841:スタグネイション-2
「よし、いい感じに固まったわね。では、『飢渇の邪眼・3』」
容器から慎重に毒液を取り除くと、その底には薄緑色の塊が溜まっていた。
触ってみると柔らかく、けれど切り出せる程度には硬かった。
と言う訳で、よく乾かした布の上に塊を取り出し、そこへ『飢渇の邪眼・3』を撃ち込んで乾燥させる。
「邪眼術を使ってよかったんでチュか?」
「流石に自然乾燥で待ってはいられないもの。楽を出来るところは楽をするべきよ」
すると塊は崩れ、粉となっていく。
私は布をまとめる事で粉を回収すると、それを呪怨台に乗せて呪う事で、素材としての性質を安定させる。
で、それから鑑定をしてみた。
△△△△△
寄生毒の片栗粉
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:140
浸食率:100/100
異形度:19
寄生の片栗呪の鱗茎から作られた片栗粉。
液体によく溶け、溶けた液体にとろみを付けるが、量を間違えると固まってしまう。
固まり方によっては復活の可能性もあったのかもしれないが、完璧な下処理によってその可能性は潰えている。
精製の過程に毒物があったためか、若干の毒性を持つ。
▽▽▽▽▽
「よし、問題なく出来たわね」
「でチュね。毒は今更でチュ」
うん、いい感じに出来上がった。
大切に使うとしよう。
「で、結局これで何を作るんでチュ?」
「んー、邪眼術の習得には繋げたいのよね」
「あ、考えてなかったでチュああああぁぁぁ!?」
とりあえずザリチュは抓る。
それはそれとして、何に使おうか?
粘り強さと言うか、しつこさと言うか、そう言うのを強化する素材としては良さそうではある。
邪眼術的には『淀縛の邪眼・2』と相性が良さそうなのだけれど、これだけでは駄目だろう。
「もう一つ未知の素材と言うか、習得に繋がる素材が欲しいところよね。泡沫の世界を巡るか、第三エリアを目指すか、マントデアが呪限無を作ったという話もあったようななかったような……何かどれも違う感じね」
「今まで準備が整ってなくて行けなかった場所とかないんでチュか? ムミネウシンムが居る場所に呪限無への入口があるとか聞かなかったでチュか?」
「あるわね。でもムミネウシンムはちょっと……」
竜たちの素材が思った以上に微妙だった以上、アレについては補助的な素材としか使えないだろうし、他に何かを用意する必要がある。
しかし、今までに行った場所に心当たりはなく、泡沫ガチャはちょっとと思うところ、かと言ってただでさえ手一杯なのにこれ以上探索場所を広げるのもどうかと思う。
今までに準備不足で行けなかった場所と言うと、ムミネウシンムが居る場所の奥だろう。
が、あそこに行くならムミネウシンムとの戦いは必須であり、アレを刺激をするのはちょっと遠慮しておきたい。
他に行ったことがない場所か。
「ふうむ……」
私は少し考えていく。
とりあえず『淀縛の邪眼・2』を強化するならば、喉枯れの縛蔓呪を狩る必要はあるだろう。
あそこは飢渇の泥呪が飛び交う影響で、乾燥の状態異常が付与される場所だが、ザリチュが先日の改良で乾燥の完全無効化を得ていたので、乾燥はもう問題ない。
で、あの泥呪の海は『熱樹渇泥の呪界』の底であり、荒れ狂う砂の海は物理的な脅威を伴うのだが、それについては注意を払っておけばどうとでもなるだろうし、なんなら『竜活の呪い』で干渉力を上げ、『熱波の呪い』で当たり判定を有するようにした呪詛の殻を生成、展開すれば、無理矢理に潜っていくことも……。
「あ、一か所思いついたわ。準備が整ってなくて行けなかった場所」
「何処でチュか?」
「『熱樹渇泥の呪界』の底よ」
「……チュア? 何処でチュかそこ……」
「底だけに?」
「いや、ギャグでもなんでもなく理解が及ばないんでチュが」
うん、行ってみる価値はありそうだ。
と言う訳で、ザリチュにもそこが何処かを説明。
するとだ。
「あー、確かに行ったことはないでチュね。行く価値もありそうでチュ」
納得はして貰えた。
「でも『理法揺凝の呪海』からは入れないんでチュか?」
「ちょっと試してみましょうか」
なお、試してみたところ『理法揺凝の呪海』からは入れなかった。
どんなに狙っても、飛び交う泥呪の量が一定量以下の範囲までしか、入り口は下げられなかった。
どうやら何かしらの制限がかかっているらしい。
やはり行く価値はありそうだ。
「えーと、念のために眼球ゴーレムを一体此処に置いておきましょうか」
「分かったでチュ」
「後、化身ゴーレムは留守番で」
「まあ、二人分の防御をする余裕はなさそうでチュしね」
では、緊急脱出用に用いる『転移の呪い』のポイントとして眼球ゴーレムのセーフティーエリア内に置いておき、向かうとしよう。
『今更でチュが、灼熱の完全無効化と火炎属性の強力な無効化があれば、太陽の方にも飛んでいけそうでチュよねぇ』
「そっちはきっとだけど、ネツミテの強化完了後でしょうね。まあ、今はこっちよ」
私は久しぶりに『熱樹渇泥の呪界』に入ると、ズワム素材を求めてか賑わっているプレイヤーたちを横目に降下。
とりあえず泥呪の海の海面で喉枯れの縛蔓呪をサクッと狩り、その場で解体して必要なアイテムを回収しておく。
「では行くわよ」
『分かったでチュ』
「『竜活の呪い』、『熱波の呪い』」
そして私は適当な竜呪素材で『竜活の呪い』を発動して変身し、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』も混ぜ込んで虹色に燃え盛る呪詛の殻を自分の周囲に展開すると、ゆっくりと飢渇の泥呪の海の中へと潜り始めた。