583:4thナイトメア3rdデイ・フローダー-5
「さて、何をしてくると思う?」
欺瞞の蝗呪が中に居るであろう噛啜の蝗害呪で構成された球体は不気味に震えている。
欺瞞の蝗呪の能力によって化けた、噛啜の蝗害呪たちは既にほぼ殲滅されている。
つまり、此処から何があるにしても、あの球体を始点として起きるのはほぼ確実と言っていいだろう。
と言う訳で、この間に私含めてこの場に居る全てのプレイヤーが、次に備えて動き出す。
「んー……まあ、だいたいの予想は付くなぁ」
「ざりちゅもでチュ。モチーフと言うか思考パターンの基が基でチュからねぇ」
では、次に備えつつ、欺瞞の蝗呪が何をしてくるか、予想してみるとしよう。
ゼンゼと化身ゴーレムには予想がついているようだが、予想が一致しているとは限らないので、ちゃんと話し合うべきだ。
「私は逃走と見るわ」
「最終的にはそうやろうけど、先に偽装による隠密やろ」
「その前に何かしらの目くらましじゃないでチュかねぇ。さっきみたいに分裂する感じで動けば、結構な目くらましでチュよ」
「貴方たち、余裕を持ち過ぎじゃない?」
「そういうザリアの予想は?」
「巨大化して竜っぽくなる……ぐらいの希望は持ちたいわね。期待は出来ないけど」
と言う訳で、私たち三人の予想をまとめると、分裂からの偽装、偽装からの逃走と言う事になる。
どうしてそうなるかって?
欺瞞の蝗呪の思考パターンが『ユーマバッグ帝国』の主であるザッハークのそれを基にしている節があるからだ。
その点を除いても、欺瞞の蝗呪の安全志向は強い。
最初の竜の姿の時でも自分の安全は常に確保していたし、分裂した時も兵力の回復は常に狙っているようだった。
そんな思考パターンのカースが追い詰められたら、イチかバチかよりは逃走を選ぶだろう。
ザリアだって内心は分かっているに違いない。
でなければ、光り輝く針を投げる態勢に入っているわけがない。
では答え合わせ。
欺瞞の蝗呪は……
「「「ギギギチチチュアガチア!」」」
「「「!?」」」
爆散した。
より正確に言えば、爆散したとしか捉えられないようなスピードで、大きくても体長十数センチしかない一体一体に別れ、それぞれがそれぞれに逃走行動を始めようとしたのだ。
その数は少なく見積もっても千体以上。
この千体の中から欺瞞の蝗呪を見つけ出して仕留めろと言うのは、はっきり言ってかなりきつい物があるだろう。
「予想済みよ。『気絶の邪眼・2』」
だから私は適当な蝗型カースに向けて、呪詛の種を放ちつつ『気絶の邪眼・2』を放つ。
他プレイヤーが戦っている間に蓄えておいた37体の眼球ゴーレムと一緒に、50の邪眼で。
「ギチ!?」
私の満腹度が一瞬で底をつくと同時に、蝗型カースの体から電撃が発せられて、蝗型カースの動きが止まる。
そして、蝗型カースの体から、レモン色の蔓が50本生じて、全方位に向かって伸びていく。
「「「ギチチ!?」」」
「これは……」
「そういう事か!」
「蔓の先を見ろ! 蝗が居るぞ!!」
その50本の蔓は蝗型カースを捉え、気絶させ、それからまた別の個体に向かってレモン色の蔓を伸ばしていく。
蝗型カースが逃げるよりも遥かに早く、まるで食虫植物が獲物を捕らえるように絡め取り、気絶させ、墜落させていく。
そして、一瞬の気絶であってもプレイヤーが近寄り、武器を振り下ろすには十分な時間であるため、次から次へと蝗型カースは潰されていく。
「ーーー!?」
そんな中でいつの間にかこの場にやって来ていた破盾の雷雲呪に、レモン色の蔓が突き刺さり、痺れさせた。
私が今回使った『呪法・感染蔓』は、蝗の姿をしたカースを条件にしていたのにだ。
「暴け、明かせ、示せ、『トレーサー』!」
「!?」
直ぐにザリアの光り輝く針が飛んだ。
で、針が突き刺さると同時に、破盾の雷雲呪の体が吹き飛んで、その内側に隠れていた蝗型カースの姿が明らかになった。
それも普通の蝗型カースではなく、全体が黄金色に輝くと同時に、宝石のような輝きを持つ眼や羽を持った、見るからに特別な見た目をした蝗型カース。
ほぼ間違いなく、奴こそが欺瞞の蝗呪だ。
「仕留め……」
「俺が……」
「逃がすか……」
直ぐに欺瞞の蝗呪の周囲に居たプレイヤーたちが攻撃態勢に移る。
ザリアも駆け出し、細剣を突き出そうとする。
しかし、欺瞞の蝗呪は既に羽を広げ、飛び立とうとしている。
「ギチッ!?」
「「「!?」」」
「おおっ、流石ね」
が、そんな彼らの行動よりも一手早く、何処からともなく飛んできた矢が欺瞞の蝗呪の体を貫き、近くの木に縫い付けた。
矢を放ったのはレライエ。
流石の狙撃技術と言う他なかった。
≪超大型ボス『欺瞞の蝗呪』及び『噛啜の蝗害呪』が討伐されました。共同戦闘を終了します。報酬はメッセージに添付してお送りいたします≫
アナウンスが流れ、欺瞞の蝗呪含め、蝗型カースの姿が消えていく。
どうやら無事に討伐出来たようだ。
「……」
「タルはん?」
「あー、来るでチュね……」
50本のレモン色の蔓が残ったままで。
「ゴフゥ!?」
と言う訳で、私は『呪法・感染蔓』のデメリットによって1,000ダメージを受けて吐血した。
「ちょ、あっ、おふん……」
そして、その血はゼンゼにかかり、上半身が炎に包まれ、毒を受けたゼンゼも倒れた。
「何をやっているんでチュかねぇ。この二人は……」
「ギャグの類だろ」
まあ、私もゼンゼも死ぬほどの痛手ではない。
この場に他のプレイヤーが居た事もあり、私の満腹度の回復含めて、治療は直ぐに行われた。
なお、化身ゴーレムとマントデアはきっちり逃げていた。
07/07誤字訂正