749:5thナイトメア3rdデイ・タルウィハング・3-3
「「「ディルゥ……」」」
「動きが少し遅くなったでチュか?」
「そうね。そんな感じがするわ」
伏呪付きの『飢渇の邪眼・2』によってミイラ壺に与えた状態異常は乾燥(147)。
伏呪も付いているので、この状態でダメージを与える事が出来れば、普段よりも多大なダメージを与えられることになるだろう。
だからザリチュはミイラ壺に駆け寄り、切りつけようとする。
対するミイラ壺は明らかに動きが鈍く、ザリチュの攻撃はギリギリで命中し、伏呪の効果によって剣の刃が掠った部分で炎が燃え上がる。
「ディルルルルゥ!」
「チュアっと。さっきまでより格段に避け易いでチュねぇ」
ミイラ壺が反撃の体当たりを仕掛けてくる。
弧を描き、まるで巨大な何かがザリチュの居る場所ごと薙ぎ払うような動きだった。
だが、先ほどよりも動きが遅い事もあって、ザリチュは難なく攻撃を避けた。
「乾燥で動きが遅くなる、ね。やっぱりそういう事なんでしょうね」
さて、当たり前の話ではあるが、乾燥と言う状態異常そのものに相手の動きを鈍らせる作用はない。
体内の水分が抜け、副次的に動きが鈍る事はあるかもしれないが、今私たちの目の前で起きている現象とは全くの別物だろう。
つまり、ミイラ壺には乾燥の影響を受けて、動きが鈍る要素があると言う事だ。
「ザリチュ」
「なんでチュかたるうぃ? ざりちゅは避け易くなっている間に相手の動きを見定めたいんでチュけど」
「「「ディルゥ! ルィ! ルゥ!!」」」
ミイラ壺はザリチュに向かって連続で攻撃を仕掛けている。
何度も体当たりを仕掛け、先ほどのサンドブレスも行っている。
が、そのいずれもザリチュには当たらず、攻撃後の隙を突く事でザリチュは少しずつダメージを重ねている。
「悪いけど、少し敵の動きが激しく、あるいは速くなるかもしれないわ」
「……。必要な事なんでチュね?」
「ええ、確実な勝利には必要よ……おっと」
「「「ディルルルルルルゥ!!」」」
うん、このまま進めれば難なく倒せるかもしれないが……ミイラ壺の正体についてはきちんと明らかにしておいた方がいい予感がする。
と、そんな話をしていたら、ミイラ壺の攻撃が私の方にも来た。
乱回転しながら突っ込んできて、私がそれを避けると、私が居た場所で乱回転しながら爪と牙を振り回して地面ごと周囲を削っていく。
そして、乱回転が止まると同時に伸ばされていたゴムが戻るような勢いで空中に飛び上がっていく。
「そんな訳だから仕掛けるわ。『毒の邪眼・3』」
「「「!?」」」
私は目一つ分の『毒の邪眼・3』をミイラ壺に仕掛ける。
私の目から深緑色の光が放たれ、ミイラ壺の体内に毒の液体が生じた、状態異常としては呪法を一切使っていない事もあり毒(65)程度。
しかし、ミイラ壺の反応は……劇的だった。
「「「ディルゲボアッ!!」」」
「うわっ、何でチュかこれ……」
「あー……これはちょっと予想外ね」
ミイラ壺の体……一つだけある穴から深緑色の霧が立ち上っていく。
深緑色の霧は巨大な手となってミイラ壺の体を掴んでいた。
手からは当然のように腕が伸びていく。
ただ、生物の腕ではなく、骨だけの腕だ。
で、此処まではミイラ壺の挙動が、まるで誰かがミイラ壺を持っていて、それを振り回しているような動きだったので想定内だった。
想定外なのは此処から。
「人間でチュか?」
「んー……類人猿の骨格としか私には言えないわね」
深緑色の霧は腕を構築した後、その先にある物の姿も露わにする。
そこに居たのは、巨大な……背を丸め、膝を曲げている状態でもなおマントデア並みのサイズがある、類人猿と思しき生物の全身骨格。
ただし、その頭はドラゴンのそれであり、立派な角は天を衝き、瞳の無い眼窩は私の方へと向けられ、長い尾はゆっくりと蠢いていた。
簡単に言い表すならば、巨大骨竜人、敢えて横文字で示すなら、ヒュージドラゴニュートスケルトン、と言うところだろうか。
まあ、どちらも本質からは遠いと思うので、私は霧骨巨人と呼ぶが。
「「「ディルアッ!!」」」
「跳んだでチュ!?」
「あー、やっぱりアクティブになるのね……」
霧骨巨人が跳ぶ。
その巨体からは想像もつかない俊敏さで、少なくとも20メートルは跳び上がった。
そして、その手に持ったミイラ壺を天高く振り上げ、落下の勢いも乗せながら振り下ろす。
狙いは……私か。
「ytilitref『飢渇の邪眼・2』!」
「「「!?」」」
私は『飢渇の邪眼・2』をミイラ壺に向かって撃ち込みつつ、その場から退避する。
乾燥が付与されると共に、霧骨巨人の姿は見えなくなっていく。
だが、霧骨巨人の落下スピードも、ミイラ壺の振り下ろしスピードも、乾燥の付与によって明らかに遅くなったために避けるのは容易かった。
そして、ミイラ壺が振り下ろされ、周囲にサンドブレスが吐き出された切ったところで、ザリチュが攻撃を仕掛けてダメージを与える。
『で、結局コイツの正体は何なんでチュか?』
で、ザリチュから化身ゴーレムの口を介さずに質問が来たので、分かっている範囲で答えておく。
「ミイラ壺は水分を集める部位であり、モチーフは東洋系の龍が持つ珠かしらね。で、巨人の方はミイラ壺が集めた水分によって構築される水蒸気の竜人、と言うところでしょうね。だから水分を得れば得るほど動きが速くなり、水分が失われ過ぎると動きが鈍くなるんでしょうね」
『なるほどでチュ。となるとミイラ壺を倒せば終わりでチュか?』
「そこが微妙なところなのが困りものなのよね……まあ、試すしかないわね」
「「「ディルルルルルルゥ!!」」」
正体が明らかにされたためだろうか、ミイラ壺が吠え、ミイラ壺の位置と動きからして霧骨巨人も咆哮するような動きを取った。
「「「ディルアッ!!」」」
「たるうぃ!」
「分かってるわ」
そして推測だが、霧骨巨人は私に向かってミイラ壺を投げてきた。