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エンシャント・クルーレ② ー『花』の章。冷徹イケメン最強騎士は実の妹である私にだけはデレデレ!? 幸せ宮廷生活に魔導女学院でほのぼの日常オホホホホ!!ー  作者: 藤村 樹
錬金術師と命の滴

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小さき守り人

 高台の下、とある道具屋の室内。ノハナとリコ、そしてプレティ=チューパー操る悪魔たちとの戦い。


 リコはロープの悪魔とハケ水車の悪魔に囚われ、女子としての尊厳を踏みにじる、地獄のような責め苦を受けていた。

 物陰に隠れて一時避難していたノハナ。

 圧倒的な数の不利になすすべのないノハナであったが、そんな彼女に、祖父の過去の言葉が蘇る。


「おじいちゃん。こんなとき、私はどうすればよいデスか? 助けてほしいのデス……」


 ノハナが語りかけたのは、彼女の固有武器にして固有スキル、『見習い魔女の練習ステッキ』。

 そのステッキは、実はノハナの祖父が作ったものであった。


 専門の杖職人などではない。

 彼はあくまで武器職人であり、一流の魔導杖にはとうてい及ばない。

 だが、杖の素材には使用者を守るとされる柊が使われ、大切に、大切に、削りだされた。

 

 ステッキはノハナの10歳の誕生日にプレゼントされたものだ。

 喜ぶノハナに、祖父は言った。

 今のように病で痩せ衰える前の、たくましく、力強く、そして優しい声で。


「ノハナや、道具は自分の心の一部だと思って、大切に使うのじゃよ」

「なんでなのデス?」

「道具は長く、大切に使っていると精霊が宿ると言われておる。大切に使えば使うほど、持ち主にお返しをしてくれて、大切に守ってくれる」

「そうなの? おじいちゃんはどうしてそんなこと知ってるのデス? 道具に宿る精霊さんを、見たことあるのデス?」

「ホッホ! もちろんじゃよ。ワシは物作りのプロじゃ。そして、物作りはワシらドワーフの誇りなのじゃ」

「ふーん……?」


 祖父の話は半信半疑だったが、ノハナはもらったステッキを、大切に大切に使い続けた。

 毎日肌身離さず持ち歩き、魔法の練習に使い、使い終わったら磨いて箱に収めた。

 いつしか祖父のステッキは、ノハナの固有武器にして、固有スキルとなった。


 固有武器・固有スキルはその人の『魂の形』とも言えるもの。

『魂の形』となるほどまでに、ノハナは祖父からもらったステッキを大事にしていたということなのだ。


 祖父と孫の、互いを想いやる気持ち。そして、ノハナの道具を大切に使い続ける気持ちが、彼女の固有スキルを新たな次元へと導いた。


 ……気付けば、握りしめていたステッキの傍らに、小さな女の子が立っていた。

 手のひらほどの背丈しかない小ささ。

 葉っぱの傘を手に持った、なんとも可愛らしい女の子。

 ノハナに似て、クリッとしたドングリのようなまなこをしている。


 女の子は、不思議そうに主の顔を見つめていた。


「え、あなたは……!?」

「クポォ、ポクポォ?」


 このまるで妖精のような女の子こそ、ノハナの新たな固有スキル。


小さき守り人(コロポックル)』!!


 最初、ノハナは自分が『召喚』スキルに目覚めたのかと思った。

 だが、違う。

 これはステッキに宿った精霊に姿を与える、『具現化』系のスキルだ。


 異世界から幻獣を呼び寄せる『召喚』スキルとは違う。

 また、チューパーの道具に悪魔を憑依させて操るスキルは『操作』系にあたり、異なるものである。


 ともかく、ノハナは新たなスキルに目覚めたのだ。

 そして、スキルは発動した。


「クポ♪ クポ♪ ポクポッ♪」


 戦闘中とは思えぬのどかさで、コロポックルは歌いはじめた。

 彼女が歌いはじめるのとともに、あたりには小さな黄色の花びらが舞い落ちた。


小さな幸せ(リトル・ハピネス)


