防衛の要
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ここは魔導王国ドルジェオンの王都、カピテリス。
巨大な魔法陣を形成する生け垣や花壇の集まった先、王都の中央に立つ王城。
天空に向かって、その城の尖鋭を氷柱のように突き伸ばしている。
そんな威光に満ちた王城だが、今現在、女王は不在にしている。
『塒国』で新政権が発足し、その首脳との会談に向かっているためだ。
女王不在の王城で今、とある会議が行われていた。
「ダンテリオ殿、王都防衛の首尾はいかがですかな?」
クリスタルの内壁に囲まれた会議室のなかにいるのは2人の人物。
いずれも、王国を支える重要人物である。
「グロォウッ! もちろん、吾輩の部隊は常に最高の状態を維持しておる。まして王都防衛の重任を任せられたとあれば、兵士たちが猛るのも当然というものである!」
威風堂々、金色の鬣。
背丈が常人の2倍はあろうかという恵体の紳士。
聖輪騎士のひとりにして、王国正規軍第2位の実力者。
『黄金獅子』、ダンテリオ=ポルポンタ!
「王城周囲の警備はもちろん、外部からの侵入にも迅速に反応し、戦力を最短経路で集約できるように配置しておる。抜かりはないであろうよ」
「さすが頼もしいですな、ダンテリオ殿。女王とファスマ殿が不在である今、王都防衛の要はあなたです。その大任を任されることこそ、女王の信頼の表れと言えるでしょう」
そう話すのは神官帽を頭にかぶった、中年の男。
とても優しく、聞く者を安心させる声の持ち主。
この国の貴族院議長にして、正教会の神官長も兼任しているギウス=ディツュアであった。
「さらに、王都の守護結界を構成する魔法陣式のうち、要となる箇所には特に重点的に守りを固めておる。守りは万全なのであるよ、グロォウッ!」
「ふむ。となると、北方の£、南南東の€、そして外縁のξですな」
ギウスはテーブルに広げた王都の地図とにらめっこしながら、ダンテリオが言う箇所を指し示していく。
魔法陣は『方式学』の理論に則って構築されており、魔法記号を組み合わせることによって目的とする効果を得る。
魔法記号を完璧に組み合わせることによって得られる結界効果は絶大だが、その『要』となる箇所を破壊されれば機能障害を起こし、魔法陣は破綻することとなる。
『要』は魔法陣の重要な動力源であるとともに、重大な弱点でもあるのだ。
「王都の守護魔法陣は堅牢であるが、女王不在の状態ではわずかに防衛力が落ちる。その不足分を補うために、我ら金剛獣騎士団が防衛にあたっているのだ。王都の守りに憂いはないのである! グロォウッ!!」
「さぁて、果たしてそれで完璧と言えるかねぇ?」
「クリセンサマム中将」
ギウスとダンテリオが振り向いた先には、可愛らしい黒猫が音もなく歩いていた。
だが、黒猫はギウスに名を呼ばれると、元の人の姿へと戻った。
軍服を着た、落ち着いた雰囲気をただよわせる老齢の女性。
白髪混じりの金髪を、後ろでひとつにまとめている。
オキク=クリセンサマム中将。
変身魔術の名手。
優れた軍略で、王国正規軍の参謀を務める女性である。
「王都の守護魔法陣は目に見えるものだけじゃないだろう? むしろ、その下にあるものこそが本物であると言えるだろうねぇ」
ーー『積層魔法陣』。
王都の地下には迷宮のように張り巡らされた広大な地下空間があり、魔法陣を形成している。
地表の魔法陣と地下の魔法陣が積層構造を形成しており、王都の守護を完全無欠なものとしているのだ。
そして、その地下の魔法陣の『核』を成しているのがーー
「『真理の巨像』だ。地下の守護魔法陣は、巨像から恒久的に魔力を供給され続けている。そちらの守りは完璧だと言えるんだろうねぇ?」
「地表の魔法陣だけでなく、地下も狙われるということですかな?」
「フムゥ。地下への入口は数えるほどしかなく、極秘裏に隠されているため警戒していなかったが……。一理あるな」
ダンテリオは感心したように顎をさすり、クリセンサマムを見返している。
「やはり現状、王国の脅威となり得るのは秘密結社『救い主の手』。彼の者たちは次の標的として、『巨像』を狙っているという説もありますな」
「『巨像』はこの王都防衛の要であると同時に、奴らの標的でもあるというわけだな。じつにけしからんことである。グロォウッ!」
「『内通者』によって、地下魔法陣の存在も、『真理の巨像』の隠し場所も筒抜けになっているとしたら……。女王不在のこのときを、見逃すわけがないだろうねぇ」
ギウスはクリセンサマムの話に納得したようにうなずいた。
「我が国が保有する『真理の巨像』は、聖都に保管されている『善悪の巨像』と並び、もっとも強大な力を持つ像であると言われております。その力を思いのままに操ることができるとしたら……。あらゆる奇跡を実現することが可能でしょうな」
王都の地下魔法陣に組み込まれている『真理の巨像』。
聖都に保管されている『善悪の巨像』。
さらに、この2体の巨像は連携を持ち、国家防衛の切り札ともなる機能を持っているのだが……。
その機能について語られるのは、のちのことである。
「クリセンサマム中将、感謝する。敵の狙いが分かっていれば、守るのは容易きこと。地下への出入り口の周囲にも警戒網を張ろう。奴らの思い通りには、この吾輩が断じてさせん!」
「ダンテリオ。アンタの実力は誰も疑っちゃいないよ。だけど、今は外をウロチョロしている不穏因子がいるだろ?」
「…………ザグラス、か」
ザグラス=ブリアント。
ダンテリオと同じく、聖輪騎士のひとり。
才能あふれる彼は、若くして聖輪騎士の一員として数えられており、その戦歴は長い。
海外遠征での厳しい戦いにおいて、ダンテリオとは助け合った仲である。
互いに幾度となく命の危機を救い、救われたことがあった。
そのザグラスが、近年では不審な動きを見せていた。
地方の巡回警備では軍略会議で指定していない地点に部隊を動かしたり、王都内ではコソコソと何かを嗅ぎまわるように徘徊している様子が目撃されている。
聖輪騎士のひとりである彼には行動の制限はなく、監視を付けることはできない。
どこかで『救い主の手』の者と接触していたとしても不思議ではない。
また、王国の最重要戦力である彼のもとには、国家の機密情報も集まりやすい。
まさしく、『内通者』として彼はうってつけの人材なのだ。
長く信頼関係にあったダンテリオにとって、ザグラスが『内通者』として疑われていることは非常に辛いことであり、複雑な胸中を抱えていた。
「ザグラスが『内通者』だという証拠はまだつかめちゃいない。けれど、もしあいつがアンタの前に立ちはだかったとき……。ダンテリオ、アンタはどうするんだい?」
「ザグラスは古くからの盟友だ。若いが実力もある。だが、奴が王国の敵として吾輩の前に立ちはだかるならば……」
ダンテリオは、その獅子のような鋭い眼光を光らせた。
「奴を、打ち砕く」
クリセンサマムはダンテリオの言葉を聞き遂げると、再び黒猫の姿へと戻った。
「アンタのその言葉を聞けて安心したよ。いざというときは、決して迷うんじゃないよ」
そう言って、黒猫はしたしたと歩き、会議室を後にした。
ダンテリオとギウスは沈黙したまま、その黒猫の背中を見送ったのであった。




