839:バブルホールD-4
「ガダァ……ガダァ……」
「なるほど。ひげ根を糸のように……いえ、神経のように全身に張り巡らせ、筋肉を動かすことで、死体を操っていたのね」
「毒竜自身の内臓はほぼ完全に食われている感じでチュねぇ」
ザリチュによるドラゴン解体ショーは順調に進み、寄生の片栗呪が巣くう毒竜の死体は、今や胴体と頭だけになり、残された胴体と首も大半の筋肉を削ぎ落されており、悲しく呻く事しか出来なくなっていた。
まあ、それ自体は寄生の片栗呪が敵なのでどうでもよいとしてだ。
「グリィ……ググリィ……」
「残っているのは肺と……ブレス関係の器官かしら?」
「恐らくはそうでチュね。で、残りは地下茎でチュね」
毒竜の死体の体の内側は、肉と骨を除くとほぼほぼ丸々と太った白い根っこの塊、地下茎や鱗茎と呼ばれる部位で埋め尽くされており、毒竜自身のものと思しき内臓は脳も含めてほぼない。
そしてこの鱗茎だが、どうやら毒竜の内臓を喰らったこともあって、大量の呪いを蓄えており、まだ素材になっていない状態でも回収、加工、使用が出来れば、とても良いアイテムになる事を予感させる品質になっている。
「で、どう回収するでチュ? 流石に生きている間にもぎ取るのは危険でチュよ」
「それは分かってるわよ。名前からして寄生能力持ちだし、今は悲しく呻いているだけだけど……機会を伺っているようにしか見えないし」
「ガダグリィ!?」
まあ、これほどまでに高品質なのは、自分の寄生範囲を広げるためなのだろう。
現実の寄生生物の中には宿主の体を操って、次の宿主に食わせるものも居るのだし、寄生の片栗呪が同じことを出来ても何らおかしくはない。
今の自分より弱い相手なら食って自分の力にする、今の自分より強い相手なら内側から蝕んで自分のものにするムーヴは寄生系の鉄板にして、王道。
警戒して損はないだろう。
「んー……喉は……ここら辺かしらね?」
「喉……まあ、そこら辺じゃないでチュか? 鳴き声を上げている以上、喉はあるはずでチュし」
「ガダァ!? ガダグリィ!?」
問題は寄生系であるが故に、何処まで破壊したり攻撃すれば安全になるかが、非常に読み取りづらい事か。
最悪の場合、ひげ根一本からでも寄生を開始して、乗っ取れるかもしれないと考えると……まあ、確実に仕留める手段を使うべきだろう。
「宣言するわ。寄生の片栗呪、貴方を沈黙の断頭台に上げてあげる。ysion『沈黙の邪眼・3』」
「ガダグリイイイイイイイイイイイィィィィ!?」
と言う訳で、私は呪詛の剣を生み出すと、それを寄生の片栗呪の花の根元に向けて正確に振るい、刃が重なったタイミングで伏呪付きの『沈黙の邪眼・3』を発動。
大量の沈黙が付与されたことによって伏呪が起動。
寄生の片栗呪が毒竜の口で叫び声をあげ……
花が散った。
「よし、それじゃあ、ひげ根を焼きつつ回収するわよ」
「必要なんでチュか?」
「念のために徹底するわよ。鱗茎以外は要らないわ」
「分かったでチュ」
戦闘不能付与……要するに即死が入ったので、寄生の片栗呪はほぼ間違いなく死んだ。
表に出ている花部分だけでなく、鱗茎の方に至るまでだ。
それは呪いの動きから見ても間違いないだろう。
が、念には念をと言う事で、ザリチュが鱗茎を毒竜の死体から取り出して切り分け、おおよそのひげ根を切り落とした後、『風化-活性』付きの『灼熱の邪眼・3』を慎重に撃ち込むことによって、ひげ根を徹底的に排除していく。
それと毒竜の死体の方も、念のために焼いておく。
「ふぅ、解体完了ね」
「結構かかったでチュねぇ」
そうしてようやく寄生の片栗呪の真っ白……ではなく、基本は白だが、一部に血がしみ込んだ跡が見受けられる鱗茎が取り出せた。
では、鑑定してみよう。
△△△△△
寄生の片栗呪の鱗茎
レベル:40
耐久度:87/100
干渉力:140
浸食率:100/100
異形度:17
寄生の片栗呪の根っこ。
大量の呪いと栄養を蓄えこんでおり、とても魅力的に見える。
だが安易に手を……本来ならば、この根っこを迂闊に取り込んだものが居れば、それが竜であっても体を乗っ取る事で復活出来たのだろう。
しかし、徹底した処理によって、既に復活する可能性は潰えている。
▽▽▽▽▽
「よし」
「徹底した処理をして正解だったでチュねぇ」
やはり徹底して正解だったらしい。
恐らくだが、ひげ根を残したままだったら、復活の可能性があったに違いない。
「それじゃあ一回帰りましょうか」
「材料がそろった感じでチュか?」
「んー、揃ってはいないわね。けど、これを使えるように精製するには結構な時間がかかるはずなのよ。だからそっちのために一回帰る感じね。後、竜たちの死体を処理したいというのもあるわ」
「なるほど分かったでチュ」
手に入った寄生の片栗呪の鱗茎は個数にして10個ちょっとだが、重さにすると100キロを優に超えている。
これを精製すれば……まあ、どれだけ精製効率が悪くても、必要分くらいは手に入るだろう。
と言う訳で、私たちは手近な結界扉に向かい、『泡沫の大穴』を一度脱出した。
02/28誤字訂正




