862:タルウィヘビィ・3-1
本日は四話更新になります。
こちらは一話目です。
「さて、材料も揃ったところで早速調理を始めましょうか」
『頑張るでチュよ。たるうぃ』
セーフティーエリアに戻ってきた私は、手に入れてきた素材を並べ、道具の状態も確かめる。
なお、化身ゴーレムが居ないためか、ザリチュは何故か『瘴弦の奏基呪』を操って、軽快な音楽を奏でている。
まあいいか。
「まずは寄生毒の片栗粉と『ダマーヴァンド』の飢渇芋ね」
『芋は皮を剥き、茹でたものをマッシュしてあるでチュ』
では調理開始。
最初は茹でて潰した飢渇芋と片栗粉を混ぜ合わせ、練り上げ、餅のようにしていく。
そしてよく混ざり合うとともに、形を作れるようになったそれを、親指の先くらいの大きさに分割。
その後沸騰させた『ダマーヴァンド』の毒液内に投入して、茹で上げる。
茹で上がった小さな芋餅と言うべきものは、適温になるように湯の外で冷ます。
「続けて浮沈の宿借呪も茹でます」
『こちらは丸ごと茹で、茹で終わってから分割でチュね』
次に浮沈の宿借呪を同じく毒液で茹で上げ、茹で上がったそれを毒液の外に出すと、関節部分で割り、身を取り出し、取り出した身は良く解してから冷ます。
なお、浮沈の宿借呪の殻である熱拍の樹呪の根粒については、腕ゴーレムを利用して削り、別に取っておく。
「ハオマの豆、香草、垂れ肉華シダの膨葉、牛陽の竜呪の枝葉、火酒果香の葡萄呪の果実、千支万香の灌木呪の枝葉、収奪の苔竜呪の竜頭柱頭。これらも個別に茹でていきます」
『茹でてばっかりでチュねぇ』
「冷えた野菜は好きじゃないのよ」
他にも色々と茹でていく。
ただ、これらの素材は、茹でる事によって適切な状態になるまでにかかる時間がそれぞれ異なる。
また、茹でる前に枝から葉を外すべき物、細かく刻んでおくべき物、適切な大きさに手で裂くべき物など、茹でる以外の処理についてもそれぞれに異なるため、それぞれ適切に処理していく。
「皿に盛り付けます」
『一番下が葉物で、その上に他のものでチュね』
そうして適切に処理が終わった諸々を皿に盛り付けていき、見た目にも華やかで鮮やかな状態にしていく。
うん、見た目だけなら、とても美味しそうなサラダになっているし、実際に食べても美味しいだろう。
『これで完成でチュか?』
「まさか。一番重要な素材をまだ使ってないわ」
が、今回は『重石の邪眼・2』の強化が目的。
と言う訳で、黒招輝呑蛙の油を一滴、『ダマーヴァンド』の毒液とズワムの油を十分量、熱拍の樹呪の根粒を削ったもの、一部の香草を焼き刻んだもの、これらを混ぜ合わせて虹色かつぼんやりとトラペゾヘドロンが見える感じのドレッシングを作成。
そうして出来上がったドレッシングをサラダの上からかけ、サラダ全体を混ぜ合わせ、全体に満遍なく行き渡らせる。
「さあ、呪怨台に乗せましょうか」
『分かったでチュー』
では、呪っていこう。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の制御と『七つの大呪』への干渉を全開にすると共に、呪怨台へと虹色に輝く呪詛の霧が集まっていく。
「手にするを望むは、重き重き穴の底。その身にかかる力も、その身自身の重みも、その身に招く手も、皆々強め、落ちる先となる星」
呪詛の霧に灰色が混ざっていき、虹色が淡いものへと変わっていく。
そして、既に呪詛の霧は呪怨台の上に乗るサラダへと飲み込まれ始めている。
「私の重きをもたらす灰の目よ。深智得るために正しく啓け」
だから私は自分が干渉する呪詛の霧の範囲を広げ、サラダに飲み込まれて失われていく呪詛の霧を補うように、継ぎ足していく。
それはまるで巨大な星が大量のガスを吸い込んでいき、太陽となっていくようでもあった。
「望む力を得るために私は星を飲み込む。我が身を境界線の向こうへと渡し、その先を知り、その上でこの地へと帰ってくる事で己の域とする」
だが、太陽となってもなお、呪詛の霧を吸い込むことは止まらず、されど肥大化する事は無く、淡い虹色の球体は輝きを放つこともなく静止する。
燃え尽きた後だと言わんばかりに。
では、仕上げといこう。
「宣言しましょう。灰色の重き石にて作られる星よ。己の腕を広げ、絡め捕り、支配権へと招き、落とせ。thgil『重石の邪眼・2』」
各種呪法を乗せた『重石の邪眼・2』が発動。
淡い虹色の球体はその虹色を失っていき、灰色一色に染まっていく。
そして、灰色の呪詛の霧は全てサラダに飲み込まれていき、後には見た目は呪う前と変わらないサラダが残された。
では鑑定。
△△△△△
呪術『恒星の邪眼・3』のサラダ
レベル:45
耐久度:100/100
干渉力:145
浸食率:100/100
異形度:19
呪われた素材同士を和えて、出来上がったサラダ。
覚悟が出来たならば、全力を振り絞って胃の中に収めるといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
その門は全てが落ちる先であり、門の向こう側より帰れなければ、それは即ち終焉を意味するのだから。
さあ、貴様の力を以って門を閉ざせ。
▽▽▽▽▽
「さて、出来上がったわね」
『今回はどんな相手が出てくるんでチュかね? これまでは十二支に関係ある形だったみたいでチュが、『重石の邪眼・2』はたるうぃが得た13番目の邪眼術でチュから、該当する動物が居ないでチュよ』
「そうねぇ……順当に行けば、十二支の伝承に関係のある猫、あるいは十二支が元々植物の状態を示すことから植物系かしら?」
『その中だと後者っぽい感じがするでチュねぇ』
私はサラダを持つと、適当な机の上に置く。
えーと、戦闘の準備は問題なし、掲示板への書き込みも完了。
『重石の邪眼・2』ではなく『恒星の邪眼・3』なのは気になるが、まあ、問題はないはずだ。
では、挑むとしよう。
「!?」
いど……い……ど?
『どうしたでチュか? たるうぃ』
わ、私は今何を持ち上げようとしているのだろうか?
私は間違いなくサラダにフォークを突き刺した。
フォークは極普通に、小さな芋餅、ハオマの豆、千切りした香草を捉えている。
その合計重量は真っ当に考えれば50グラムも……いや、その半分もあるかどうかなはずだ。
だが重い。
まるで巨大な鉄塊を持ち上げているかのように重い。
黒招輝呑蛙の油と『重石の邪眼・2』の効果が合わさった事を加味してもなお説明が付かないほどに重い。
これは食べられるものなのか?
私の顎は、歯は、胃はこの重量に耐える事が可能なのか?
「くっ、やってやろうじゃない!!」
『す、既に戦場の顔になっているでチュ』
だが挑むほかない!
既に試練は始まっているのだ!
フレーバーテキスト通りに全力を振り絞って、このサラダを食べると言う試練を乗り越えて見せようではないか!!
「た、食べたわ……ごちそうさまでした……」
『強敵だったでチュね……』
一時間に及ぶ攻防の結果、私はサラダに勝利した。
なお、味は非常に美味であり、特にドレッシングの味が素晴らしかった。
そして、試練本番の舞台に向けて、ザリチュを外された私はゆっくりと落ちていった。




