後始末
「で、だ。2区へのけん制とともに、やりたい放題してきたわけか」
5区の病院にて所長と会話。思っていた以上に肉体に負荷がかかっていたらしく、4区に戻りメディカルチェック後、即搬送されてしまった。
ベッドの上でゴロゴロするのは退屈極まりないので、所長による事情聴取があるのはありがたかった。内容に目を向けなければだけど。
「まぁ、そうなるわね」
目を逸らしながら私は答える。膝の上には後輩の電脳を収納した球体型機械端末。メインの肉体がフルメンテナンス中のための暫定処置らしい。一応、発話も可能な優れもの。
「核兵器でも持ってこないと壊せそうにないレオンはともかく、お前の体はどうなんだ?」
「技能箱による後遺症については、もうしばらく安静がいるかなってところ。思ってた以上に筋肉とか神経、骨までダメージ入ってたみたいで」
あの場は仕方なかったとはいえ、あの後、私と交代していた少女は痛くなかったんだろうか。手品師を取り押さえていたときは、鎮痛ホルモンが出ていた気がするけど。
「そっちは治療記録見てるから分かる。今後も異能は使えるのか? 少女の精神との折り合いの問題は? その辺りが聞きたい」
「あー。めんどくさい質問を……」
私は気だるく頭を抱える。どうせ誤魔化したところで、この所長はお見通しな気がするから、なおのこと厄介だ。
「そう言わずに答えてあげてください。所長だって、先輩がやらかしたことに対して、あっちこっち走り回って調整したりとかしてるんですから。それにイタコについては先輩の今後を左右します」
マスコットキャラみたいな球体の分際で、後輩のいつもの穏やかな声が出ることにとてつもない違和感を覚える。
「今、膝枕してあげてるようなもんだから、後輩のほうで説明してくんない?」
きっと後輩なら喜んで説明してくれるだろう、と期待を込めて。
「とても残念なことなのですが、これ触感とかないんですよね。なので膝枕して頂いてる恩恵に預かれていないわけで。ですので、先輩頑張ってください」
球体の発光部分が点滅しながらそんなことを宣いやがった。
「やり損じゃねぇか」
投げ捨ててやろうか、こいつ。まぁ、投げつけても壊れないんだけどさ、こういうのって。とりあえず、軽く叩いておく。少女リスペクトってやつ。
「いいから、説明しろ。イタ小娘」
私と後輩の漫才に楽し気な笑みを浮かべながらも話を勧めようとする所長。ちっ、このまま、流されてくれればよかったのに。
「へいへーい。んーと、異能については変わらず使えます。まー、またいつ壊れたり許容限界が来るかは分かりませんが。イタコの家系ってそういうもんですし」
イタコ稼業はそういう血脈の中で受け継がれてきたものだ。それに、私は私でなくなることへの恐怖よりも、私にできることがあるのに、それを為さないことのほうが嫌だ。
おそらくこれは単なる私の我儘で、ただの自己満足で、人によっては偽善だと思う人もいるだろう。だって、死者が蘇ることはないし、死者そのものを救うことはできないのだから。
まぁ、それでも私は私である限り、イタコを続けるからね。
「で。少女については共存、共生って表現が一番近いのかな。臨床的には多重人か……解離性同一性障害が近いんですけど、私たちの場合は互いに記憶の互換性もありますし、意識的な切り替えも可能だったりします」
説明していたら、少女が起きてきたのでさっくり交代することにした。説明とか交渉みたいなのは私は苦手だし、面倒なんだ。
「こんなふーにー! おねーさんの体っていうハードの中に、おねーさんというソフトとわたしっていうソフトが入っててお互いのデータをきょーゆーしてる感じ?」
おっきく伸びをするように手で表現して説明した!
