393:ニューヒートサースト-4
「ザリチュだ……」
「うわっ、イベント外でも普通に出せるのか……」
「やっぱりエロイ」
さて、ザリチュの化身ゴーレムを連れて、私は『熱樹渇泥の呪界』の広場に戻った。
心なしか私単独で現れた時よりもプレイヤーたちのざわつきが大きい気がする。
「タル」
「あらザリア」
と、丁度来ていたらしく、ザリアが手を振って私たちを招き寄せる。
と言うわけで、そちらに移動する。
ザリア以外のメンバーは……シロホワ、カゼノマの二人しか居ないか。
「他のメンバーはどうしたの?」
「オンガとオクトヘードは予定が合わず。ロックオは手に入るアイテムと相性の都合で別行動」
「ブラクロは?」
「此処に来るまでにフレンドリーファイヤーをしちゃったのよねー。崖から周囲の毒沼にダイブさせちゃったわー」
「そー、フレンドリーファイヤーをしたのー、ならしょうがないわねー」
どうやらブラクロは始末されたらしい。
まあ、プレイヤーなので、復活するだけだが。
なお、裏でザリアからメッセージが飛んできており、ちゃんとブラクロに事情も話しているし、反省もさせた上でのキルとの事。
PT内でキルすると外聞が悪いので、この会話だが。
「酷い棒読みでチュ……」
「でも、事情を聞いたら100%兄の方が悪い案件でしたから」
「そうですね。自分もアレはワンキル案件と判断します。情報のだまし討ちは駄目でしょう」
ザリチュたちが小声で何か話しているが、周囲のプレイヤーには聞こえていないので大丈夫だろう。
「じゃ、私たちは行くわ」
「気を付けてね。毒頭尾の蜻蛉呪にタックルされたらザリアたちがダイヴさせられるわよ」
「十分に注意させてもらうわ」
ザリアたちが広場の外に出ていく。
「さ、行くわよザリチュ」
「分かったでチュ」
そして私たちも広場の外に飛び出した。
さて、まずは化身ゴーレムの戦闘能力を見るために、毒頭尾の蜻蛉呪に挑ませてみようか。
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「チュブ……ゴボッ……ギグッ……」
「んー、リーチが足りないでチュねぇ」
「まあ、そんな感じよね」
ザリチュ対毒頭尾の蜻蛉呪の結果は?
最初に私がデバフをかけた事もあり、圧倒的にザリチュ優位で進んでいる。
毒頭尾の蜻蛉呪は全身を切りつけられ、飛ぶのがやっとと言ってもいい状態になっているのだが、ザリチュには傷らしい傷は一つもない。
「チュブラガァ!」
毒頭尾の蜻蛉呪がザリチュに噛みつこうと、突進してくる。
「チュアッっと」
ザリチュは斜め上に跳び上がる事で噛みつきを回避、続けてやって来る刃物のように鋭い翅は盾で殴りつける事で凌ぎ、翅から尾の先までの間を短剣で突き刺すと、蹴った反動で短剣を引き抜きつつ距離を取って尾を避ける。
「たるうぃ」
「そうね。始末するわ。『毒の邪眼・2』」
「チュブゴガァ……」
十分な時間と質の戦闘が出来た。
そう判断した私は毒頭尾の蜻蛉呪にトドメを刺し、死体を回収する。
「さて、反省会と言うかデブリーフィングかしらね」
「でチュね」
私とザリチュは適当な熱拍の幼樹呪を見つけると、とりあえず適当に赤樹脂を回収。
そして熱拍の幼樹呪の内部に空洞が出来たことを確認。
だが、固定ゲートが出来たためか、熱拍の幼樹呪の内部に出口が生じる事はなくなったらしく、あるのは赤樹脂の巨大な塊だけだった。
と言うわけで、大量の毒を熱拍の幼樹呪に盛った上で、二人そろって上に腰掛ける。
「では改めて。ザリチュ。化身ゴーレムでの空中戦闘の感じはどう?」
「ぶっちゃけ向かないでチュね。攻撃のリーチが足りない、攻撃の威力が足りない、機動力も足りない、ナイナイ尽くしでチュ。たるうぃの支援が無かったら、普通に負けてたんじゃないでチュか?」
「ふむ……」
確かに化身ゴーレムでの空中戦闘は向かないのかもしれない。
化身ゴーレムが持つ剣と盾のリーチは、素早く飛び回る空中戦ではあまりにも短く、当てるとなれば敵に肉薄どころか衝突するぐらいのつもりで動かないといけない。
空中では踏み締める地面がないため、攻撃の威力がそれだけ落ちる事になり、威力を求めるならばそれだけ重いか鋭いか、とにかく何かしらの威力を高める方法が求められる。
機動力不足は……化身ゴーレムの全身の素材が砂であり、普通の人間よりも重い以上は仕方がないか、しかし現時点でも私の動きより全体的にゆっくりで、細かく動けないとなると、これ以上装備重量を上げるのは危険、最悪飛べなくなるだろう。
「リーチが十分にあって、軽くて、威力もある武器が必要かしらね?」
「空中戦闘で攻撃をするなら必要でチュね。空中戦闘でのざりちゅの役割を盾に絞るなら、必要になるものはまた別になるでチュね」
候補となるのは槍だろうか。
あるいは馬上で使うような大型の太刀とか。
ザリチュの役割を盾に絞るのなら、いっそパラグライダーのような盾でも作れば、機動力もついでに補えるかもしれない。
いずれにしても重量と威力を考えるならば、特殊な呪い方をして、アイテム化をする必要がある気はする。
「言っておくでチュが。ざりちゅを空中戦闘で使わないと言うのも手でチュからね」
「それは分かってるわ」
なお、化身ゴーレムを空中戦闘で使わない手は勿論ある。
化身ゴーレムを使っている間は最大HP、最大満腹度、干渉力が低下するので、それが良くない時には使わないと言う選択肢を選ぶべきだ。
「さて、アレの検証をしましょうか」
「ちょっと楽しみでもあるでチュね」
毒殺が完了した熱拍の幼樹呪が落下を始めようとしたので、毛皮袋の中に収めておく。
そして私たちは次の熱拍の幼樹呪に近づくと、一番近くの熱拍の樹呪の位置を確認。
「『inumutiiuy a eno……』」
私は詠唱を開始した。
騙してポイントを割り出したのは怒られて当然の案件だから仕方がないね。