585:4thナイトメア3rdデイ・トランス-1
「いやー、酷い目にあったわぁ……」
「スパスパとプレイヤーの体が飛ばされたな……」
「対策があって、足止めしようとしたプレイヤーもあっという間だったものね」
「そもそも視覚異常のせいで逃げる事も叶わなかったプレイヤーも多かったでチュけどね」
私たちはどうにか『愚帝の暗き庭』を脱出し、自分たちの生産用エリアに戻ってきた。
いやー、本当に死ぬかと思った。
一応、逃げつつ『気絶の邪眼・2』での妨害も試みたのだが、相変わらずの割込の灌木呪のせいでそれも上手くいかなかったし、中々に際どかった。
「とりあえず報酬の確認ね」
「まあ、そうだな」
「せやな」
「でチュね」
では、二種類の鑑定をするとしよう。
△△△△△
噛啜の蝗害呪の死体
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:20
噛啜の蝗害呪を構築する蝗型カースの死体。
甘い汁を噛み啜り、己のものにしようとする。
だが、彼らの序列は明確であり、皇帝の命は絶対であり、どんな理不尽であっても受け入れなければいけない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
欺瞞の蝗呪の死体
レベル:30
耐久度:100/100
干渉力:128
浸食率:100/100
異形度:20
欺瞞の蝗呪と言う名称のカースの死体。
黄金と宝石の輝きを持ったその身は、昆虫よりも宝飾品のように見える。
だが、その本質は見るものを惑わす力にある。
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
噛啜の蝗害呪の死体については、上手く使えばアレが出来そうだが、他に使い道はなさそうか。
欺瞞の蝗呪の死体は……これを使えば、色々と偽装が出来るかもしれない。
「あ、欺瞞の蝗呪の死体については、ウチの呪詛薬に加えて欲しいわ。相性が良さそうに思えるから」
「俺の方も破盾の雷雲呪の素材を呪詛薬に加えてもらいたい」
「分かったわ」
二人の求め通りに私は動く。
欺瞞の蝗呪の死体は粉状にして、ゼンゼ向けの呪詛薬に投入する。
破盾の雷雲呪の素材……帯電している氷のような物体も、マントデア向けの呪詛薬に投入する。
朝から煮込み続けていたこともあって、二つの呪詛薬の中には既に固形物はない。
「あ、二人にお願いなんだけど、少量だけど血を貰ってもいいかしら?」
「血を?」
「血を渡すのはええけど、どうやればええんや?」
では、完成に近づけて行こう。
と言う訳で、まずは二人から血を貰うとしよう。
これは今の彼らの心身を構築している情報を得て、呪詛薬を彼ら専用のものにし、呪いの精度と効果の調整をするためである。
「この壺の中に針があるから、私の『出血の邪眼・2』を受けたら、手を突っ込んで」
「ああなるほど。これで俺らの血でも渡せると」
「呪い塗れになった血なら、風化の呪いも受けない。不老不死の呪いも血ぐらいなら逃れられる、と言う事やな」
「正解でチュ」
私は二人に壺を渡す。
そして二人に目一つ分の『出血の邪眼・2』を撃ち込み、血を回収。
回収した血は直ぐに呪詛薬へ投入した。
「で、此処からどうするん?」
「んー、呪怨台に乗せて、最終調整、かしらね」
これで必要な素材は全て投入した。
マントデアの呪詛薬には、剛皮の巨人呪の皮膚、鼠毒の竜呪の肉、破盾の雷雲呪の素材の他、身体能力を高め、守りを堅くするのに使えそうな素材と、マントデアの血が入っている。
ゼンゼの呪詛薬には、幻惑の狐呪の尻尾が複数本に、鼠毒の竜呪の尾、欺瞞の蝗呪の死体とゼンゼの血が入っている。
後は呪怨台に乗せて、呪詛薬として完成させるだけである。
「じゃ、マントデアの方から仕上げましょうか」
「何か俺がやる事はあるか?」
「んー、呪怨台の前に座っておいて。で、出来るだけ、呪詛薬を飲んだ後の自分に対して明確なイメージを持ってくれると嬉しいわね」
「分かった」
私はマントデアの呪詛薬を手に持つと呪怨台に運ぼうとする。
「む……」
「どうした?」
「いえ、何でもないわ」
うん、熱かった。
ずっと熱していたからか、容器も熱くなっていて、僅かにだが手が焼けた。
まあ、気を抜いていなければ問題はないか。
と言う訳で、呪怨台に乗せる。
ただし、私の呪怨台ではなく、マントデアの呪怨台にだ。
「では、始めましょうか」
「おう」
容器が乗せられた呪怨台へと呪詛の霧が集まってくる。
私はそれに干渉すると、『七つの大呪』全てを活性化すると同時に、どう作用するかを選択していく。
同時に呪詛の霧の一部をマントデアの近くに伸ばして、マントデアが干渉しやすいようにしていく。
「xif、pots、dloh、peek、tnatsnoc、ytinrete、nwonk」
呪詛薬の中に含まれている複数種類のカースの素材。
それらの中から目的とする呪いだけを取り出し、他の呪いを廃棄し、今のマントデアに合わせて構築していき、安定化をさせる。
最終的に目指すのは新たなマントデア。
マントデア自身もまだ見た事がない未知のマントデア。
ああ、実に楽しみだ。
私自身の為ではなく、私以外の為に呪詛薬を作ると言う初めての行為。
未知に溢れていて、思わず力が入りそうになる。
だが、力を入れすぎてはいけない。
飲むのは私ではなくマントデアであり、求められるのは未知に興じる事ではなく、確実な成果なのだから。
「さあ、我が友、マントデアの魂に相応しき新たな呪いを授ける結晶よ。我が熱を以って、我らの前に来たれ!」
「出来たでチュね」
「これが……俺の為の……」
「へぇ。こうなるんやな……」
やがて呪詛の霧は呪怨台の中心へと飲み込まれて行き……霧の中から現れたのは、白く細い枝に付けられた、電光を纏うカマキリの卵のような物体だった。
07/09誤字訂正




