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12.式の後で(※)

【※注意】

作者的にはギリR15な判断ですが、明らかにR18を仄めかす展開になります。

苦手な方はご注意ください。

 翌日からノティスは宣言通り、ブローディアとの関係醸成に努め始めた。

 しかし挙式二週間前という事もあり、準備作業を共同で行う事での関係醸成しか出来ない状態だった。


「ノティス様、こちらの招待客リストなのですが、ストレリチア家とブバリア家のお名前が抜けておりますが……」

「ああ、それは出立前にリストから外した家だから、気にしなくていいよ」

「外した?」

「どちらも外交関係を担っている伯爵家ではあるけれど、今回の我々の式にはセレティーナ嬢と一緒にお忍びでユリオプス殿下もお見えになるだろう? この両家は殿下に毛嫌いされている家でもあるから、早々に招待客から外したんだ。そもそもブバリア家のご令嬢とは、昨年の殿下の誕生パーティーで君が一戦交えたと風の噂で聞いたのだけれど?」

「ブバリア家ですか? そう言えば、昨年セレナに絡んできたご令嬢の一人がブバリア家の方だったような……」

「……覚えていないのかい?」

「ええと……」


 フイっと視線を逸らしたブローディアの反応にノティスが苦笑する。


「そう言えば、私の帰国が早まった所為で君の花嫁衣裳の最終調整が出来なかったと、ミランダから小言を言われたのだけれど……。延期後の日程は決まったのかな?」

「はい。三日後のノティス様の衣裳合わせの際、わたくしのドレスも最終調整する事になっております」

「それは丁度いい。同じ時間帯に衣裳合わせをするのであれば、午後は互いに時間が空くだろう? ならば領内にある貴族向けのサロンにでも――――」

「午後からは、大聖堂にて神父様との打ち合わせが入っております」

「……そうか。それは残念だな。ならば、明日、領内にある完全予約制のレストランにでも――――」

「明日は、新たに追加となった招待客の方に送付する招待状が出来上がりますので、招待客リストと照らし合わせたいとおっしゃっていたのは、ノティス様では?」


 ブローディアの返答にノティスが無表情になる。


「……これでは君との関係醸成が全く出来ないのだけれど」

「仕方がありませんわ。挙式まで、すでに二週間を切っておりますので」

「自業自得だとはいえ、これではあまりにも挽回の機会が無さ過ぎる……」

「お仕事でしたので、ノティス様の所為ではないのでは?」

「もう少し悪あがきをして、しっかり断るべきだったと反省している……」


 こうして挙式準備に追われ、二週間があっという間に過ぎてしまう……。

 その為、ノティスがブローディアと出来た関係醸成的な事は、領内にある予約制のレストランでの夕食のみだった。


 そこで一応、婚約指輪を渡されたブローディア。

 そのノティスがくれた結婚指輪は、ブローディアの真っ青な瞳を彷彿させる大きなサファイヤと、小さなダイヤモンドがいくつもあしらわれていた華やかなデザインの指輪だった。


 しかし渡されたのが式の三日前だった為、帰宅後すぐに回収となり、あまりデザインを確認しない状態で挙式日まで保管という流れになる。その指輪の入った箱の管理をブローディアがアルファスに頼んでいると、ノティスがジッとブローディアを見つめてきた。


「ノティス様? どうかされましたか?」

「いや……その、そんなに早くアルファスに預けなくても……」

「ですが、もし三日後の挙式の際にうっかり忘れてしまったら、当日式を挙げられなくなってしまうではありませんか」

「そうなのだけれど……もう少しその、興味を持つとかは……」

「興味ですか? 大変素敵な結婚指輪だと思っておりますが」

「…………」


 その時の自分達のやり取りに対して、執事のアルファスが憐憫の眼差し向けていた事をブローディアは全く気付いていなかった。


 そんなバタバタした準備期間を経て、ついにブローディア達は挙式日を迎える。

 式を行うのは、王家も使用するルミナエス国一美しいと言われているマジェリーナ大聖堂で、その後はルミナエス王家が二人を祝う為に城内で夜会を開催してくれるので、そこで二人は夫婦として初めて挨拶回りをする流れだ。


 しかしいくら二人を祝う為に王家が開いたと言っても、当日の会場の準備や招待客の接待費用等の半分は、ホースミント家持ちだ……。

 そもそも一般的な中堅の伯爵家であれば、自宅で夜会を行う事が多いのだが、ホースミント家のように家格も高い上に周辺諸国の要人が招待客に多い場合は王家が介入してくる事が稀にある。

 この場合、ブローディア達の披露宴を他国の要人達との交流の場として、王家が設けているという感じになるのだ。


 そんな王家の顔を立てながら、夫の仕事相手でもある招待した各国要人達に自身の顔を売り込む為の挨拶回りをしていたブローディアは、自身の親戚や友人達との交流があまり出来ない状態だった……。

