第1話 仮面の少年、迷子の街で銃声を聞く
私、黒金翠は危機的状況に陥っていた──。
地元の鹿児島県から東京都へ。
ある目的地を目指し、メイドと2人旅の最中だったのだが……。
目深に被った帽子のつばを、指先でそっと押さえる。
この姿でいる限り、私の正体に気づかれることはない──はずだった。
休日の商業施設13階。焼きたてのパンの甘い匂い、噴水の水音、子どもの笑い声。エスカレーターを昇り降りする人々の足音が、幾重にも重なって、心地よい喧騒を作り上げていた。
平和だった。
その、ほんの数秒前までは。
パッッーン!!!
それは突如として、この空間を支配するかのような破裂音が、一発鳴り響いた──。
多くの人で賑わっていた商業施設の13階ロビーが一瞬にして静寂に包まれる。
先程までの喧騒が嘘のように消え、代わりに、痺れるような沈黙だけがその場を支配した。
突然大きな音がすれば、誰もが音の発生地点に注目するだろう。
その発生地点には、男が立っていた。
黒い靴、黒いズボン、黒い上着、黒いマスク、黒いサングラス、黒い髪、黒い手袋、そして黒い銃。
全身真っ黒スタイルの男が──。
『この人は黒色が好きなのかな……!?』
そう思ったのは私だけではないと心の中で思いつつ、男を観察していると
「ざまつけ……躓けぇぇぇー!!!!!!」
男はそう叫び、近くにいた男性に銃を発砲した。
破裂音と共に、男性の悲鳴が響く。
血の匂いが、甘いパンの匂いに混じって、鼻の奥に届いた。
その男の行動とともに、静止していた人々も動き出した。
悲鳴。怒号。逃げ惑う足音。
男と物理的に距離が離れている人達は逃げ惑い、
ある程度近くにいる人達は逃げたくても逃げられない状況に陥っていた。
自分1人なら確実に逃げ出していた状況だが、隣に幼い女の子が居り、逃げ出すことはできなかった。
「すーちゃん……」
私の服の袖を弱々しく震えながら掴んでいる私と同じくらいの年頃の少女、緑樹弥生ちゃん。
小さな手のひらが、震えているのが伝わってくる。
つい先程出会った迷子の女の子。
かくいう私も、はぐれてしまったお世話係を探している最中で、お互い連れを探しているうちに出会い、この場に遭遇してしまった……。
彼女は非日常的な光景を目の当たりにし、足が竦んでしまっている。
その他にも少なからず彼女と同じ様な状態に陥っている人達がいる中で、私はこの場を冷静に観察し始めた──。
──おかしい。
銃声からまだ数秒しか経っていないのに、私の頭は、驚くほど静かだった。
この身体は幼くとも、中身は──。
そこまで考えて、私はふと動きを止めた。
冷静という以上に、何かが引っかかる。まるで、この銃撃事件そのものが、誰かに仕組まれたもののような──そんな、説明のつかない感覚があった。