「ギチギチ! ギチ……ギ……チ……」

「ボーン、ボーン!! ……ボォーン……ボォーン……」


 舞い落ちる花びらに触れた瞬間、自らを痛々しく締めつけていた万力の力はほどけ、かまびすしく打ち鳴らされていた柱時計は本来のリズムを取り戻した。

 悪魔に憑依され、怒りとも怨嗟ともとれる醜悪な表情を浮かべていた道具たちは表情を和らげ、元の道具へと戻っていく。


『小さな幸せ』は舞い散る花びらに触れた者の負の感情を浄化し、低級の霊や悪魔を祓う効果をもつ。

 さらに、味方パーティーの『運』を上昇させる効果もある。


 ノハナの『小さな幸せ』により、多くの道具は正常化され、パタパタと地に落ちていった。

 リコを縛りあげていたロープも緩み、ハケ水車は元のハケと糸車へと分かれた。

 

「はや! すごい、ノハナちゃん。これがノハナちゃんの新しいスキル……ハッ!」

「ア゛アアァ……!!」


 ナイフの悪魔は苦しみながらも祓われておらず、敵意を剥き出しにしていた。

 多くの敵は無力化されていたが、ナイフなどの攻撃性を秘める道具にはより強力な悪魔が憑依されており、祓いのスキル効果に対して抵抗レジストしたのだ。

 

 ナイフの悪魔は肉体を変形させ、刀身から生える手足はよりいっそう太く、たくましくなった。


「はや! ヤバいわ、何とかしないと!

えとえとえっと!!」


 リコは慌てふためき、何か魔法を絞りだそうとした。

 そこで、小さな幸運が起こる。


 慌てたドラ○もんのヤカンよろしく、手癖で『マジック☆キッチン』を発動してしまったのだ。

 戦闘中だというのに、お料理魔法を。


「はや! 間違えた!!」

「シャア゛アアァッ!!」

「キャー!!」


 魔法を間違えたリコに、容赦なくナイフの悪魔が襲いかかった。

 だが、その前に立ちはだかる者……いや、()たちがいた。


「え!? フォーク君、スプーン君!? 危ないっ!!」


 リコの前に身を投げだしたのは、『マジカル☆キッチン』とともに具現化された食器と調理器具たち。

 細長い手足がニョッキリと伸びたフォーク君とスプーン君が、リコを庇うように大手を広げて立ちはだかったのだ。


 哀れリコの食器たち、その身を犠牲にして主の盾になろうと……したのではなかった。

 フォーク君は鋭い蹴りを、スプーン君は強烈な拳を振るい、ナイフの悪魔をブッ飛ばしたのだ!!


「プゲラッ!!!」


 ナイフの悪魔は刀身をど真ん中からへし折られ、壁に叩きつけられたのであった。

 フォーク君とスプーン君はさも当たり前と言わんばかりに、堂々と腕を組んでポーズを決めていた。


「はや!! フォーク君、スプーン君……意外と強い!?」


 リコは自身が操る食器や調理器具たちが、低級の魔物程度なら容易にブッ飛ばせるだけの戦闘力を持っていることを知らなかった。

 可愛いフォーク君たちを、お料理以外の用途に役立てようとは夢にも思わなかったのだ。ましてや戦闘など、もってのほか。

 日々お料理の練習のたびに発動し、戦闘中に誤って呼び出してしまうほどに熟練はしていたのだけれども。


 ともかく、リコは自分の固有スキルにも戦う術があることを知った。

 食器と調理器具を戦いに用いるのは本意ではなかったものの、この場の形勢を逆転できるほどの力を得たのであった。


「えぇい! みんな、ゴメンね! あの悪魔たちを、やっつけて!!」

「「カチャカチャカチャ!!」」


 調理器具たちは、残った悪魔たちへと襲いかかった。

 残された数少ない悪魔たちーー缶切りや蝋燭、ハンマーなどーーはノハナの『小さな幸せ』で弱っていたこともあり、なすすべなく蹂躙されていった。


 そして、この光景に何よりも驚愕していたのは……悪魔の使役者である、プレティ=チューパーであった。


 ーー嘘でしょ。

 こんな甘っチョロい非戦闘員のコたちが、私の『騒霊憑依ポルターガイスト』をうち破るなんて。

 しかも、自分たちの力だけで……!!


 残された最後の1匹である悪魔を倒し、調理器具たちはチューパーへと迫る。

 リコも調理器具たちの後を追いかける。

 ノハナとコロポックルも物陰から姿を現した。


 調理器具たちはチューパーに飛びかかり、押し倒し、組み伏せた。

 リコとノハナも飛びついて、彼女の両手両足を押さえこんだ。


「はや! 捕まえたよ!」

「さぁ、観念するのデス!!」


 リコとノハナ、戦いのニガテなふたりが、大金星をあげた瞬間であった。

 



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