391:ニューヒートサースト-2
「ふうん、結構広いわね」
新たな『熱樹渇泥の呪界』には、空を飛べないプレイヤーの為に熱拍の樹呪の死体を利用して作られた足場が組まれている。
と言うわけで、まずはゲートを出た直後の場所だが、ここは直径50メートルほどの広場になっており、ゲートがあるほか、各自のセーフティーエリアに移動するための結界扉が複数個置かれている。
プレイヤーは……見える範囲で20人から30人と言うところか。
「うーん、蜘蛛の巣が近いかしら?」
『鹿の角のような枝分かれとも言えるでチュよ』
さて、スタート地点となるこの広場からは、あらゆる方向に向かって幅5メートルほどの通路が伸びている。
横方向は数百メートル程度で終わりだが、上下については上は熱拍の樹呪の樹冠に渡れない程度、下は飢渇の泥呪の海の中にまで繋がっており、通路が合流と離散を繰り返しているため、非常に複雑な構造になっているようだ。
「で、何で垂れ肉華シダがあるのかしらね?」
『何処かからか紛れ込んだんじゃないでチュか?』
なお、通路の下部には垂れ肉華シダの苔がびっしりと生え揃っており、非常に滑りやすい構造になっているようだった。
それと、上の方にある通路の垂れ肉華シダの苔からは垂れ肉華シダの蔓が伸びているのだが、場所が場所であるためか、長さ数百メートルと言う途方もない長さになっている。
回収は……今はしなくてもいいか。
呪限無で育ってはいるが、カース化しているわけでもなければ、何か変わった能力を得た訳でもない。
ただ長く育ってるだけのようだし。
「タルか。来ていたんだな」
「タルさん」
「あら、エギアズ・1にライトリ。どうしたの?」
と、『エギアズ』のリーダーであるエギアズ・1と『光華団』のライトリカブトが私の姿を認識したのか近づいてくる。
二人とも『熱樹渇泥の呪界』の探索は順調に進めているらしく、一般開放からまだ一日経っていないのに、『熱樹渇泥の呪界』に生息するカースの素材から作られたと思しき装備品が混ざっている。
「あー、まずは感謝を。『熱樹渇泥の呪界』を一般開放してくれてありがとう。おかげで、『エギアズ』だけじゃなくて、今度のレイドボスに関わる気がある奴らの装備が充実しそうだ」
「タルさんありがとう。『光華団』も『エギアズ』と同じく感謝しています」
「あらそう。喜んでもらえたならありがたいわ」
二人そろって私に向けて頭を下げる。
なので、私はその礼を素直に受け取って、話を進めるように促す。
「それでその……」
「質問。ズワム、熱拍の樹呪、これらと戦える場所はこの足場の中にある?」
「んー……ないわね。その二体は迂闊に手を出すと、他プレイヤーに迷惑をかける可能性もあるから」
エギアズ・1が先に言われたかと言う感じの表情をしている事からして、どうやら二人とも聞きたいことは同じであるらしい。
が、二人……と言うか、ズワムや熱拍の樹呪と戦いたがるプレイヤーには悪いが、そいつらには迂闊に手を出してほしくないのだ。
特に熱拍の樹呪は不味い。
ズワムは弱体化によってパーティごとに区切られた空間で戦えるかもしれないが、熱拍の樹呪はそういうカースではないので、手の出し方によってはこの足場が崩れるような形で暴れる可能性だってある。
「まあ、アレね。とりあえず空を飛べるようになってから来なさいって感じね。その二体については」
「空を飛ぶ方法か……まあ、今後の事を考えると、短距離短時間でもいいから、何かしらの方法は開発しておくべきか」
「分かった。アカバベナに伝えておく」
まあ、自分で空を飛べるようになって、それで挑むと言うのであれば止める気はない。
それにエギアズ・1も言っているが、短距離短時間であっても空飛ぶと言うのは、いずれ必要になるものだと思う。
カロエ・シマイルナムン、ミミチチソーギ・ズワム、二体の超大型ボスと戦った経験から言わせてもらえば、空を飛べないと避けられない攻撃はあるし、こちらからの攻撃を届かせることが出来ないパターンもあると思うのだ。
なので、いい機会だと思って、ズワムと戦う気があるプレイヤーは飛行手段を模索して欲しい。
そして、その成果を私に見せて欲しい。
『たるうぃが何を考えているのかがよく分かるでチュね……』
ザリチュが何か言っているが、顔には出していないので問題はないだろう。
「他に何か質問はある? 折角だから答えるけど」
「いや、大丈夫だ。一から十まで教わるわけにはいかないしな」
「ゲートの制限についても分かっているから大丈夫」
他に質問はなし、と。
ところでゲートの制限について知っていると言う事は……。
「復活させたの?」
「復活させてしまった、だな。昨夜は酷かった……」
「ゲート前で持ち出せるものの検証をしていたら突然襲われて、何人か死に戻った」
「なるほど」
やはり、カースの復活現象を見る事になったようだ。
ちっ、呪詛の吸い込み方から特定部位を放置する事で復活するだろうなとは思ったが、私は実物を見た事がなかった。
その実物を見るいい機会だったのに、見逃したか。
この後、周りに迷惑が掛からないように、適当にやってみるか。
「じゃ、私はそろそろ行くわ」
「分かった」
「気を付けて」
では、レベル上げと素材回収を始めるとしよう。
と言うわけで、私は広場の端から通路では無く、空中へと身を出し、そのまま広場から離れていった。
まずは毒頭尾の蜻蛉呪からだ。