835:エヴィカ-2
「いやぁ、昨日は思った以上に時間がかかったわね」
「でチュねぇ……」
翌日金曜日。
『CNP』にログインした私はいつもの作業を終えてから、エヴィカの様子を見に行く。
「エヴィカ、調子はどう?」
「良好ですねー」
エヴィカは書類仕事をしていた。
どうやら、聖女ハルワからもらった書類が本物であるかどうかを確かめ、本物であるならば進入許可を出し、偽物であれば弾くつもりであるらしい。
尤も、現状では偽物は存在しないようだが。
で、肝心の手際はかなりの素早さであり、横でその様子を眺めている検証班の陰険ドロイドたちや、『虹霓鏡宮の呪界』に向かうプレイヤーたちはその処理の速さにかなり驚いているようだった。
「でも、こちらをどうぞー」
「ふむふむ」
と、ここでエヴィカから一つのファイルを渡される。
どうやら聖女ハルワ発行の本物の書類を出したものの、何かしらの理由でもって進入許可が出なかった、あるいは一度は出したが、その後許可を一時停止したプレイヤーの書類が収められているようだ。
「ふーん……」
「どれどれでチュ?」
書類の空きスペースには、この書類のプレイヤーがどういう問題を起こしたのかが事細かに書かれている。
内容としては……軽度のものであれば、プレイヤー同士での揉め事、殴り合い、宴会後の片づけをしなかった、私に対する愚痴などの問題行為。
重度のものだと、ハオマに驚いて切りかかった、エヴィカに言い寄った、魅了の眼宮で妓狼の竜呪に言い寄った、眼宮内で他プレイヤーに背後から襲い掛かった、と言うところのようだ。
「この辺に対する処分権限と言うか、明確化は必要そうね」
「でチュね。この手の話は曖昧にしておく方が問題でチュから」
「ですねー……明確にしてもらえると助かりますー……あ、確認自体は今後もお願いしますねー」
さてどうしたものだろうか?
プレイヤー同士の揉め事や殴り合いについては、『ダマーヴァンド』の設備を壊すような事にならなければ、好きにするか、運営に任せていいと思う。
こちら側でやるのは、せいぜいが外でやってくれと言う意味での強制退去ぐらいだろう。
プレイヤーの中には荒くれ者に分類するべきものだって居るのだから。
片づけをしなかった、これについては残した物品を使って適当に呪ってやる……のは最終手段として、リアル時間数日の立ち入り禁止でいいか。
私に対する愚痴、どうでもいい、無視。
ハオマに驚いて攻撃、初見なら仕方がないと思うので、掲示板への注意喚起をすると共に、一度目は注意だけで済ませればいいか。
二度目なら永久退去で。
エヴィカに言い寄ったは……エヴィカが注釈ですごく気持ち悪かったとか言っているので、永久退去でいいだろう。
見知らぬプレイヤーの利益よりエヴィカの精神状態の方が大切なので。
後、こいつについては聖女ハルワにも連絡を入れておこう。
危険人物だし。
魅了の眼宮での件はアカ・マナフによる殺処分済みなので、繰り返さなければ気にしなくていい。
繰り返すなら、何をしたか次第だが……まあ、魅了の眼宮内なら、邪火太夫がペナルティを与えればいいだけだと思う。
眼宮内で他プレイヤーに攻撃、知らない、手を出した時点で反撃してぶっ殺すぐらいの気持ちで行きましょう。
「とまあ、こんなところね」
「分かりましたー……ふふふー……、ざまぁー」
「まあ、妥当なところだと思うでチュ」
と言う訳で、処分決定。
私の決めた内容通りにエヴィカが書類を処理していく。
永久退去のプレイヤーについては別のファイルに入れられた。
ちなみに聖女ハルワ曰く、この書類は前に作ったものが存在する限り、同じプレイヤーが同じ場所に対する書類を作る事は出来ないとのこと。
つまり、このファイルの中に書類がある限り、次は絶対にないのである。
「ちなみにエヴィカ。現在の許可プレイヤーの数は?」
「んー……許可だけなら五百人ちょっとー……でも、実際に今潜っているのはー……百人未満ですねー」
「なるほどね」
五百人か……その五百人が装備を整え、全員まとまって奥地に進むなら、流石に勝負になると信じたい。
信じたいが……うーん。
とりあえず奥地に挑むのは、この分だと許可を出したプレイヤーの数は千人を超えて以降だろう。
掲示板で呼びかけたところで、許可があるプレイヤー全員が集まることなどありえないのだし。
「ま、私は私でやるべき事をやるべきね」
「やるべき事でチュか。邪眼術の強化でチュね」
「ええそうよ」
さて、私の持つ邪眼術の内、まだ参の位階に到達していないのは五つ。
『出血の邪眼・2』、『小人の邪眼・2』、『淀縛の邪眼・2』、『石化の邪眼・2』、『重石の邪眼・2』だ。
この内『石化の邪眼・2』については可能ならばムミネウシンムの素材を関わらせたいから後回しにするとしてだ。
他の素材はさてどこで手に入れたものだろうか?
「まあ、やはりまず行くべきは『泡沫の大穴』かしらね。あそこで素材が入手できないなら、色々と考えないといけないでしょうし」
「でチュか」
「いってらっしゃーいー」
まあ、こう言うのは可能性が高い場所から探してみるのが妥当であり、イベントの私の森との関係から元々行くべき場所でもある。
と言う訳で、私はザリチュとともに『泡沫の大穴』へと転移した。




