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潜入

やっぱり3時更新しかできませんでした。


「というわけで、レオン。行ってこい」


「説明不足です、所長(マスター)

 病室で眠る少女の横で、所長とレオンが会話をしている。


「2区序列8位の令嬢殺人事件の調査続行を命じる。目標は、採集屋(ギャザラー)と呼ばれる男とその連れの男。及び、可能な限りの被害者の遺体の回収。政治的配慮とかそういった諸々の調整は私が後で片づける」

 所長がレオンに一方的に告げる。

 その言い回しは、立場が上のものとしての容赦のなさを感じさせた。


「……先輩から調書を取ったんですね?」

 レオンは怒りの感情を露わにする。いつもの柔和な印象から一転して威圧のようなものを(にじ)ませる。


「ああ、簡単に話してくれたよ、何せ本人(被害者)だからな」

 そんなレオンの様子にまったく臆することなく、所長は飄々(ひょうひょう)と答える。


「まずは先輩の治療でしょう!」

 声を押し殺しながら、レオンは強い眼差しで所長を睨みつける。少女を背にして所長に向き直る。それは守ろうとする意思が感じられる。


「よく考えろ、レオン。お前の大事な大事な先輩は、事件と己の体、どっちを優先する?」

 レオンの威圧など全く意に介さずに、諭すように切り返す。


「……事件です」

 己の手を握りしめ、苦々しく答えるレオン。


「そうだな。採集屋については、私が()()()入手した情報がある。そこへ仕掛けろ」


「条件は?」


「生死は問わない。まぁ、殺せばイタコの負担が増えるだけだが」

 容赦なく、異能(オカルト)を使わせることを所長は示唆する。


「極力、捕縛します」


「お前もアイツに毒されてきたな」

 レオンの答えに意地悪そうな笑みを浮かべる所長。楽しいとか面白いといった感情が見て取れた。


「僕は先輩の相棒なので」

 所長の言葉にできるだけ反応し過ぎないように、レオンは言葉を返す。


「ふふ、そうか。では、お前が行っている間に治療の準備を進めておく」


「可能なんですか?」


「完治は不可能でも、少なくともあの中で『精神的に寝てるのか死んでる(バカ)を叩き起こすくらいはできる』らしい」

 と、誰かが言った風に告げる。


「……了解しました」

 わずかな沈黙は少女を(おもんばか)ったものなのか、先輩(イタコ)を想ったことなのか、レオン自身にも分からなかった。





 2区(コクマー)。深夜。工業地区。

 幾何学模様のように秩序だった配列をされたパイプラインが、煌々(こうこう)と照らす常夜灯の中に浮かび上がる。

 無機質で無感動と揶揄(やゆ)される上層区の景色の中でもひと際、人間らしさを感じさせない地域だ。

 工場というのは効率を突き詰めた建造物の一つなのかもしれない、とレオンはこの光景を目視しながら思う。


 大型の通路には、上層の技術によって造られた新型の自立型歩行犬(ドーベルマン)巡回型歩行機械(警備ドローン)が歩き回っている。

 狭い通路には監視カメラが極力死角を作らないように配備されており、一部には赤外線センサーや熱感知システムが用いられている。


「厳重ですね」

 と、レオンは呟く。外装(アバター)はいつも通りだが、装備を戦闘用に換装している。


「きれー」

 彼の肩には黒髪の少女が乗っかっている。肩に座り、頭部に手を伸ばしている姿勢だ。


「危ないから付いてきて欲しくなかったんですけど……」

 本当は彼女が寝ているうちに出発し、仕事を終えるつもりであったレオン。けれど、出発の直前に様子を見に行ったら捕まったのである。

 敬愛する先輩の姿で駄々を捏ねられてしまえば、しかも理屈の通じない子供である。泣き喚かれてはどうしようもなかった。


 その一方で、彼女が付いてきても物理的には守り切ることができるという、彼自身のプライドもあった。

 傍にいても彼女のイタコによる精神的なダメージを守ることはできなかったのだから。


「いっしょがいいの! ポチの代わり!」

 ペシペシと彼の頭を叩く少女。


「あまり騒がないでくださいね」

 と、侵入に伴う注意事項をいくつか彼女に約束させる。


「うん!」

 彼女が頷いたのを確認して、彼は強化視覚を暗視(ナイト・ビジョン)及び赤外線視(インフラ・ビジョン)へと切り替える。

 それに合わせて、両脚の人工筋肉をうねらせて跳躍。敷地外から優に数十メートルの大ジャンプである。

 光学迷彩ではなく、センサージャマーを起動し、機械的な監視網を突き抜ける。

 

「おおー……」

 きらきらと輝く工場の機械群の光と影のコントラストは、少女の目には新鮮で、とても美しいものに見えた。  

 しかも、空中からの光景である。


「口開けたままだと、舌噛みますよ」

 猫のように着地に伴う重力による衝撃を両脚のみで相殺し、ほぼ無音で工場内の一角に降り立つ。


「ん!」

 素直に口を閉じる少女に思わず笑みをこぼしそうになる。先輩もこれくらい素直だったらなぁと、彼は思う。

 彼は視覚内に、所長が独自に入手したと言い張る、工場の見取り図と警備態勢のデータを広げる。

 さすがに現在の状況は反映されていないが、彼自身の知覚と組み合わせれば十分だった。


 深夜帯は一部のプラントのみが稼働しているらしく、屋内は照明がついていない箇所が多い。

 照明がついていなくとも、保安設備は稼働しているらしく、警備装置との遭遇を避けるようにゆっくりと移動していく。


 稼働しているプラントは量産型の機械化パーツや、人以外に用いる汎用部品などの部署が多い。

 その辺りには人の気配もあったが、彼の目的地ではないために、すり抜けていく。


「ここのお犬さんたち、なんかこわいよね」

 何度目かの、自立型歩行犬(ドーベルマン)をスルーし終えてから少女がたずねる。


「まぁ、外装なしですからね。完全に警備のためだけの運用で、見た目なんてどうでもよさそうですし」

 と、レオンが答える。以前、自身が外装なしだったときの姿を思い出しつつ、アレを見せたら少女も怯えるだろうかと考える。

 目的地に向かってできるだけ最短を選びつつも、少女の負担にならないよう戦闘を避けながらの潜伏ルートを採る。


 いくつかの区画を越えて、レオンは警備の密度と、警備装置の武装レベルが上がったことを感じる。


「そろそろ近いですので、お口にチャックしましょう」

 小声で少女に指示を出す。


 彼らの目的地。所長が示した場所。それは生体機械の研究区。



 そこには、機械と肉体が混ざり合った、形容しがたいモノがぷかりぷかりと浮いた培養層が立ち並んでいた。


10話の更新は10日の3時です。

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