747:5thナイトメア3rdデイ・タルウィハング・3-1
「で、原因は明確でチュけど、一体何がどうなればあんな事になるんでチュかね?」
「流石に理屈までは分からないわね。原因は明らかだけど」
セーフティーエリアに戻った私たちは先程起きた現象について話し合う。
と言っても。あの三人が死んだ理由については明らか。
異形度26である私の姿を直視して発狂、それによって死んだのだ。
「とりあえず私はもう一般NPCの前には間違っても姿を現わせないわね。今回は相手がクズぽかったからいいけど、無辜の民に対して同じような振る舞いをするのは、止むを得ない限りはしたいと思えないわ」
「でチュねぇ」
異形度26を目撃した程度でNPC……それも自身の異形度も上がっていたり、呪限無の化け物との戦いで異形の存在に慣れているであろう騎士が、あっけなく死ぬのか? と言う疑問はあるかもしれない。
だが、彼らにしたって普段目にしているのは異形度20前後であり、異形度26は完全に未知の領域。
しかも私の場合は呪憲と言う周囲のルールを場合によっては書き換える事がある呪いも保有している。
おまけに一時的なものではあるが、私は異形度40に至った経験もあるカースだ。
これらの要因が絡み合った結果が……まあ、あの何かしらの電波を受信してからのスプラッタな死に様であり、『泡沫の大穴』で見かけたものによく似た環境の生成なのだと思う。
まあ、いずれにしても確かなのは、私が今後聖女ハルワ以外の人間NPCの前に姿を現す場合は、相手が死ぬ可能性が高いという事実を理解して、姿を現わせと言う事だ。
うん、ステルス機能があったとしても、やっぱり私はもう姿は現せないな。
「で、ザリチュ。固形化の壺の方は?」
「いい感じ……いい感じなんでチュかね? これは」
「ん? どれどれ……」
さて、外に生じてしまった森についてはまた後で対応するとしてだ。
私が外に出た理由である固形化の壺の状況を確認しよう。
固形化の壺の中身は透明なジェルのようになっている。
だが、このジェルはかき混ぜるのを止めると自然とトラペゾヘドロンの形状を取るようで、実に不思議な事になっている。
と言うかだ。
「『飢渇の邪眼・2』の強化が少しぐらい出来るかと思ったのだけれど、これなら参の位階に踏み込めそうね」
「でチュねぇ。と言うか半端な強化で終わらせるつもりだったんでチュか。たるうぃ」
「だって、あり合わせの物で作ったような物だもの。参の位階にまでたどり着けるとは思っていなかったわよ」
うん、これなら参の位階にまで強化できるだろう。
と言う訳で、私は固形化の壺からかき混ぜ用として使っていた槍を引き抜くと、壺ごと呪怨台に乗せることにした。
「私は第三の位階、神偽る呪いの末端に触れる事が許される領域へと手を伸ばす事を求めている」
いつも通りに呪詛の霧が集まってくる。
だが折角なので呪憲による干渉も試みて、私にとって都合のいい形に整えていく。
「生み出すは渇きの力。気づかぬうちに死を招き寄せ、手繰り寄せ、本能のままに生を喰らい、焼き尽くして灰燼と化す。見えざる輝き。歪みの光」
呪詛の霧が見えなくなる。
しかし、消え去ったわけではない。
無色透明になって、固形化の壺が乗る呪怨台の周囲に漂い、空気を乾燥させつつ幾何学模様を描いている。
「私の乾燥をもたらす無色の目よ。深智得るために正しく啓け」
空気が歪む……否、空間が歪む。
セーフティーエリア内の安定しているはずの空間が膨張と収縮を繰り返して、複雑怪奇な幾何学模様が描かれては消失していく。
「望む力を得るために私は砂漠へと旅立つ。我が身を以ってこの世非ざる砂漠を知り、火の香りを嗅ぎ、飲み込んで己の力とする」
呪怨台の上の空気が大きく歪む。
一度大きく膨らみ、不気味な振動を伴いつつ何度かの段階に分けて収縮し、固形化の壺の中に入っていく。
壺の輪郭も歪んでは戻る。
「宣言、見えざる渇きの星と蔓よ。一滴の希望も許さず吸い込み焼け。ytilitref『飢渇の邪眼・2』」
そして壺の輪郭が正しくなった一瞬を狙って、伏呪付きの『飢渇の邪眼・2』を発動。
固形化の壺は透明な蔓に覆われ、押し潰され、そして呪怨台の上にはトラペゾヘドロン型の透明で完全に固まった塊だけが残った。
では、鑑定。
△△△△△
呪術『飢渇の邪眼・3』の香晶
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:10
良い香りを漂わせる透明な結晶体。
覚悟が出来たならば、火を点けて匂いを放つといい。
そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
だが、心して挑むがいい。
見えざるものを見て対処する事を前提として、門は聳えているのだから。
さあ、貴様の力を私に見せつけてみよ。
▽▽▽▽▽
「出来上がったわね。でもこの数字は……」
「レベルと異形度については信用しない方がいいと思うでチュよ。素材が素材でチュし」
「まあそうよね」
とりあえず目的の物は問題なく出来た。
これで後は、これに火を点ければ試練が開始になるらしい。
えーと、私の準備については問題ないか。
掲示板には……一応書き込んでおくか。
で、五分くらいは待っておこう。
「じゃ、始めましょうか。『灼熱の邪眼・3』」
「分かったでチュ」
そして五分後。
私は呪術『飢渇の邪眼・3』の香晶に火を点けた。
炎は直ぐに結晶体全体へと広がり、セーフティーエリア全域に良い匂いが満ちていく。
やがて私の視界は白く塗り潰されていった。
12/04誤字訂正
12/05誤字訂正