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イタコ稼業Ⅱ


「ぐっ……」

 あまりにも突然の胸痛に私は顔をしかめる。ありえない。胸部の臓器などはほぼ全て機械化していたはずだ。

 そのまま、痛みに耐えきれず(うずくま)ると、痛みとともに熱を帯びてきていることに気付く。


「あ、熱いっ!」

 そして痛い。傷病などに起因する痛みであれば、電脳から自動的に痛み止め(鎮痛ホルモン)が分泌されるはずなのにそれもない。

 痛みに耐えながら、私は周囲を見回すと、同じように蹲ったり、痛みに耐えきれず倒れている同僚たちが見えた。


「う、あ……あ? !?」

 激痛で意識が朦朧としていると、彼らの中の1人が炎に包まれ燃え上がった。

 それが合図だったのか契機だったのかは分からないが、1人、また1人と燃え上がり、私も炎に包まれた――。




「だめね。ノイズが多すぎて、これ以上は深く探れないわ。むしろ、よく彼女『だけ』を拾い上げたわね」

 首を振って、私は彼女の遺灰混じりの焼け跡から離れる。他の男性の犠牲者と混じっていなかったのは僥倖(ぎょうこう)と呼ぶべきかもしれない。

 むしろ、機械化素材すらもが炭化したような凄まじい状況から、彼女を特定できた1区(ケテル)の警備の手腕を褒めるべきなのか。


「イタコ殿を呼べる条件を満たすために部下どもが頑張ったからな」

 鶏頭(モヒカンヘッド)の警備主任がそんなことを冗談めかして言った。私、女性で機械化度合が高い人じゃないとイタコ使えないからね。

 今回は警備詰め所ではなく、現場でのイタコ稼業である。1区は詰所の安置室まで運搬してから行うのが通例なんだけど急を要したらしい。

 なので、1区の白を基調とした白亜の街並みというべきか芸術品のような、面白みのない風景が周囲に広がっている。


「あー。ファンクラブみたいな感じなのかしら」

 今日は、後輩(レオン)も連れてきているので、積極的な交流(アプローチ)がないのが救いか。別に彼らのことは嫌いじゃないけど。


「言い得て妙だな。そーいや機械歩兵(サイボーグ)のアイツ。いつもならここには連れてきてなかったのにどうかしたのか?」


「前回の事件でちょっとねー。心配かけちゃって。過保護気味になっちゃった」

 退院後に、先輩は目を離すと何やらかすか分からない、と面と向かって言われたし。


「なるほどな。で、どうだった?」


「ほぼ同時に胸痛からの自然発火。その時は()()建物は燃えていなかった」

 真昼間に1区の行政施設の一角に務めていた男女含む数名が、突然、建物ごと炎上。全てが燃え尽きるまで炎が上がり続けたという。

 街頭監視カメラ(ウォッチャー)などによる精査では不審な人物が近づいたわけでもなく、襲撃されたたわけでもない。

 もちろん、消火活動をする歩行機械(ドローン)が出動したがそれよりも早く燃え尽きたそうだ。


「おいおいおい。人体自然発火現象(SHC)とか、創作でしか聞いたことないぞ。都市伝説(フォークロア)じゃあるまいし」

 自然発火と聞いて、主任が肩を竦める。そういった、科学と対立するような概念は一般市民にはなじみがない上に管轄外である。


「むしろ、異能(オカルト)絡みだと考えた方がいいんじゃない?」

 と、私は異能説を主張する。とはいえ、攻撃的な異能なんていうのはアーコロジー(セフィロト)内の条例で厳しく取り締まっているし、そういった異能持ちは上層の管理下に置かれていることが多いんだけど。

 手品師のように隠蔽や偽装に特化した異能とは考えにくいし、そうなると後天的な異能持ちか最下層生まれの異能あたりがあやしくはなるけれど。


2区(コクマー)の新型武装という説もありますよ」

 後輩が近づいてきて、私たちの会話に参加する。あー、それはないんじゃないかな。


「それはないよ、おにーちゃん」

 私の中のわたし(リーチェ)が一瞬だけ出てきて、否定する。


「お、お前ら、兄妹だったのか? だから、いつもと違う格好してんのか?」

 初めて見た主任が戸惑っている。あー、説明するのめんどくさいな。

 ちなみに私は、わたし(リーチェ)の希望により黒髪を二つ結びで、ちょっとガーリィーなフリル襟のワンピースだったりする。いつもに増して幼い。ファンクラブ曰く、ロリロリしいとか。


