夢見る蛇の都 その45
「目の前にそびえる、高い土台についた階段を上って、頂上部に建っている、ラピータ宮殿に向かえ。そして、そこにいるはずの、ラーナ・メデューサを捕らえるのだ。彼女の身柄を、最初に確保した者には、高い地位と莫大な褒美を与えるぞ」
馬上のペルセウス王の発した激によって、高い土台の上に建つラピータ宮殿の、周囲に広がる、深い堀の中にひしめいていた、西の都の兵士たちが、一斉に動き出します。
馬上の王は、麾下の兵士たちが、堀の中央にそびえ立つ、長い階段のついた塔のような形状の、高い土台に殺到し、そのてっぺんに建つラピータ宮殿へと向かう為に、その土台についている長い階段を、我先にと昇り始めたのを見て、思わずほくそ笑みます。
彼は、五千人近くいる自分の兵士たちが、一挙に押し寄せれば、いくら目の前にそびえ立つ、高い土台の上にいるメデューサが、超能力を使っても、必ずその身柄を確保出来ると、確信していました。
しかしー。
馬上のペルセウス王は、先ほどまで、兵たちに命令を下すために、高々と上げていた自分の腕に、何故か、ふと違和感を感じ、黄金の手甲に覆われている、その片腕を、よく見て見ました。
彼はどうしてだか、急に、その腕が、重くなったように感じたのでした。
するとー。
「こ、これはー」
なんと、黄金の鎧に覆われている、彼の片腕の手甲の隙間からわずかにのぞく、その素肌が、濃い灰色に変色していたのです。
まるで、石になったかのようにー。
更にペルセウス王は、自分のもう片方の腕や、馬にまたがっている両脚にも、強い違和感を覚えていました。
不思議な事に、その腕や脚を動かそうと思っても、ピクリとも、動かなかったのです。
皮膚感覚も全く無くなり、まるで両手両足が、自分の身体から、急に切り離されたかのようです。
やがて、馬上の王はら一つの恐るべき結論に達します。
「わ、わたしの身体が石にー」
そうです。
堀の底の石造りの地面の上で馬に乗り、メデューサを捕縛する為の作戦を指揮していた、ペルセウス王の肉体は、はるか高所である、堀の中にそびえる高い土台の上から、こちらを見下ろす、彼が捕らえようとしていた当人である、ラーナ・メデューサが放つ念力によって、急速に石化しつつあったのです。
「うわああぁぁーっ!!!」
自分の身体が、徐々に石化しつつある事に気付いたペルセウス王は、馬上で大きな叫び声を上げます。
更にペルセウス王だけでなく、彼の周りにいる、堀の中にひしめく、他の大勢の兵士たちの間からも、次々と悲鳴が上がります。
それは、ラピータ宮殿を支える高い土台の足元を、それが屹立する堀の内部で、隊列を組んで包囲するペルセウス軍の兵士たちの何人かが発した、恐怖の叫びであり、自分たちの身体が、段々と石化してゆく事に気づいた彼等が、思わず上げた絶望の声でした。
そして、メデューサの身柄を確保するために、彼女がその門前にいるはずのラピータ宮殿を目指し、高い土台についた長い階段を駆け上がる、大勢の兵士たちにも、やはり、異変は生じていました。
塔のような形状をした、その高い土台についている縦方向に伸びる長い階段を、土台のてっぺんに建つラピータ宮殿を目指して、我先にと昇っていた兵士たちは、やがて一段上に近づくごとに、自分たちの身体が、石と化してゆく事に気づきます。
「うわあぁぁーっ!!!」
塔のような形状の土台についた、長い縦階段を昇り、その土台のてっぺんに建つ、ラピータ宮殿の前にいるメデューサを捕らえるために、血相を変えて、数段飛ばしで階段を駆け昇っていた、ペルセウス麾下の兵士たちは、その途中で、徐々に石化する自分の身体の事に気づくと、階段を昇る足を止め、口々に悲鳴を上げます。
恐怖に駆られた兵士たちは、我先にと駆け上がっていた階段を昇るのをやめ、先頭をきって階段を昇っていた一団の兵士たちは、身をひるがえして、今度は逆に、全力で階段を駆け降りようとします。
彼らが目指していた、長い階段につながる高い土台のてっぺん付近から、押し寄せて来る、恐らくはそこにいるであろう、伝説の大怪物メデューサが放つ、凄まじい憎悪に満ちた魔力のオーラから、逃げ出すかのようにー。
しかし彼らは、急に方向転換をして、階段を降りようとした為に、逆に、下の方から階段を駆け上がってくる他の兵士たちの一群と、長い階段の途中で、正面から衝突してしまい、そのあおりで次々と階段から転げ落ち、周りに広がる堀の中へと落下してしまいます。
けれども、彼らが落下した、その堀の中にひしめく他の兵士たちは、仲間たちが正面にそびえる高い土台についた、長い階段の中途で揉み合い、足を踏み外して落下し、上から落ちてくる、その有様を見ても、別段、気にする風もありませんでした。
なぜならその頃には、ペルセウス軍が包囲陣をしいていた、ラピータ宮殿の周囲に広がる深い堀の中は、石化し始めた自分の身体に驚き、そこから逃げ出そうとする兵士たちが、互いに押し合ってぶつかり合い、怒声と罵声が飛び交う、修羅の場と化していたからでした。
周囲に広がる深い堀の中央付近に屹立する、ラピータ宮殿を支える、長い階段のついた高い塔のような土台を、足元から包囲していた大勢の兵士たちは、まるで波が引くように、そこから逃げ出して行きます。
彼らの願いはただ一つ。
自分の身体が完全に石と化す、その前に、何とか、その場から逃げ出す、その事だけでした。
蜘蛛を散らすように、ラピータ宮殿を支える高い土台への包囲を解き、そこから離れたペルセウス軍の兵士たちは、彼らが今いる深い堀の中からも脱出し、とりあえずは安全かと思われる、周辺に広がるパロ・メデューサの市街地区域へと、逃げ込もうとしていました。
そしてー。
深い堀の中で、麾下の軍を指揮していたペルセウス王はといえば、馬に乗った状態のまま、完全に石像と化しており、その立ち姿は、本国である西の都の正門近くに置かれている、彼自身をモデルにした銅像にそっくりでした。
そう、ただ一つだけー。
石と化したその顔に、凄まじい恐怖の表情を、貼り付かせている事を除いてはー。
[続く]




