602:4thナイトメア4thデイ・タルウィテラー・3-4
本日は五話更新になります。こちらは三話目です。
「ベゴッポベゴッポベゴッポ……」
はい、多頭竜の首の一本から上空に向かって墨の塊が吐き出されました。
吐き出された墨の塊はこの後どうなるでしょうか?
「支援砲撃による足止めと七門の主砲とか、流石の殺意過ぎて泣けてくるわね……」
勿論、降ってくる。
途中の空間に墨による煙幕を残しつつ、地面に着弾。
墨が触れている範囲全てに重症化するレベルの干渉力低下を付与しながらだ。
「「「ゲゲゲニャアァァ……」」」
「でも、これなら対処の仕方は分かるわ」
もしも、此処で墨に触れてしまえば、その後に続く墨の水圧カッターは当然避け切れず、死亡確定。
また、墨に触れなくても、このまま遠距離を保ち続ければ、墨による視界制限で続く攻撃の発射タイミングが読み切れずに直撃の可能性が上がるし、墨はある程度の時間残り続けるので、逃げ場が狭まる。
よって、私は上空に一部の目を向けて、何処に墨が降ってくるのかを確認しつつ、多頭竜に全速力で向かっていく。
「さあ、墨カッターの準備中に切れるだけ……」
「「「メギョガ……」」」
また、呪詛チャージ中の多頭竜はどう見ても隙だらけであるため、攻撃のチャンスでもあった。
だから私は攻撃の為にも多頭竜に接近しようとしていた。
そして、多頭竜まで後数メートルにまで迫った時だった。
呪詛チャージをしている七本の首の内、三本が呪詛チャージを止めて、地面に顔を近づける。
その動きに私は多頭竜の新たな攻撃を警戒した。
「「「メメメメメッ!」」」
「はあっ!?」
次の瞬間、多頭竜は接地した首を巧みに使って素早く後退、私が接近し始める前と同じ程度の距離が生じる。
その移動スピードは私の移動スピードよりも明らかに速く、追いつける可能性はない。
勿論、この後退中にも支援砲撃の墨も、墨カッターの準備も進められており、私と多頭竜の距離が元に戻ったことで……。
「支援砲撃の中での回避を強要するとか、性格が悪い……」
「ベゴッポベゴッポベゴッポ……」
支援砲撃は再び注意を払うべき対象になった。
「「「メギャアアアァァァ!!」」」
「わねっ!」
そして、墨カッターも放たれる。
私は瞬時に周囲の状況を判断し、ほぼ反射で以って横方向へと足を使って跳躍。
同時に、私が居た場所を正面から貫くように墨カッターが通り過ぎていく。
私は背中の翅を動かし、横方向への移動ベクトルを残しつつ前方向に移動。
直後、そのまま横方向に移動していたら居たであろう場所に墨の砲撃が落ち、私の眼前を二本目の墨カッターが通り抜けていく。
私は錫杖形態にしたネツミテを素早く地面に叩きつけ、その反動で浮き上がる。
同じタイミングで、三本目の墨カッターが地面すれすれを抜けていく。
『熱波の呪い』によって当たり判定を有する呪詛の鎖を私の体に巻き付け、それを巻き上げる事によって、これまでの移動ベクトルの全てを無視して、斜め前の地面に向かって私を引きずり下ろす。
それに合わせて、対空砲撃を狙って放たれていた墨カッターが空中で黒い直線を描いた。
「ふんっ!」
「メギョォ!?」
「「「メゲニャアッ!?」」」
そうして全ての攻撃を避け切った私は、ネツミテを指輪に戻しつつ、クラウチングスタートよりもなお低い姿勢で地面を蹴って多頭竜に接近。
首の一本に『熱波の呪い』による呪いを大量に纏う事で、黒い炎が巻き付いているようにも見える鼠毒の竜呪の歯短剣を鍔が相手の体に触れるほどに深く突き刺す。
「離脱!」
「「「メギョアアァァ!」」」
直ぐに反撃として、七本の首が私に噛みつこうとしてくる。
なので私は多頭竜の体を蹴りつけて短剣を引き抜き、足、翅、鎖の三つを使って素早く後退。
「からの追撃!」
「メギョォ!?」
そして七本目の首が私の目の前の地面に噛みついたところで、その場で回転、遠心力を乗せた短剣で切りつける。
「おまけっ!」
「メゴガアァ!」
更に呪詛の剣、槍、錘と言った物体を傷口に向かって叩き込みつつ、私自身は多頭竜の胴体に向かって駆け出す。
「「「ベエエェェギャアアァァ!!」」」
「さあっ、全力で避けつつ、余裕を見て切りつけましょうか!」
これまでの戦闘で多頭竜との間に距離があると墨カッターや墨による支援砲撃が飛んでくるのは分かっている。
そして、こちらの遠距離攻撃手段が『熱波の呪い』しかない状態で遠距離戦を挑むのは、ただの自殺行為だ。
故に多頭竜との戦いでの最適解は、13の目で多頭竜の動きをよく見て、回避最優先で行動。
隙を見て鼠毒の竜呪の歯短剣で攻撃する事となる。
「堅い!」
「「「ベエエェェギャアアァァ!!」」」
ただし、短剣で攻撃する時は『熱波の呪い』による威力の底上げは必須。
鼠毒の竜呪の前歯ならば多頭竜と同格かもしれないが、私自身のスペックが足りないので、そのまま切りつけると刃が立たない。
そして、この状態で一番怖い攻撃は……。
「メンギャ!」
「ぐぼっ!?」
多頭竜のタックルだ。
距離が近すぎるせいで、角をこちらに向けると言う予備動作が見えていてなお避け切れず、少なくないダメージと共に吹き飛ばされる。
「「「メエエェェゲエエェェニャアアァァ!!」」」
「ぐっ……」
続けて八本の首全てから、恐怖とUI消失状態をもたらす絶叫。
二つの状態異常が延長される。
「ど、毒ぐらいは入っている事を、き、期待して挑み続けるしかないわね」
恐怖はまた重症化ラインを超えたらしい。
手足、口が震えて仕方がない。
それでも私は多頭竜に向かって駆け出す。
「「「メギョンガ」」」
「っ!?」
そんな私をあざ笑うように、多頭竜は八本の首を地面の中に突っ込み、羊角を生やし、羊毛に隈なく覆われた胴体部分だけが地上に出ている状態になった。
多頭竜の羊毛と羊角に私は全力で切りつけたが、効果は無し。
「……」
「こ、これは、ま、不味いわね!」
そして、周囲の地中からは地下を何かが這いずり回るような音が聞こえ始めた。
こうなればどんな攻撃が来るかの想像は容易に付く。
私は幾らか距離を取ると、空中に飛び上がった上で不規則に動き回り始める。
やがて地面からの音は強まっていき……。
「「「ゲニャアアァァァ!」」」
地中から空中に向かって八本の首が勢いよく伸びてきた。
07/24誤字訂正