863:タルウィヘビィ・3-2
本日は四話更新になります。
こちらは二話目です。
「……着地!」
闘技場に向かって落ちた私は、録画を開始しつつ巧みに姿勢を制御すると、クラウチングスタートに近い体勢で着地した。
そして、『空中浮遊』の呪いによって、少しずつ浮かび上がり、いつも通りの姿勢になる。
うん、普段より着地の衝撃が強かった気がする。
「何をやっているんだ、『虹霓竜瞳の不老不死呪』タル」
「いや、毎回同じようなエントリーをするのもどうかと思って、工夫を凝らしてみたのよ」
さて、舞台はいつもの闘技場。
『悪創の偽神呪』の姿はあるが、観覧席には邪火太夫以外の姿は見えない。
どうやら他の偽神呪たちは居ないようだ。
「そこはー……頑張るところではないとー……思いますよー?」
「エヴィカ?」
と、ここでエヴィカが私の背後に姿を現す。
ただ、エヴィカの服装は普段のゆったりとした服装ではなく、動き回りやすい服装になっており、両手には立派な盾と槍が握られている。
この流れからすればエヴィカが今回の協力者になるのだろう。
だがしかしだ。
「大丈夫なの? ザリチュと違ってエヴィカは……」
「死んでも大丈夫ですよー」
「そうなの?」
「はいー……楼主様と契約した時点でー……私は楼主様の所有物としてー……そういう事が出来るようになっていますからー」
「ならいいけど」
どうやら試練でエヴィカが倒されてしまっても、問題はないらしい。
まあ、かと言ってエヴィカが犠牲になるような戦い方をする気はないが。
「ちなみにエヴィカの戦闘技能は?」
「楼主様の劣化版と言う感じですねー……この槍と盾はほぼ飾りですー」
「分かったわ。前衛は私が務めるわ」
「お願いしますー」
と言う訳で、どういう相手が出てくるにせよ、私が前衛を務める事にする。
私の劣化版と言うなら状態異常攻撃がメインだろうし、これでいいはずだ。
「相談は終わったな。では、今回の相手を出すとしよう」
『悪創の偽神呪』が姿を消すと同時に、闘技場の中央に呪詛の霧が集まっていく。
「む……引かれてる?」
「おー?」
同時に、闘技場全体に異常が生じる。
集まっていく呪詛の霧に向かって引かれるような……あるいは落ちるような感覚を覚えたのだ。
どうやら『恒星の邪眼・3』に関わるだけあって、強烈な引力のようなものを持っているようだ。
私だと遠ざかるように羽ばたき、エヴィカだと槍と盾を軽く地面に当てておかないと、じりじりと引き寄せられる事だろう。
そして、これだけの引力となると、遠ざかる事は不可能だろう。
「さて何が出てくるかしらね?」
「邪魔はしないようにー……頑張りますねー」
呪詛の霧が少しずつ縮んでいき、戦う相手の姿が見え始める。
現れたのは鱗ではなく甲殻のようなものに覆われた鼻先。
そのまま灰色の顔が現れ続け、鋭利な牙が生え揃った口、太陽のように真っ赤な瞳、黄金色の角が見える。
そして、顎の下辺りで、首の始まり部分が何かしらの華の花弁で覆われているのが見え……そのまま出現が止まってしまった。
傍目には直径3メートル近い巨大な花の中心から、竜の頭だけが生えているように見える。
「首から上だけの竜、という事かしらね」
「そういう事ですねー」
「……」
どうやら今回の相手は首だけ竜らしい。
ただ、十二支的には竜よりも甲殻類や植物の要素が強いように思えるが。
まあ、なんにせよだ。
「シャアアアァァァァァ!!」
「戦闘開始ね」
「ですねー」
首だけ竜の咆哮と共に戦闘開始である。
「さて何を仕掛けてくるかしらね……」
首だけ竜が何を仕掛けてくるかは分からない。
なので私は邪眼術のチャージを始めると共に、首だけ竜の正面ではなく斜め前に位置するように移動を始める。
同時にエヴィカも私とは逆方向に移動し、攻撃の準備を始める。
「シャアッ!」
「!?」
「おおー」
首だけ竜が素早く方向転換をして、私の方を向き、口を開く。
放たれたのは紫色の光線。
私はそれを避けるべく、首だけ竜との距離を縮めつつ、横へと移動しようとした。
「これは……重力子線!?」
だが体が重い、いや、光線に引き寄せられる。
私の横方向への移動よりも速く首だけ竜が方向転換を進めていき、私の翅にブレスが触れそうになる。
なるほど、恐らくだが、重力を操っているブレスであり、光線のように見えるのは結果的にそうであるらしい。
このままだと直撃しそうだ。
けれど間に合う。
「raelc『淀縛の邪眼・3』」
「ジャグッ!?」
重力ブレスを放っている首だけ竜に向けて、私は伏呪付きの『淀縛の邪眼・3』を撃ち込む。
干渉力低下の効果そのものは直ぐに解除されるが、伏呪の効果もあってそれでも十分な時間の足止めが可能であり、私はブレスの効果範囲から完全に離脱。
首だけ竜も重力ブレスを放つのを止めた。
「せいー」
「ジャゴッ!?」
と、ここで首だけ竜の背後……背後? とりあえず私が居る方とは反対側から真っ赤な炎が上がる。
どうやらエヴィカが攻撃をしたらしい。
そして、反応からして、首だけ竜は普通なら首の断面がある方向から攻撃されるのが苦手と見える。
「削れる時に削っておいた方が安全かしらね」
「シャアアアァッ!」
私は首だけ竜の顔の側面に向かって、首だけ竜が発生させている引力も利用して一気に移動していく。
首だけ竜は方向転換を進め、私を顔の正面に捉えようとするが、それよりも私の移動の方が速い。
「さあ、裏側に……」
「ショクン」
そうして私が首だけの竜の視界から外れ、裏側が見れる位置にまで来た瞬間だった。
「消えたー?」
「あ、ヤバい」
首だけ竜の姿が掻き消える。
引力の方向が変わり、その先には首だけ竜の姿があった。
彼我の距離はおおよそ100メートル程。
首だけ竜の後ろには、転移と同時に展開したのか、無数の星々が輝く宇宙空間のような光景が広がっている。
その空間から伝わってくる呪いの量と質、それに首だけ竜の体が纏う呪いの密度に、私はこれから来るものの危険度を察した。
「ブップラジョクガァ!!」
「エヴィカ! 全力で逃げなさ……」
「もう逃げてますー!」
そして、次の瞬間。
宇宙空間のような場所から私が居る場所に向けて、真っ赤に燃え盛る隕石が無数に飛来した。
03/23誤字訂正