840:スタグネイション-1
「さて、早速処理していきましょうか」
「時間がかかると言っていたでチュねぇ。どれぐらいかかるんでチュか?」
「さあ? 正確な時間まではちょっと分からないわね」
『ダマーヴァンド』に戻ってきた私は寄生の片栗呪の鱗茎から片栗粉を精製する事を早速始める。
「刻んで、すり潰して、毒液を注いでっと」
と言っても、そこまで難しい作業ではない。
寄生の片栗呪の鱗茎を細かく切り刻み、切り刻んだそれを粉状になるまで挽く。
それから適当な容器に粉を入れて、容器の中にたっぷりの毒液を注ぎ、かき混ぜ、自然に沈殿するのを待つ。
とりあえずはこれだけだ。
「待つでちゅ。たるうぃ。前二つは問題ないでチュが、最後がおかしいでチュ。なんで当たり前のように『ダマーヴァンド』の毒液を注いでいるんでチュか。綺麗な水を用意するべきじゃないんでチュか?」
「え?」
「チュア?」
と、そこまで作業したら何故かザリチュに突っ込まれた。
「嫌だって、最終的な用途を考えたら、どうせ毒液に混ぜるようなものだし、綺麗な水の準備とか面倒くさいし、カース素材なんだからこれぐらいの毒なら問題ないと思うけど?」
「いやいや、ちゃんとした精製なら、ちゃんとした工程を踏むべきだと思うでチュよ。綺麗な水だって、魅了の眼宮で探せば、飲める水ぐらいはあると思うでチュよ。後、カース素材でも今のたるうぃの影響を受けている毒液はヤバいと思うんでチュが……」
「大丈夫そうだから問題無いわ」
「ソーデチュカー」
私がザリチュの言葉に返し、ザリチュが私の言葉にさらに返している間に、容器の中では順調にデンプンの沈殿が進んでいく。
と言う訳で、一度毒液を交換するべく、毒液ごと浮いていた余計なものを排除し、容器の底に少しだけ緑色が付いた白い物体を確認。
それから再び毒液を入れ、撹拌、放置。
「これ、何回ぐらい繰り返すんでチュか?」
「んー……三回か四回はやるべきだとは思うのよね。あ、放置時間はだんだん伸ばすわ」
「本当に時間がかかりそうでチュねぇ……」
「だからそう言ったじゃない」
さて、とにかく時間がかかる作業であるが、ただただ待つしかない作業でもある。
なので私は竜たちの死体の解体を始める事にする。
「……。所詮はモンスター、なのかしらねぇ……」
「所詮はモンスター、なんだと思うでチュよ」
「あのタル様、竜をただのモンスター扱いは流石にどうかと」
「でもタルが言いたいことも分かるわね。竜呪たちや収奪の苔竜呪と比べると……一段落ちる感じがあるわね」
で、解体をした。
竜の死体は六体分あったわけだが、解体そのものは簡単なものだった。
それは、ちょうど気絶の眼宮の収奪の苔竜呪を撃破し終えたザリアたちが合流し、素材の一部を渡す条件で手伝ってくれたと言うのもあるし、戦いながらの解体で経験を積んだザリチュが手際よくやってくれたと言うのもあるし、『呪法・増幅剣』付きの『出血の邪眼・2』が通用したというのもある。
そして解体が終わった以上は鑑定もしていくのだが……なんというか、期待外れの結果だった。
「いやお前ら、そこまで微妙でもないからな。タンク的にはデメリットなしに属性と状態異常の耐性が付けられるのは大きいぞ」
「……。同意する。個人的には収奪の苔竜呪の素材よりもこちらの方が都合が良さそうだ」
「弱いとか微妙とかは言ってないわよ。所詮とは言ったけど」
「たるうぃもざりちゅも防御面は重視してないんでチュよ」
マントデアとロックオの言う通り、属性と状態異常の耐性を付ける素材としては竜たちの素材は有用だった。
と言うのも、毒竜の素材であれば毒耐性を、灼熱竜であれば火炎属性と灼熱を、と言うように、対応する属性と状態異常に対する耐性は非常に高いものがあるからだ。
流石に完全無効化ではないが、毒ならば4桁くらいまでは問題のない範囲に抑えられるだろう。
そして、それだけの性能を持ちつつ、デメリットの類が見受けられないのだから、確かに弱くはない。
ただ、私の期待を上回れないだけなのだ。
「肉の方は……モグモグ。高級鶏肉?」
「確かに鶏っぽくはあるわね。美味しい」
一番美味しかったのは肉だろうか? 食材的な意味でだが。
なお、肉を食べても『劣竜式呪詛構造体』に変化は見られなかった。
この竜たちはモンスターであってカースではなく、故に体の構造もまた違うと言う事だろうか?
とりあえず肉と脂身、それに柔らかめの鱗や角も少々貰っておくか。
「じゃあ、後は適当に分配で」
「ヒャッハー! モノホンの竜肉で収奪の苔竜呪討伐パーティだ!!」
「楼主様ー……私も適当に貰っていいですかー?」
「いいわよー」
余談だが、気絶の眼宮の収奪の苔竜呪討伐だが、接近戦を挑み、マントデアと言う保険を用意した上で全員でカウンターに専念することで討伐したらしい。
超高威力、見てから避けられない電撃ブレスは厄介だったが、それもこれまでに強化を重ねてきた盾役数人がかりなら問題なく抑えられたようだ。
「ちなみに奥地は?」
「無理」
「虎絶の引き寄せが外道」
「隊列が意味をなさない」
「タルさん、あなたは何故自重しなかったのですか……」
ちなみに気絶の眼宮から行ける奥地だが、仕様的には恐怖の眼宮から行けるものと同じであり、試練仕様の虎絶の竜呪が酷くてどうしようもなかったようだ。
「さて、片栗粉の方はどうなったかしらねー」
「駄目だ自重する気がない!」
「当たり前だろ、タルが自重するはずがない」
「自重してたらこんなダンジョンが生まれているわけがないんだよなぁ……」
まあ、私にはもはやどうにも出来ない案件なので、スルーで。
「片栗粉……じゃがいもは……飢渇芋があったわね」
「でも、聞いている感じ別物っぽいですよね」
「……。いったい何を作る気だ」
「さあ、ざりちゅにも分からないでチュ」
とりあえずは片栗粉の完成を目指すとしよう。
と言う訳で、私はそちらの方へと戻った。