 その為、後日改めてブローディアの友人や知人を招いた夜会をホースミント邸で行う事をノティスが提案してくれている。


 そんな目まぐるしい一日を過ごしたブローディアは、やっと本日の予定が終了した時には全力を使い果たしたような状態に陥っていた。

 その一番の原因がノティスの広すぎる交流関係だ……。

 挙式時はともかく、夜会時は引っ切り無しに招待客から挨拶攻撃を受け続けたブローディアは、邸に戻った後すぐに湯浴みをして、死んだように寝台に突っ伏していた。


 すると、寝室の扉がノックされる。

 ミランダかと思い入室を許可すると、部屋に入って来たのは本日夫となったばかりのノティスだった。


「ノティス様? どうされたのですか?」

「どうもこうも……。ここは一応、私の寝室でもあるのだけれど……」


 夫から苦笑気味にそう告げられたブローディアは、ハッとしながら顔をあげ、室内を見回す。そして湯浴み後に案内された部屋が自分の寝室ではなく共同寝室だった事に今更ながら気付き、慌てて体を起こそうとしたのだが……それをノティスが手で制した。


「も、申し訳ございません! あまりにも寝台が魅力的過ぎて入室後は何も考えず、そのまま寝台へと吸い込まれてしまいました……」

「まぁ、今日の君は、初対面の相手と一日中挨拶を交わさなくてはならなかったからね……。相当、疲れただろう?」

「はい……。情けない事に瞼が重く、目を開けているのもやっとな状態です……」


 そう泣き言を呟いたブローディアは、ゆっくりと寝台に突っ伏した。

 そんな状態のブローディアの頭をノティスが優しく撫でる。

 その夫の行動から、初めて自分が子供のような扱いをされている事に驚いたブローディアが、再び顔を上げた。

 すると、困り果てたような笑みを浮かべているノティスと視線がぶつかる。


「疲労困憊な君には、大変申し訳ないのだけれど……。実はこの後、もう少しだけ頑張って貰わなければならない事があるんだよねー……」


 ゆっくりと頭を撫でながらノティスが口にした言葉を聞いたブローディアが、ビクリと肩を震わせる。


「あ、あの……その頑張らなければならない事は、後日行うという訳には……」

「うーん、うちの使用人達は口が堅いから大丈夫ではあるのだけれど。一般的な新婚伯爵夫妻の初夜の流れとして考えると、このまま二人ですぐに眠りにつく事は『翌朝、使用人達に示しがつかない』という状況にはなるねー……」

「うう……」


  遠慮がちに告げてきたノティスの言葉にブローディアが、肩を落としながら再び寝台に顔を沈める。

 その家にもよるのだが、一般的に夫婦となった貴族の初夜というのは、白い結婚の契約でもない限り、挙式後の初めて二人が迎える夜に肌を重ねて事実上でも夫婦となり、翌日その寝室を整える使用人達がそれを見届けるという暗黙のルールが根付いている事が多い。


 実際にホースミント家でもそのような習わしがあるのかは不明だ……。

 だがブローディアは一応、その事を挙式前にイレーヌへ軽く確認したのだ。

 しかしイレーヌからは「ノティス様にお任せしていれば万事問題ないです!」と、力強い笑みで言い切られてしまい、その真相は不明なままだ……。

 だがノティスが、このような言い回しをしてくるのであれば、ホースミント家にもその暗黙のルールは適用されているのだろう。


 しかし、今のブローディアはノティスとの行為に戸惑うどころか、本日の挨拶回りによる疲労が激し過ぎて、体を起こすのも億劫になっている。そんな状態で、今から更に体力を消耗する行為を夫と出来るのか、その方が不安である……。

 すると、その考えを読み取ったのか、頭を撫でていたノティスが、ブローディアのサラリとした金の髪を一房手に取った。


「かなり酷な事を言ってしまうけれど……。いっそ今のような疲れきっている状態の時に行った方が、君にとって気持ち的には楽かもしれないね」

「え……?」

「そんなに疲れ果てている状態ならば、恐らく行為中は余計な事を考える余裕もないだろうから、変に羞恥心とかを感じずに済むかもしれないよ? 君はただ私にされるがままとなって、受け入れるだけでいい。あとは私が出来るだけ君に負担が掛からないように事を進めるから……」


 そう言ってノティスが、先程手に取っていたブローディアの髪をするりと取り落す。そして再びブローディアを宥めすかすように頭を優しく撫で始めた。

 その心地よく撫でられる行為にブローディアの瞼は、更に重みを増していく。

 危うく寝落ちしそうになったブローディアは、気力を振り絞ってゆっくりと体を起こした。


「ノティス様は……あんなにも大勢の方とお話をされていたのにお疲れではないのですか?」


 何とか体を起こしたブローディアがトロンとした目をしたまま、ノティスに質問すると、その様子がおかしかったのかノティスが苦笑する。


「まぁ、確かに今日は接しなければならない人が多い方ではあったけれど……外交業務中は、あれぐらいが普通だから、そこまで疲労は感じていないかな」

「あれが普通……」

「でも対応し慣れていない人間にとっては、常に笑顔を張り付けて周囲の動きを気遣う事に気張ってしまうから、かなり気疲れしてしまうよね……。初夜の先延ばしは応じられないけれど、かなり疲れている事は理解しているから少し眠って休んでからでもいいよ?」


