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比与森家の因縁  作者: みづは
白銀の狐
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16

殺した……って。それじゃ放火したのは正木だったのか?

そんな俺の疑問に気付いたのか、正午が「違いますよ」と言う。


「その後の新聞を丹念に読んでいたら続報が載っていました。放火したのは、隣町に住む大学生で、他にも余罪がありましたよ。人間関係が上手く行かずむしゃくしゃして火を放っていたらしいです」


あ、なんだ。ビックリした。

森の事があるので正木に対する心証は果てしなく悪くなっているが、だからと言って放火した末に人まで殺していたとは思えなかったのだ。と言うか。

十才かそこらの子供にそこまでの悪意があったとしたら怖いし厭だ。


「違うんだ……他の火事はその学生が放火したのかも知れないが、ここであった火事だけは違う」


思い詰めた声でそう言う正木に向かって正午が素っ気なく肩を竦めて見せる。

それに促されたのか、正木が続けて話す。


「あの日、私は彼女とここで花火をしていたんだ。楽しかったよ、大人たちに隠れて二人きりでした花火はとても綺麗だった」


そう言って言葉を切るのは、その時の光景を思い出したからだろう。


「でも帰ろうとした時、彼女が忘れ物をしたと言い出したんだ。一緒に戻ると言ったが、大丈夫だからと一人で行ってしまった。外で待っていようかとも思ったんだが、人目についたら親に知られて怒られると思って先に帰ったんだ」


女の子を一人残して先に帰るのはちょっと冷たいと思うけど、お互いに家が近所ならあり得ない話でもない。

正木とその子がどんな関係だったのかは分からないが、夜にわざわざ会って花火をするような仲だったのだ。それなりに親しかったのだろう。ならば、親にだけは知られたくないと思っても無理はない。叱られるだけならまだいいが、友達付合いを禁止されるかも知れないからだ。


「その女の子は忘れ物を取りに戻って火事に巻き込まれたのか?」


そう問い掛けると、すぐに「違う!」と正木の叫び声が返って来る。


「消したつもりだったが、どこかに花火の火が飛んだんだ。その所為で彼女は死んだに違いない」


えー。

でも正午が読んだ新聞にはその放火魔の所為で火事になったって書いてあったんだよな。

その記事が間違ってたのか、警察が間違ってたのか……でも、どっちも考え難い。

俺も詳しくはないけど、消防とか警察が火の手があがった場所とか調べるだろ。それで建物の外って事になったんじゃないかな。

そう考える根拠は女の子が焼け跡から発見されたからだ。もし建物の内側から火が上がったなら当然ながら逃げる筈だ。それなのに建物の中にいたって事は、外が燃えていて逃げられなかったって事じゃないのか?


「正木さんはそう思いたいんですね」


そう言うと、正午が正木に向かって一歩近づく。


「彼女を失った喪失感と自分だけが生きている罪悪感。それらに耐えるためには自分の罪を告白して、彼女自身に断罪されたかった……だから、司郎をここに連れて来たんでしょう?」

「何で俺?」


突然、名前を呼ばれてキョトンとする。

だって関係ないじゃん、俺は。


「旧校舎の幽霊、それを司郎が成仏させたと噂になっていたんでしょう?」


花子さんなら成仏してない。俺の隣に腕組んでフンフン頷いてるよ!

そう言い返したいのをグッと堪える。正木には花子さんが見えてないんだから言ってもしょうがないって気が付いたのだ。


「幽霊を呼び寄せる司郎がいれば死んだ彼女もあらわれる筈、そして生き残った正木さんを見たら責め立てるだろう。そう思ったんでしょう?」

「ああ。だが、彼女は来てくれなかった」


正木の言葉に正午がチラリと花子さんを見る。

前日に花子さんがここにいた連中を全部うちに連れ込んでたんだもんな……俺だって花子さんに文句の一つぐらい言いたいよ。


「だから次に学校でコックリさんを流行らせたんですね。幽霊が出やすい環境を作るために」


そんな理由かよ!

そのためにどれだけの騒ぎが起きたと思ってるんだ。正木を慕っていた清水は暴行の加害者になったし、何の関係もない一年生はヒステリー起こして病院に運ばれたんだぞ!


それに森だって傷ついてた。


俺にとって森は、ちょっとエキセントリックで怖いってだけの女装しているように思えてしまう変人だが、だからと言って傷つけていいとは思わない。

何より、森は風紀の仲間だ。それを傷つけた正木を許せないと思うのは当然だろう。


「それで……正木はどうしたいんだ。死んだ女の子に許して欲しいって言うのか」


そんな勝手な言い分が通ってたまるか。

そりゃ女の子が死んだのは正木の所為じゃない。ムシャクシャして放火した大学生が悪い。

だからって死んだ人間に許しを請うなんて間違ってると思う。間違ってるって言うか、意味がない。

そんな事よりも、今後どう生きて行くか。それこそが重要なんじゃないのか?


「許しなんていらないよ……私は彼女に責められたいんだ。自分だけ生き残った卑怯者と、お前が死ねば良かったのにって言われたいだけだ」


正木が何を言ってるのか分からない。

もはや戸惑ってすらいる俺は頭の中で今の言葉を繰り返して、コイツ本当は放火が原因だって分かってるんじゃないかって思った。

火事の原因が正木だったなら、まだ良かったのだろう。いや、何一ついい事などないのだが、少なくとも正木は誰かに責められ謝る機会に恵まれた筈だ。少年法と言うものがあるから裁判に掛けられたかどうか分からない。それでも、女の子の家族に謝罪する事は可能だったろう。

でも、正木は犯人ですらないのだ。


二人いて、片方は死んでもう片方は生きている。正木にとって生きている事、そのものが罪悪感を覚えて仕方ないんだろう。それをどうにかしようとするなら、自殺するしかないのかも知れない。

でも、正木は死にたくないんだ。いや、そうじゃなくて自殺するにしてもちゃんとした理由が欲しいに違いない。

だから、死んだ女の子に責められたいのだ。


自分が悪かったと、自分が生きているのは間違っているのだと言われたいのだろう。

だから、オカルトに嵌まったのか。

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