「あー、違うわよ。後輩(レオン)、前の事件の概要。主任に守秘義務が絡まない範囲で送信しておいて」

 手を軽く振って否定する。


「了解です。先輩の状態についての診療記録(カルテ)も添付しておきますね」

 まー、調べればわかるし、私のプライバシーなんてあってないようなものだ。4区(ケセド)内だと少女(リーチェ)状態で動いてることも多くて、色々羞恥心とかそういうのは投げ捨ててしまった。今更だけど。


「で、2区の可能性を否定する理由なんだけど、そんな武装を1区の泡沫部署に使用する理由がないということ。それなら、初手で1区の中枢にでも仕掛けて燃やしたほうが被害は大きいし、効率的。逆に、武装の試運転であれば、上層の監視が行き届かないい最下層か、上層の代理紛争地区である8区(ホド)で運用したほうがいい」

 っていうのが、わたし(リーチェ)の主張。この子のほうが私より頭がいいんじゃなかろうか。


「イタコ殿の状態も理解した。ますます部下どもが熱を上げそうで心配だが、まぁいいか。で、異能(オカルト)説の場合は正直俺らの手には負えないわけだが。かといって、イタコ殿の手ごたえからすると、厳しそうにも見える」

 後輩から資料を受け取った主任が、そう答える。うん、遺体の状態がほぼ残っていないのもあって、記憶を遡ることも、精査することもできなかった。さらに言えば、死ぬまでの時間も短すぎて、追体験による反動も小さくて、体調もさほど悪くなってないという具合である。

 正直、あまり役に立てていない。


「とりあえず、今のところできることないから、帰っても大丈夫かな?」

 手詰まり感があったので、解散を提案する。イタコだって万能じゃない。被害者が知りえないことを知ることはできないのだ。


「おう、ご協力感謝する」

 主任の声を受けて、私は後輩の方へと向き直り。帰ろうと言おうとした――が。


「先輩。所長からの指示で、このまま8区に向かえ、とのことです」





 8区(ホド)。下層にある3区のうちの1つ。

 紛争地区、代理戦争地区、戦場。火薬庫。そんな名前で呼ばれここは、上層によって意図的に戦場に設定された地域である。

 大規模な武力衝突こそほぼないが、それぞれの上層の意向を受けた企業の下請けの兵士たちがその命を賭け金にして戦っている。


「先輩、離れないでくださいね」

 後輩が戦闘態勢で8区の荒れ果てた道を先導する。


 崩れ落ちた建物、ときおり響く、銃声と爆発音。硝煙の匂い。死体と思しきモノ。機械の断片。破裂した武装。

 8区の人口の半分は、戦争をしにきた傭兵稼業のものたちだ。多くはここから帰って来ることもないのだが。故に8区(ここ)は上層の実験場とも呼ばれたり、廃棄処理場とも言われている。