「あー。日常生活とかでも君たちが不便でないなら良しとするか。しかし、その外見で少女君の人格だとほんと子供にしか見えないな」
くっくっくっと所長さんが愉快げに笑う。たぶん、おねーさんならへそを曲げてそーだけど。
「とりあえずは大丈夫! あ、でもわたしだと異能使えないよ! そのかわり、2区とか上層に対して知識はわたしが占有してて、おねーさんには利用できないみたい!」
おねーさんの真似したかったんだけどなー。やっぱり、された身としては興味があるし。
「なるほど。互いに大事な部分は固有なんだな。というか、少女君の人格だと耐えきれないと、潜在的に判断したのかもしれないな」
「えー? わたし、1回分解されたから、色々どんとこいだよー?」
アレよりも辛いことってあるのかなぁ……? おねーさんが追体験した死の記憶には凄まじいものもあるけどもー。
「もうちょっと君が成長したらまた変わるかもしれないな。もしかしたら別の異能に目覚めるかもしれないな」
煙草に火を点けながら所長さんが答える。
「……それは預言?」
と、わたしは所長にカマをかける。きっとこんなのじゃ甘いんだろうけど。
「さてな。異能といえば、手品師についてだが」
あっさりはぐらかされる。まぁいいかー。わたしがおねーちゃんにとっての不利益にならない限りは、所長さんは敵にはならない、と思う。
「あの人嫌いー」
だって、わたしを殺したし。
「まぁまぁ。落ち着いてベアトリーチェ」
おにーさん、その姿だとどうしても保護者感も出ないよね、工場に行ったときはあんなにカッコよかったのになー。
「関係各所と金と脅迫と取引の結果、うちで引き取ることにした」
「「はぁ?」」
思わずおにーさんと同時に聞き返してしまった。一応、あの人犯罪者扱いだと思うんだけどー。しかも、識別票なしだから最下層民扱いだよね、何もしなければ。
むしろ、交渉という言葉の裏に黒い影を感じなくもなかっし、上層というのはそういうものなので気にしないことにするとして。むしろ、そういうことができるって示唆しちゃっていいのかなー、所長。
わたしという2区向けの交渉カードが増えたから、見せ札を増やしたとも思えるけれど……。
おにーさんのほうは今は表情がない体だから、どういう思考かは見えづらい。けど、おねーさんに対する騎士もしくは番犬みたいな人だからその辺の機微には疎いのかもしれないなー。
「ま、あまり深読みするな少女君よ。キミはキミで使い出があるから安心するといい。話を戻すが、手品師は再教育して首輪付きで中層民の識別票を交付予定だ」
「首輪って誰かつけるの?」
少なくとも手品師を御せる程度の人材は必要だし、貴重な異能持ちだから護衛と監視は必要だ。イタコのおねーさんに対するおにーさんみたいに。
「イタ小娘の可愛い義妹をな。野薔薇は機械化改造もしてるから戦闘もこなせるしちょうどいい。金さえ払えば、仕事はしてくれるヤツだ」
とはいえ、外部委託だから高くついたがな、と所長は呟く。
けっこう適当な人選だと思う。だけど絶対、手品師への嫌がらせも入ってる気がするー。わたしはローズおねーちゃん好きだけど、世間ではオカマさんって苦手な人多いみたいだし。
「ふーん。異能持ち集めて何か企んでる?」
ふと思いついたので、聞いてみる。
「……ただの蒐集だと思ってくれればいいさ」
わずかな沈黙が何か雄弁に語っていた気がするけれど、わたしはこれ以上突っつかないことにする。やぶへびってヤツな気がしたので
「そんなところ?」
その後もいくつか意見交換やら、今後の予定の確認などをして話題が途切れる。
「そんなところ、だな。後輩の修理が終わり次第、現場に復帰してもらうから、そのつもりでいてくれ」
「わかったー」
「了解です」
わたしとおにーさんが返事をすると、所長は病室の外へと出て行った。
室内にはわたしとおにーさん。んー……。
部屋の中には私と後輩。
少女と共有した記憶もあるし、きっと言葉にしなくてもいいんだろうけれど。
でもやっぱり私の言葉で伝えようと思った。
「なんというか、さ。今回は本当に色々迷惑かけた。ごめん」
私が無茶しなきゃ、後輩も無理をする必要はなかったはずだ。
「んん? ああ、先輩に戻ったんですね。いえ、僕の役目でもありますし、望んでやったことです。気にしなくていいんですよ」
「仕事だから? それとも私が貴方の姉貴の記憶を持っているから?」
私という異能の護衛と監視、が後輩の仕事だ。それに、私は後輩の姉の記憶を追体験している。
「どちらも違います。僕が機械歩兵になった動機ではありますけど。……先輩、覚えてます? ついこの間のことですけど、1区(ケテル)からの帰り道に、僕が先輩に頼ってもらえる後輩になりたい、って言ったこと」
ああ、なんだかだいぶ前のような気がする。でも――。
「もう、すっかり頼りっぱなしだわ」
うん、後輩に甘えまくりな気がする。
「それに先輩。こういうときは、ごめんなさいじゃなくて、ありがとう。のほうが、僕は嬉しいなぁって」
「うるせー。そういうのは修理終わってからいつもの高身長優男になってから言えー。ぁ……」
口の中でありがとうはかみ殺すことにした。
とりあえず、私が退院して、後輩がいつもの外装に戻ったら蹴りまくってやる。
最終話は7/1 0時投稿予定です。