 そう言ってブローディアの重く圧し掛かってくる瞼を労うようにノティスは、ブローディアの頬に手を伸ばして親指の腹で優しく撫でる。しかしブローディアは、そんな扱いをしてくるノティスにムッとした表情を向けた。


 今まで対等な立場で扱われていたブローディアにとって、今のノティスは明らかに小さな子供をあやすような接し方をブローディアにしてきている。その事に気付いた瞬間、負けず嫌いなブローディアの闘争心に火が付いたのだ。


「いいえ、結構です! 今すぐ致しましょう! わたくしもノティス様に任せきりにはせず、自分なりに頑張りますので!」


 ピシリと姿勢を正し、宣言したブローディアにノティスが呆れた表情を向ける。


「頑張るって……。君、これから自分が閨でどういう事をされるのか一切分かっていない状態で、どうやって頑張るつもりなんだい? どうせご令嬢方が受けている閨の講義なんて『殿方にお任せしておけば良いのです』の一点張りで、ろくに詳しい事など教えて貰っていないだろう?」

「そ、それは……そうなのですけれど……。わ、わたくしだけボケッとしながら、ただノティス様に身を任せているだけという状況は、かなり怠惰過ぎるかと!」


「いや、怠惰も何も……。こういう事は普通、男性の方がリードするものであって……。ある意味、君達が受けた閨教育は、物凄く的確な内容で非常に効率の良い簡潔な指導方法だと思うよ?」

「で、ですが!」


 あまりにも必死な様子で「自分にも協力出来る事があるはずだ!」と主張してくるブローディアに、ついにノティスが堪えきれなくなって吹き出した。

 その夫の反応にブローディアがキュッと眉を上げ、不機嫌な表情を浮かべる。


「いや、その……申し訳ない……。君が物凄く協力的な事は理解したのだけれど、どうも間違った方向に頑張り始めたから、つい……」

「間違った方向とはどういう事ですか……?」


 恨みがましそうな表情したブローディアが、ノティスを下から睨みつける。

 そんなブローディアを瞳に涙を浮かべて笑いを噛み殺しながら、再度ノティスが宥めるように撫で始めた。だがブローディアは、無言で夫を更に睨み続ける。

 すると、やっと笑いがおさまったノティスが涙を指で拭いながら、ふわりと笑みを浮かべた。


「本当に君は何もしなくていいんだよ? こういう事は男性が率先して動く事なのだから……」


 そして頭を撫でていた手をブローディアの頬に滑らせる。


「こちらとしては、会って間もない10も年上の男に拒絶や恐怖心も抱かず、協力的にその純潔を捧げてくれようとしてくれているだけ充分助かっている……」


 その瞬間、ブローディアが大きく目を見開く。

 そしてそのままノティスの頬を包み込むように優しく触れる。

 ブローディアの予想外の行動に今度は、ノティスが驚きの表情を浮かべた。

 そのノティスの反応に自分が無意識にしてしまった行動に驚き、ブローディアが慌てて手を離す。


「ディア? 一体どうし……」

「そ、その! も、申し訳ございません! 何と言いますか……その、先程のノティス様が何故か泣き出しそうなお顔をなさっているように見えてしまったので、つい……」


 ブローディアがそう零すと、何故かノティスが驚きながら固まる。

 だが、すぐに瞳をゆっくりと閉じながら小さく息を吐き、何故か痛みを堪えるような笑みを返して来た。


「初夜に新妻へそんな表情を向けて心配されるとは……私は相当不甲斐ない夫だな……」


 そして自嘲気味に呟いたかと思うと、ブローディアの方へとゆっくり手を伸ばし、頬に掛かっていた金の髪を耳にかけながら顎へと手を滑らせる。

 そのまま軽く顎が持ち上げられたブローディアは自然と顔が上向きになり、自分の青い瞳を覗き込んでくるノティスの水色の瞳とぶつかった。


 その互いの額がくっ付きそうな距離間にブローディアが、一瞬だけ体を強張らせる。

 それを察したのかノティスが、ゆっくりと目を細めて柔らかい笑みを浮かべた。


「折角、君が協力的になってくれているのだから、私も怖気づいている場合ではないな……」

「え……?」


 一瞬、ノティスの口からこぼれた予想外の言葉を拾ってしまったブローディアが、確認するように口を開きかける。

 しかし次の瞬間――――。

 ノティスは額を押し付けながら、そのままブローディアを寝台へと沈めた。


「ディア……無理はさせないから……。少しだけ我慢してくれ」


 何故か酷く悲しげな声で耳元に囁いたノティスが、ゆっくりとブローディアの背中と寝台の間に腕を滑り込ませて、自身の方へと抱き寄せる。

 そのままブローディアは、ゆっくりと瞳を閉じてノティスに身を委ねた。


 しかし翌朝、ブローディアはあっさりとノティスに身を委ねた自身の浅はかさに後悔する事となった。

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