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タイトル変更しました!
セレスティーナの本日最後の仕事は、寮の各部屋に洗濯し終えた服を返してゆく仕事だ。メモを見ながら、数人で手分けして部屋を回る。
すべてを返し終わり、寮の建物を出たところで……
「セレスティーナ!」
と、声を掛けられた。
周りを見渡すと、少し向こうから若い男性が走ってくる。
「ミゲルさん」
「やあ!ごめん、セレスティーナ。またボタンの取れた服があって、つけて欲しいんだけど……いいかな?」
息を切らせつつ、今年騎士になったばかりだというミゲルは顔を赤らめながら言う。
少し前に、ボタンの取れかかっている服を彼が着ていたのを見て、「付け直しましょうか」とセレスティーナから言ったことがあった。
以来、セレスティーナを見かけるたびに、まめに挨拶してくる純朴そうな雰囲気の青年だ。
「あらら、またボタン取れちゃったんですか?いいですよ、付け直します。その服は部屋ですか?」
「うん。取ってくるから、ちょっと待っててもらえるかな」
ミゲルは嬉しそうな顔になって、勢いよく寮の中へ駆け込んで行った。
セレスティーナはそのまま寮の入り口で待つ。同僚たちはもう、洗濯物を返し終わっているようだ。
(もっと字を読むの、早くならないと)
メモの確認に時間が掛かるので、この仕事はいつもセレスティーナは最後だ。これでも、始めた頃よりは早くなっているのだけど。
……ほどなくして、ミゲルが戻ってきた。
照れくさそうに手に持つ服をセレスティーナに渡す。
「ほんと、ごめん。これ、お願いするよ。……あのさ。それで、手間をかけさせちゃったお詫びに、今度、食事でもどうかな?郊外の方に美味しい店があるって教えてもらってさ」
「え?そんな、これくらいで別にいいですよ、気にしないで」
「そういうわけにはいかないよ。……それに、もしかするとまたお願いすることもありそうだし」
ミゲルがニコニコと言う。
セレスティーナはどうしようかと考え込む。
ボタンの付け直しなど、簡単な作業だ。これだけでご飯を奢ってもらうのは申し訳ない気がする。
団服の繕いは専門の人間がやっているが、私服は騎士たちがそれぞれ自分で繕ったり、家族にやってもらったり、街の店へ持って行って直してもらうらしい。ミゲルは針仕事は苦手だそうで、家族も近くにはいないため、店へ持って行くしかないという話だった。
その代金代わりにセレスティーナに奢るということなのだろうけれど。
(どう考えても、店へ持って行くより割高よねぇ。ぼったくりだわ!)
貧乏生活が身に染みついているセレスティーナは、素直に頷けない。
悩んでいたら、鋭い声が掛かった。
「そこで何をしている?」
「あ!副団長!」
ミゲルが慌ててピシッと姿勢を正す。
セレスティーナが振り返ると……リオネルが足早にこちらへ来るところだった。
「彼が、何か君に迷惑を掛けているのか?」
「いえ、そういうワケでは……」
「ち、ちがいます、俺は……じゃない、私は、彼女にその……ちょっと、お願いごとがあるだけでして……」
冷ややかな視線がミゲルに向けられた。ミゲルの顔が強張る。
「お願いごと?」
「ボタンの付け直しです!」
セレスティーナは急いで間に入った。
「ボタンが取れたとのことなので。……すぐ付け直して、持ってきますね」
ボタンの付け直しのお礼にご飯を奢ってもらうところだったなんて副団長が知ったら、ぼったくり営業の罪で洗濯婦の仕事を解雇されたりするだろうか。
ちょっと不安になったので、その点は口にせず説明する。
ところが、リオネルの目は更に険しくなった。
「それは、君の仕事か?」
「へ?……え、えと、そうではないですけど……すぐ出来る簡単なことなので……」
無料だとしても……もしかすると業務外のことを勝手にしてはいけない?
思わず身を縮めたセレスティーナの手からミゲルの服を取り上げ、リオネルはミゲルに服を突っ返した。
「このくらいは、自分で直せ。俺たちは、何日も野営することがある。出来るようにならないと、お前が困るぞ」
「は……はい!申し訳ありません!」
(そうなんだ……)
セレスティーナは目を丸くした。
兄の服は、いつも勝手にセレスティーナが直している。今度、兄に付け方を教えねばなるまい。
「さっさと、服を戻してこい」
「はい!失礼します!」
ミゲルはぎこちない仕草で一礼して、バタバタと去って行った。
それを見送り……リオネルは再びセレスティーナに視線を移す。セレスティーナも、自然とビシッと背が伸びた。
きっとセレスティーナも叱られるのだ。
ところが……リオネルは深々と頭を下げた。
「団員が迷惑を掛けた」
「い、いえ、こちらこそ、あの……勝手な真似を……」
「いや、君が親切で言ってくれたのだということは分かっている。正直なところ、針仕事は苦手な者が多いからとても助かる話だ。しかし……あまり余分な仕事は請け負わない方がいいだろう。君の善意に群がる者が今後、大勢出てくる」
「まあでも、ボタンの付け直しなんて、たいしたことないですし……」
「ならば、きちんと補修代を受け取るべきだ。ボタンの付け直しをダシに君を食事に誘おうと考える輩もいるだろうから」
「…………」
まさに、さっき誘われたところだった。
(ダシ?)
だけどそれは、どういう意味なのだろう。
とりあえずリオネルは怒っている訳ではなく、セレスティーナのためを思って口を出してくれたらしい。副団長が許可するなら……ボタンの付け直しを副業にしてみるのもいいかも知れない。
「わかりました。じゃあ、もし次にこういうことがあったら、お金をいただくことにします。……副団長さまも、ボタンの取れた服があるなら直しますね!ぜひ、ご依頼ください」
ちょっと冗談っぽく言ってみたら、リオネルは少し頬を赤くした。
「ああ……さっき、ミゲルには自分で直すよう言ったが……実は三着ほど置きっ放しになっているものがあるんだ。直してもらえるなら有り難い」
「まあ!」
普段、あまり表情を変えない副団長が気不味そうに告白する姿に、セレスティーナは思わず吹き出した。
近寄りがたい人物かと思っていたが、可愛い面もあるらしい。
「今、お預かりしましょうか?」
セレスティーナは笑いながら提案する。
そもそも、こんな立派な騎士が小さな針を手にボタンを付けている姿なんて想像が出来ない。野営中に焚き火の前で身を屈めながら縫い物をするリオネルを思い描いてみて……ますます笑いそうになってしまった。
リオネルはさらに赤くなったが、小さく首を振る。
「いや、今度また、改めて。君には、礼もせねばならんことだし」
「お礼?」
え?とセレスティーナは目を瞬かせた。リオネルに礼をされるようなことは思い当たらない。
すると、リオネルはハッとしたようだった。
「そうか。君は……エルナンから何も聞いていないんだな?」
「何を……ですか?」
きょとんとして尋ねたら、何故か切なそうな目で見返された。
その眼差しにどきっとする。
「その……すまない。その件も、後日、改めてきちんと説明をしよう。今日はまだ、何も用意をしていない」
「はあ」
たぶん悪い話ではない。
ないはずだが、リオネルの真摯な顔付きに……セレスティーナはなんだか落ち着かない気分になった。
更新、間が空きました、すみません。
家の用事は無事に片付いたのですが、土曜の夜にwifiルーターが壊れ、新しいものを買ってきたのに……いまだに接続が上手くいきません……!PCはなんとか繋げたけれど、wifiが~……(泣。
次回、土曜更新予定ですが、もしかすると遅れるかも~~~。









