11話
「えー、今日は転校生を紹介します。如月ジュリさんです」
ホームルームの時間。
相変わらず担任の寺井が黒板の前に立たせた人物を見て、俺は耳を疑った。
「……ん?」
「こんにちは、如月ジュリです。今日から皆さんのクラスメイトになりました。仲良くしてくださいね」
「そうだな、三隈の席の後ろに座ってくれ。丁度空いてる」
誰もが知るトップ配信者の登場に、教室の空気が爆発したように沸き立つ。
寺井はざわめきを意に介さず、淡々と指示を出した。
「え!? 本物!?」
「すげぇ! めっちゃ顔ちっちゃい!」
「でもジュリちゃんって、あの三隈と……」
昨日の配信で俺の姿を見た連中が、ヒソヒソとこちらを見ながらざわめきを強める。
指定された席に座るジュリに、俺は呆れ果てて前を向いたまま声をかけた。
「学校のクラス割にも、意見をねじ込めるのか。人気配信者の影響力は絶大だな」
「この学校の理事の人がわたしのファンみたいで、色々と融通してくれたの」
迷宮庁の人間がアイドル配信者になびくとは思えない。いや、そのはずだ。
鳳から俺へのいやがらせか、なにかの狙いがあってのことか。
いずれにしても効果は抜群だ。嫌な方向で。
「普通を目指してる最中だ。あまり目立つことはやめてくれよ」
「今からは、ちょっと難しいんじゃないかな? あの配信、とんでもなく視聴回数が伸びてたし」
彼女の言う通り、俺の「普通」は完全に崩壊しかけている。
「それでも、普通をあきらめたくない」
「まぁ、わたしは特別になりに、ここに来たんだけどね」
「まだ特別扱いされたいのか」
有名人という肩書きへの執着かと思い尋ねると、彼女はふふっと小さく笑った。
「別に皆にされたいわけじゃないよ。ただひとりだけ」
「そうか、頑張れよ」
俺が適当に受け流すと、背後から小さく不満げなため息が聞こえた。
◆
――その日の夜。
自室のベッドで微睡んでいたジュリは、ふと不思議な感覚に包まれた。
意識の奥底に、かすかなノイズが響く。
それは言葉にならない、透明な波紋のようなものだった。
ノイズは次第に形を持ち、優しく温かい『誰か』の気配へと変わっていく。
そして、脳裏に直接、幻ではない確かな声が響いた。
「ありがとう、ジュリ。おやすみなさい」