 そして、もう半分はこの地域に住み続ける人々だ。

 最下層に逃げ出すことよりも、この地に訪れる兵士たちのおこぼれに預かろうとすることを選択したものたちだ。

 傭兵の死体から機械化部分を漁り、それを売りさばいたり、自身や仲間に施術することで生き残ろうとする人々。時には、手傷を負った傭兵たちに襲い掛かったりもするらしい。


「で、どこに向かってるの?」

 後輩の後ろを私が歩く。最下層を歩いたときとはまた別の意味で歩きづらい。瓦礫が多いし、どこまでが道でどこまでが道じゃないのか分かりづらい。


「たまたま仕事に向かっていた、野薔薇(ローズ)さんと手品師(イリュージョニスト)が、突然人が燃え上がったのを目撃。かつ死体……いや灰を確認したそうで」

 あー、会いたくない筆頭の2人だ。


「それで私が呼ばれたということは被害者は女性であった、と」


「そういうことですね」


「別にイタコなら義妹(義弟)でもできるわよ」

 金さえ払えば、だが。あの子はそういうところはシビアだ。


「野薔薇さんは別件調査で忙しいらしく。あと、()()調査は姉が適任だと言ってたそうですよ」

 まー、機械化で肉体的にも精神的にも自衛力を高めている義妹では、追体験で手掛かりを得るのは難しそうだ。


「あー……。ところで、私たちが着くまで、現場保持してるの」

 8区じゃなくても下層以下だと、物漁りが出てきてもおかしくない。8区の歩行機械(ドローン)なんかは9割方戦闘用で、治安とか人権とかそういうのを守る系のお仕事はしちゃいない。


「手品師が私たちの到着予定時間に合わせて偽装してるそうです」


「そういう器用なことできたんだ、アイツ」

 むしろ、そっちを活用すれば、犯罪者にならなくてよかったんじゃないか。アイツの性格的に無理か。


「そもそも、手品師って自身の偽装だけじゃなく周囲も含めた幻惑や撹乱の類の異能(オカルト)だったらしいですよ。先代手品師はそういった系統だったらしく」


「先代が彼の教育を誤ったと言いますか……。彼、まだ()()()らしいですよ」


「マジか。マジでガキだったのかー」

 子供だからって、許されるわけではないけれど。

 思春期真っ盛りに異能に目覚めるか触れるかして、それをうまく御しきれなかったらそりゃ暴走と妄想に走るわな。


 私の場合は、空想と吐き気が走り続けていたけれど。イタコをやってると吐くのとお漏らしに慣れる、誰も得しないけれど。


「そんなわけで到着しました」

 下らない事を考えていたら、着いたらしい。



 瓦礫に挟まれた狭路の一角。ちょうど1人分の焼け焦げた跡と言うべきか、染みのような黒色が地面に広がっている。それは人の影のようにも見えて、下手な死体よりも恐ろしく見えた。

 その影の上に僅かに残る、灰。


 1区のときよりも明確に人の残滓と感じ取れるのはそれほど時間が経っていないからか、それとも余計な不純物が混ざっていないからか。

 遺灰に近づいて私はふと気付いた。


「そーいや、彼女の機械化度合い(マシーナリー)わかんない気がするんだけど」


「……そうですね。野薔薇さんもさすがに事前調査はしてないみたいで」

 簡易通信でもしたのだろう。少しの間があったが、後輩がそう答えた。


「じゃあ、軽く入るから。よろしく」

 この状況で私が躊躇う理由はないんだけどね。


「無茶しないでくださいね」


「はいはい。んじゃ行ってくる」



 貴女のことは何も分からない。けれど、事故にせよ、人為的にせよ、もしかしたら自業自得なのかもしれない。

 運が悪かっただけなのかもしれないし、それとも貴女に非があって、その罰が下ったのかもしれない。


 例えそうだったとしても、その死は貴女が望むものだったのかな?

 それすらも分からないけれど、経験上、私が見てきた死の多くは理不尽の中にあった。


 だから教えてほしい。


 貴女はどうして死んだのか。私に体験させてほしい。貴女の思いと記憶を。




 イタコ稼業、開始。



読了ありがとうございました。


改稿したい部分なども多々ありますが、自分の中では色々挑戦的な1ヶ月の連載期間でした。


以下、主な反省点。


・イタコに対応する当て字を考えていなかったこと

設定の中でも何故か抜けていた。前半あたりで気づいたんですがそのまま突っ切ることに。


・毎日更新の限界

帰宅して平均2時間で書くというのは厳しかったです。10話あたりで書いてて、あ、ダメだと思い隔日に切り替え。


・ベアトリーチェの名前ミス

無意識に短縮名をティーチェにしてたのでリーチェに修正。


・プロットからの大幅変更

2話後半プロットからずれてます。結果、毎日更新の負荷が増加。


他にもルビのブレとか色々ありますが、自分の好きなジャンルでやりたい放題やってみた作品でした。

設定などで眠っている部分もたくさんありますし、続きは書けるような終わり方をしていますので、いつか続きを書くこともあるかもしれません。


改めて、ありがとうございました。

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