すぐにエールが出された。周辺の客も思い思いに酒を飲んで楽しく談笑している。こっちが何を話していても聞かれたりはしなさそう。
「まずは出会いに乾杯したいわ」
「もちろん。それじゃあ乾杯」
一口飲むと甘い花の香りが漂った。口当たりもよくって女性受けしそうだし、なかなかいいお酒を出すじゃない。
「親善試合って、デュークさんが参加するのよね? ビクムさんも忙しいんじゃないかしら。誘ってしまってごめんなさい」
「いやいや、俺は試合が始まる正午までに会場へ到着すればいいんだ。デュークはもう会場入りして準備をしているだろうが」
「それならよかった。会場はどこ?」
「二国の中間にあるコロシアムさ。そこまで遠くはないよ」
「だったら……」
ビクムがあっという間に空にしたグラスをつついて、にこりと微笑む。
「今夜はどれだけ飲んでも平気ってことね?」
「ああ、そうだとも」
上機嫌のビクムは早速おかわりを注文する。私もゆっくりお酒を楽しみつつ、選ぶのはなるべく軽いフード。
食べ物でおなかいっぱいにさせてたまるもんですか。出来るだけたくさん飲ませて口を軽くさせないとね。
エンジンがかかってないうちは、まだ一番欲しい情報へは触れない。相手に好きなだけ喋らせて、喜ばせるリアクションをして、時々さりげないボディタッチも忘れずに。
ああ、私ってばなんて仕事熱心なんだろう。
「……ところでイデアさんは、強い男が好みなのか?」
来た来た、選択肢。
ビクムは自警団所属で腕にも自信があるはず。普通に考えたら答えは『はい』だけど……ガチ乙女ゲーマーである私の勘は警鐘を鳴らした。
――ストレートな回答は危ないんじゃない?
よし。ビクムの好感度が上がる選択肢は……これ!
「いえ……実は私、強さをひけらかすような人はあまり得意じゃないの。それよりも優秀な頭脳や計略の才能を持つ人に惹かれるわ」
ビクムの目が輝く。これはきっと正解のサイン。
「そうだな、武に長けた男はそれが全てだと思いがちだ。しかし実際の戦場では、兵士一人の力で戦局が変わることなどない。それがわからない脳筋は出世も難しいだろう」
次の一手はかなり危険だ。失敗すればイベント終了。でも成功すれば一気に好感度が上がるはず。
さあ。勝負!
「わかるわ。だから私、申し訳ないけども……デュークさんがあまり好きになれないの」
「そうだったのか! いや、わかるよ。言い方は悪いが、彼は脳筋の見本のような男だろう。正直なところ、不快な一面が目につくんだ」
「ビクムさんもそう思っていたなら少し安心したわ。でも、そんな人に国の代表を任せるなんて心配ね……」
「フフフ……安心するといい。デュークにはもうすぐ天罰が下るのさ」
ビクムはすっかり話に夢中だ。酔いの回ってきた顔で、隠しもせずにどんどん情報を差し出してくれる。
ここまで来たら勝ったも同然。どんな質問をしたって口を割ってくれるだろう。
「まあ……一体何が起きるのかしら」
「ゴーレムの霊薬という、最強の戦士を創り出す秘薬があるんだ。古文書に載っていたそれを、俺は調剤師と一緒に完成させた。その効果は素晴らしかったよ。そこそこの才能を持っていただけのデュークが、瞬く間に帝国最強の剣士になったんだから」
「デュークの強さにはそんな秘密があったのね。そんな薬を作れるなんて、ビクムさんは素晴らしいわ」
要するにドーピング剤を作って使ったってことね。路地裏でビクムが話してた相手は調剤師か……。
「褒めてもらえるのは嬉しいが、この薬には欠点があってな。肉体の強化は一時的なもので、定期的に薬を摂取しないと力が衰えるばかりなんだ。更には……強化と引き替えに肉体がすさまじい速さで劣化していく」
「どういうこと……?」
「簡単さ。デュークは、もうすぐ死ぬ運命だ」




