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比与森家の因縁  作者: みづは
紫の獣
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灼熱の太陽と、耳にこだまする蝉の声。

夏休みも半ばを過ぎていた。


補習だとか委員会があるものの、普段に比べればヒマだと言える。


あれから学校はてんやわんやの大騒ぎだった。連日のようにマスコミが押し掛け、教頭の死体が発見された旧校舎には制服姿の警察官が出入りしていた。当然、旧校舎への立ち入りは以前にも増して厳しく禁止され、俺ら学生は近づく事すら出来なかった。

しかし、暫くして教頭の死因が心不全だと判明して事件性がないと発表された途端、マスコミの姿は消え警察官の数も徐々に減り、終業式を迎える頃にはいつも通りになっていた。


もちろん、事件性がないと言っても謎は依然として残ったままだ。

どうして教頭が旧校舎で死んでいたのか、一緒に発見された白骨は誰だったのか。それらは判明していないにも関わらず有耶無耶にされてしまった。要は飽きたのだろう。

実際、旧校舎で何があったのか、解明するのは無理だと思う。

教頭に殺された女生徒が幽霊になって、自分を殺した相手を取り殺しましたなんて、言ったところで誰も信じない。それなら教頭は見回り中に心臓発作で倒れて死んだって事にした方が説得力があるってもんだ。

この先、もしかしたら元からあった花子さんの怪談と結びつける者がいるかも知れない。そうなったとしても、今回の事件は新たな怪談として語り継がれるだけだ。


午前中に委員会があったので、今はその帰り道だ。

吹き出す汗を手のひらで拭い、そのまま右目を覆ってみる。

いつの間にか舗装されていない道へと入っていたらしく、辺りは鬱蒼とした木々に覆われている。暗いと言うほどではなく、茂る葉の隙間から空を仰げば白い雲が流れているのが見える。


だが、手を動かして左目を覆うと見える景色は一変する。

緑に隠れるようにして佇む黒い影。輪郭すらボンヤリとしたそれらは、大雑把に言ってしまえば幽霊みたいな物なのだろう。

以前だったら、絶対にこんな場所に来ようとは思わなかった。来たとしても見なかったフリをして引き返している。そして家に帰って、怖かったーと安堵の息をついていた筈だ。


しかし、今は違う。

怖い事は怖いんだけど、黒い影に敵意などないと分かっているからだ。

あれはただの残骸、残りかすのようなものだ。かげろうのように果敢ない物だ。時間が経てば自然と消えると分かっている。

もし敵意あるものがいたとしても、俺にはシロウが憑いている。俺が襲われるよりも先にシロウがあいつらを食ってしまうだろう。


道を進むにつれて、そういった影は少なくなっている。

理由は俺が向かう場所にあるのだろう。


再び歩き始める事、十分ちょっと。

突然開けた視界に足を止めてしまう。

こんな山の中では不自然なほどに立派な日本家屋。高く聳える塀と大きな門。

そこに掲げられた表札には『比与森』と書いてある。




比与森千鶴子、つまり俺の死んだ母親の実家である。

山の中にあるだけだって、周りに民家などなく深い緑に囲まれている。

祖母の仕事を思えば、それは当然だったのかも知れない。何しろ拝み屋だ、誰だって詮索したくなるだろう。だから人里離れたこの土地で暮らしていたのかも知れない。

しかし、特殊な稼業である分、儲かったのだろう。そうでなかったら山の中とは言え、こんな豪邸とも言える家を建てられる筈がない。

そんな豪邸のインターホンを探してみるが、どこにも見当たらない。


誰か来た時、どうするんだ?


そう首を傾げてみるけど、どうしようもない。まさか門を叩いて開けて貰う訳にも行かないだろう。そんな事しても中まで聞こえるとは思えないし。

仕方ないので、門の脇の木陰でしゃがみ込む。

買って来たペットボトルを取り出すと、物凄く生温い。三十分以上、炎天下を歩いて来たんだからしょうがないか。

温いお茶を喉に流し込んで顔を顰める。


佐倉小花を探す事から始まって、教頭の死で終わった事件。その間、俺と一緒に行動していた『足立』という一年生。

その正体を探ってみたのだが、どうにも埒があかなかった。

人探しなんてした事なかったし、名前は偽名だし、写真もない。特徴をあげるとしたら160センチぐらいの生意気そうな一年生って事になるが、これじゃ絞り込むのは不可能だ。


そこで、発想を変えて親父の荷物を漁ってみた。

会社に泊まり込んでばかりの親父だが、何か知っている筈なのだ。

未整理のまま放置されたハガキの束、その中に差出人が『比与森夏美』と書かれた年賀状を見つけた。

名前からして、親戚だろうと分かる。比与森ツルには千鶴子の他に息子が一人、だが既に鬼籍に入っている事から、その妻にあたる人物だろうとあたりをつけた。

血の繋がらない叔母ではあるが、俺よりも比与森ツルに関して詳しく知っているだろうと思う。封印が解かれたと言っても、俺の記憶には欠落が多い。

何とか、この比与森夏美から話を聞けないだろうか。そう思って住所を見たら、これが案外近かった。

だから直接来てみたのだが、まさかこんなデカい屋敷だとは思わなかった。


どうするか決めかねて、その場でしゃがみ込んでいると、遠くから規則正しい足音が聞こえて来る。誰かがこちらに向かっているらしい。

立ち上がるのも億劫だったので、そのままの姿勢でそちらに目を向ける。


半袖の開襟シャツにグレーのスラックス。

俺を認識したのか、革靴を履いた足がピタリと止まる。


「よぉ」


暑さでヘロヘロになりながら何とか手を上げると、心の底から呆れたような溜め息が返って来る。


「こんな所で何してんですか」


もっと驚くかと思ったのに、反応薄いな。本当に可愛気のない、生意気な奴だ。


「お前に会いに来たに決まってんだろ、比与森正午」

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