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手品師

大遅刻な上に短めです、すみません。


「おやおや、勘付かれましたか。まぁ当然といえば当然ですか。貴方の知覚(センサー)が認識しきれていないのでしょう?」

 採集屋(ギャザラー)の言うとおり、レオンの知覚においては通常の視覚のみならず、熱情報(サーモグラフ)反響定位(エコロケーション)での情報が微妙にずれて表示されている。

 それらの観測情報を統合するとピントが合わないレンズのような、きちんとした像を結ばない状態であり、採集屋の位置を特定しきれていない。


「喋るな、撃つぞ」

 警告を発するも、当たる確証が持てず、レオンは躊躇(ためら)う。


「どうぞ、どうぞ。あなたの目に()()がきちんと映っているいるのならば」

 ひらひらと掌を揺らす採集屋。当たることがないと確信しているかのような気軽さだ。

 膠着。けれど、動けないレオンに対して、採集屋は気軽に口を開いた。


「いやはや、人は見たいものしか見ようとしない。誰の言葉でしたか。……まぁ、肉眼の目であろうと機械の目であろうと、それらは全て脳で処理されます。その意識のベクトルをずらすのが()()異能(オカルト)というわけですね」

 手品の種明かしをするように簡単に自身の異能の性質を明かす。


「機械的観測すらも誤認識させるミスリード、もしくはミスディレクションと言えば伝わりますかね」

 故に、手品師なのです、と続ける。


「他にも細かい条件などは無くもないんですがね。でもまぁ、こんな風に」

 と、右手を自身の顔にあてて、隠す。すると、まるで一瞬で外装(アバター)を切り替えたようにそこにいた人物の姿が変容する。服装も体格も人相も、全て。


(わたくし)めのような、お嬢様には懐かしい顔になることも可能です」

 先ほどの採集屋の中年男の姿から、執事服を着た若い細身の男性の姿になる。


「め、めしつかいのおにーちゃん……?」

 かろうじて恐慌から脱した少女は、青ざめた顔で男の方へと視線を向ける。

 けれどそれはレオンが認識している位置とは大きくずれた位置であり、レオンの知覚においては誰もいない位置だった。


「っ!」

 それに男が気付くよりも早く、機械歩兵(サイボーグ)特有の()()()()()()射撃動作により、男が居るであろう位置に単発射撃を行う。

 拳銃に取り付けられたサプレッサーにより抑制された、乾いた発砲音。


「ぐっ……」

 レオンが認識していた位置の姿が途切れ、発砲した方向から手品師の姿が露わになる。弾丸がかすめたのか、脇腹から()()血が滴っている。


「あなたはだれ?」

 異能が解けたのか、採集屋の姿でもなく、少女を誑かした使用人の姿でもなく、少年と青年の狭間にあるような幼さの残る若々しい男が立っている。


「ボクは……。いや、()()は手品師ですよ? やれやれ、今のお嬢さんは生身(ピュアボディ)であることを失念しておりました」

 そう言うと、採集屋の姿へと一瞬で成り代わる。姿を変えても脇腹には血の染みができており、痛みを堪えている様子は変わらなかったが。

 彼の姿の変容に伴い、またもやレオンの知覚情報による認知はおぼろげになる。


「……ベアトリーチェ(リーチェ)。彼の位置は見えますか?」 

 拳銃を構えたまま、レオンは少女に問いかける。


「ううん。今度ははっきりしないかも。あ……」

 レオンの問いに首を振るも、何かに気付いたように声を上げる。


「どうしました?」


「名前で呼んでくれた!」

 切迫した空気にも拘わらず少女は笑顔になる。先ほどまで恐怖していたとは思えない華やかさで。


「……」

 自身がもたらしたこととはいえ、思いもよらぬ反応が帰って来て絶句するレオン。


「微笑ましいですね。よく懐いたのは、その肉体(イタコ)の内面性に依るものなのか、貴方の人徳によるものなのか、興味深いところですが」

 場の空気が弛緩したことによって、調子を取り戻したのかのように手品師は、口を開く。


「随分と余裕があるな……」

 銃弾が直撃しなかったとはいえ、出血量からして浅くはないとレオンは判断した。

 どの程度の機械化であり、どの程度皮下装甲などでダメージを抑えられているかは、手品師の異能によって感知できなかったが。


「いえいえ、こんな場所(ところ)で終わるつもりはありません」


「数多くの人々を終わらせて(殺して)きたのに、己の身は可愛いというのか」

 手品師の指名手配理由の一つに連続殺人容疑が含まれていることを、レオンはデータベースから確認している。

 あくまで手品師として認知されている異能(オカルト)能力から、彼であれば実行可能であるという、根拠の薄い立件ではあるのだが。


 科学的調査や技術的進歩の結果、消去法的に神秘(オカルト)でしか実現不可能であるという結論が出てしまうのは、あまりにも皮肉的なのかもしれない。


「そりゃあ、人間なんてものは自己保身の固まりでしょう。自己保全のためなら躊躇いなく他人を犠牲にするでしょう」

 と、手品師は嘲る。


「上層民は飽くなき探究と死の克服の為、生身を捨て機械化という似姿に成り果てた。下層民は日々生きるために欲望に忠実に争い、他人を蹴落としていく。そして中層民は、その2つの狭間で対岸の火事のように中立の傍観者であり続ける、もっとも本物にほど遠い存在だ。その点、彼女は――」




次回更新は1日お休みして、14日の午前3時予定です。

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