青春
『龍二!今日俺の本屋になぁ!『作家になる』って宣言した子がいたぞ!お前と同じ一年だ!名前は近藤京平君!お前とくらべて立派なもんだぁ!』
『うるせーな……切るぞ』
『俺は……近藤京平。お友達になってくれませんか!?』
『近藤京平!?』
(あの近藤京平!?)
『パン屋と本屋を合わせた『ポン屋』ってのをやりたいんだ……』
「さー!本日はブレッドアンドブックス『ドラゴンポン屋』にようこそ!『近藤京平』先生サイン会会場はこちらだよー!」
まいったな……まさかあの時の本屋の親父と龍二が親子だったとは……。
龍二はパン屋と本屋を合わせた『ドラゴンポン屋』をオープンし、俺は宣言どおり初めてのサイン会をあの本屋の親父の店でやることになった。
なんか悔しい。
「メロンパンのおじさーん!」
「だっこー!」
あの時孤独だった龍二はすっかりメロンパンのおじさんとして町の人気者になっている。
「あの……無敵のドラゴンがどんどん弱くなって……まさか町の人気者になるとは思いませんでした!」
俺のファンが熱く作品について語ってくれている。
「読んでくれてありがとう」
「あの……それで失礼ですけど……無敵じゃなくなったドラゴンは今後どうなるんですか?私続きが気になっちゃって……」
ん?それは……今後の龍二しだい……あれ?龍二がいない?
「やめろ!兄貴のベンツがぁ!俺たちはヤクザだぞ!」
「ヤクザがなんだ!こんなとこに車とめやがってえぇ!あぶねぇだろがあぁ!」
「ぷっ!」
龍二が駐車違反のヤクザのベンツを持ち上げてひっくり返した。
ゾロゾロとヤクザたちが集まってくる。
「どうした!?」
「こいつが!」
「ああん!?」
「……なんでしょう?トラブルでしょうか?」
俺は怯えるファンの頭を優しくなでた。
「大丈夫。さっきの質問だけどさ……」
次の展開を今決めた。
「ドラゴンは……力を取り戻してまた無双するのさ」
「えっ!?」
「ただし今度は孤独じゃない」
「頑張れ!メロンパンおじさん!」
「悪い奴らをやっつけろ!」
子供たちは興奮しながら龍二の応援をする。
よっしゃ。
ちょっとだけ俺も……
「先生!?」
「助太刀だぁ!龍二!」
「おお!京平!」
俺は龍二と一緒にヤクザ相手に大喧嘩した。
仮にもプロになった作家が。
「ふん……うらぁぁ!」
龍二がヤクザを持ち上げてぶん投げた。
まさに『無敵のドラゴン』……
俺は青春を掴んで離してまた掴んだ。
青春なんていつだってつかみとれる。
俺はヤクザをちぎっては投げる親友を見てそう思った。