483:シベイフミク・クカンカ-3
「ーーーーー!!」
「ガンガン攻めてけ!」
「この冷たさなら耐えられる!」
「視界がはっきりしてるならお前程度!」
私の眼下ではシベイフミクに向かって多くのプレイヤーが攻撃を加えている。
剣の刃が蔓を刻み、槍が葉を貫き、炎が花を焼き、様々な呪術がシベイフミクの全身に襲い掛かっていく。
『太陽の呪い』の効果によって足元の雪が解け、冷たい水たまりになっているのだが、前線に居るプレイヤーたちがその事を気にする素振りは見えない。
「ーーー!」
「蔓攻撃!」
「任せろ!」
「氷塊5にドリル1! 注意しろ!」
当然、シベイフミクも反撃を仕掛けてくる。
蔓を振るって殴りつけ、葉を用いて切りつけ、根を動かして突き刺す。
体の各部にある噴出孔から氷塊が乱れ飛び、中にはドリル状かつ回転している氷塊が混ざっている。
あのドリル氷塊こそが装備破壊効果を持った例の攻撃だろう。
だが、盾役が攻撃を防ぎ、遠距離攻撃手段を持った者がドリルを撃ち落とし、回復役が失われたHPを補給する事で、問題なく戦線は維持されている。
「『毒の邪眼・3』。何と言うか……真っ当なレイド戦と言う感じね」
『プレイヤーたちの役割がはっきりしていて、それぞれがきちんとそれをこなしている感じでチュよね。デンプレロの時の押せ押せとは真逆でチュ』
私は時折こちらに向かって飛んでくる氷塊や蔓の攻撃を避けつつ、『毒の邪眼・3』を撃ち込み、それからシベイフミクの様子を観察する。
シベイフミクは戦闘開始前と違い、青白い花弁を持った巨大な花を広げている。
花弁の内側には、悲哀の表情を浮かべているようにも見える人の顔があり、どうやらあれが感覚器でもあるようだ。
「それにしても灼熱の減りがヤバいわね……マントデア! 灼熱の減少ペースは正常なの!?」
「ンなわけあるか!? 毎分12万も回復されたら、無理とは言わないが、きついなんてものじゃないぞ!」
で、戦闘開始から今は1分ほど経ったところなのだが……約100万あった灼熱は既に90万を切っている。
それはつまり、本来ならばそれだけの量のHPが回復していたと言う事でもある。
マントデアが言うには、このペースでの回復は普通ではないそうだから……。
「そう。だったら植物らしく光合成している感じかしらね」
『天候変化の正解は“雲のない夜”だったかもしれないでチュねぇ』
原因はほぼ間違いなく『太陽の呪い』だろう。
『悲しみ凍る先送の呪地』と言う極寒の地に生息するとは言え、シベイフミクは植物。
光合成の能力程度は持っていてもおかしくはないだろう。
「ezeerf『灼熱の邪眼・2』」
「ーーー!?」
「平然とスタック値10万を稼いでいくか……」
とりあえず各種呪法を乗せた『灼熱の邪眼・2』を適宜撃ち込んで、灼熱のスタック値は維持しておこう。
重症化が発生しているかは不明だが、回復を止めるためには必須だし。
「ーーーーー!」
「む……」
「不審挙動!」
「離れられる奴は離れておけ!」
と、ここでシベイフミクが花弁を何度も開け閉めすると共に、花部分を地表に近づけるという、今までにない動きを見せ始める。
この挙動に離れられるプレイヤーは離れ始め、呪術や装備のデメリットで離れられないものは、死に戻りを覚悟した上で花部分への攻撃を試みる。
「ーーーーー!!」
「「「!?」」」
突撃を仕掛けたプレイヤーの攻撃が突き刺さった直後、すぼんでいたシベイフミクの花が大きく開かれると共に上空に向かって伸ばされる。
そして大量の青白い花粉が周囲一帯へと広がっていく。
「体が凍って……アバァ!?」
「逃げろ! 耐性がないとヤバいぞ!」
「耐えられるが……きっつ!?」
花粉に巻き込まれたプレイヤーの体が凍り付いていく。
凍り付き方の具合は部分的に凍るものから、全身くまなく凍ってしまったものもいる。
どうやら凍結の状態異常のようだ。
そして、全身が凍り付いたプレイヤーはそのまま死亡し、一部が凍ったプレイヤーは追撃として放たれた蔓を避ける事も防ぐことも出来ずに受け、吹き飛ばされる。
「あー……私が受けたら死ぬわね。これは」
『でも、範囲的に逃げ場がないでチュねぇ』
私にもゆっくりとだが花粉が迫ってくる。
どうやら勢いの都合で、『太陽の呪い』の効果では防ぎきれないようだ。
推定効果は、氷結属性のダメージに凍結の状態異常付与。
私が受けたら、ひとたまりもないだろう。
だが、『太陽の呪い』のデメリットで行動範囲を制限されている私では避け切れない程に広く、高く、花粉は撒き散らされ、迫ってきている。
「タル! 俺の背後に隠れておけ! ぬおりゃああぁぁ!」
「マントデア!」
私の前にマントデアが立ち、何かしらの呪術を使用する。
直後、花粉が襲い掛かってきたが……私へのダメージはない。
よく見れば、マントデアの周囲だけ、花粉が寄り付かないようになっているようだ。
電磁気による低質量物体を弾く呪術と言ったところだろうか。
なんにせよ助かった。
「助かったわ、マントデア! ezeerf『灼熱の邪眼・2』」
「図体がデカいんでな! これぐらいはしないとな!」
「ー!?」
そして、攻撃を放ったシベイフミクは隙だらけだった。
なので私は『灼熱の邪眼・2』による攻撃を叩き込んで、庇ってもらった礼の代わりにする。
「反撃じゃアアアァァァ!!」
「立て直し急げ!」
「攻撃ぶちこめぇ!!」
他のプレイヤーたちもまた攻撃を仕掛け始め、シベイフミクのHPを削っていく。
「ーーー!」
「雪崩が来るぞぉ!!」
そうして数分後、シベイフミクは再び雪崩を起こす。
同時に『太陽の呪い』の範囲外で降っていた雪が止んだ。