夢見る蛇の都 その28
高い土台に支えられ、その上に建つラピータ宮殿前の広いスペースで、師であるレプカールが操る魔神兵と、正面から向かい合うシュナン少年。
彼が掲げる師匠の杖が、何やらブツブツと声を発します。
「やれやれ、自分の本体と戦う羽目になるとはな。まぁ、やむを得んか」
そんな師匠の杖の言葉を聞いて、端正なその顔に困惑の表情を浮かべるシュナン少年。
「すいませんー」
とりあえず謝るシュナン少年に対し、彼が手に持つ師匠の杖は、その大きな目をバチバチと明滅させながら答えます。
「いや、別にお前が悪いわけではないさ。わしの本体が愚かなせいだ。まったく王宮などという閉鎖的な環境にいると、あそこまで視野が狭くなるものか。わびと言ってはなんだが、わしは最後まで師としてお前に助言を与えるとしよう。もちろんお前がそれを欲すればの話だがー」
師匠の杖のその言葉に、今度はコクリとうなずくシュナン少年。
「わかりました、師匠。どうか最後まで僕を導いて下さい。地獄の底まで付き合ってもらいますよ」
すると、シュナン少年が手に持つ、先端の円板に大きな目のついた件の魔法の杖は、一瞬キラリと、その目を嬉しげに光らせました。
そして次に、正面にそびえ立つ自分の本体が操る巨大な機械人形の方に、ギロリとその光る目を向けました。
「承知したー。さて、それではシュナンよ。ここでお前に一つ質問だ。あいつと戦うのに地上戦と空中戦のどちらを選ぶ?レダたちは地上戦を選んだようだが」
師匠の杖の質問にすかさず答えるシュナン少年。
「空中戦です」
彼は師の質問に答えながら、まだ周りの石床の上に倒れているレダとボボンゴの方に目をやりました。
そして、拘束されて地に伏せながらも、シュナン少年を心配そうに見上げる二人と目を合わせ、彼らを勇気付けるためか、その端正な顔をうなずかせました。
「もちろん、空中戦一択です。ラピータ宮殿を支えるこの高い土台の上で戦えば、身動き出来ないレダやボボンゴ、それに宮殿内に避難しているメデューサやデイスにも危険が及ぶかもしれません。空中戦ならそれを避けられる。確かにあの怪光線は脅威ですが、戦いに集中出来れば充分対応可能です」
シュナンの手の中にある師匠の杖の、先端の円板についた大きな目が、再びキラリと光ります。
「正解だ、シュナンー。では、飛べっ!!!」
「はいっ!!」
その瞬間、シュナン少年の足元の石畳から、埃が渦を巻いて舞い上がります。
そして次の瞬間には、杖を携えしその身体もまた、まるで重力を無視するが如く、ラピータ宮殿を支える土台の上から弾ける様に飛翔し、高々と天に舞い上がります。
マントをひるがえし、周囲の空気を切り裂く様なものすごいスピードで、一気に上空へと飛ぶシュナン少年。
一瞬にして杖を構えた彼の身体は、ラピータ宮殿のはるか上空にまで到達し、少年の持つその青く澄んだ瞳は、宮殿前に屹立する巨大な魔神兵の姿や、宮殿を囲む堀の中にひしめくペルセウス軍の陣構えを、まるで俯瞰図の様に眼下に捉えていました。
ラピータ宮殿の屋根よりも高く舞い上がった彼の、天翔る大鳳の様なその姿を、宮殿周辺にいる者たちは一斉に目をこらして見上げます。
馬上のペルセウス王は、ラピータ宮殿を支える土台の周りに広がる深い堀の中で、大勢の兵士たちと共にその姿を見上げています。
シュナンの旅の仲間レダとボボンゴは、相変わらずラピータ宮殿前で、石造りの床の上に倒れ伏しながら、拘束された身体を懸命に折り曲げて上空を見ています。
ラピータ宮殿内に避難し、その一階部分の多くの柱に囲まれた大広間のような場所で、吟遊詩人デイスに付き添われつつ、彼と共に柱の陰に身を隠すメデューサは、そこから飛翔するシュナン少年の姿を、祈る様に仰ぎ見ています。
一方、ラピータ宮殿前でシュナン少年と向かい合っていたレプカールが乗る魔神兵は、自分の眼下に立っていた少年がいきなり空高く舞い上がったと思うと、こちらの頭上を見下すように飛ぶその姿を見て激昂したのか、左右の巨腕を振り回して彼を空中から払い落とそうとします。
「おのれっ!!こしゃくなっ!!」
衆人環視の中、高い土台に支えられたラピータ宮殿の前に広がる石造りのスペースの上に屹立し、その巨大な両腕を、怒りに任せて振り回すレプカールが乗る魔神兵。
その二本の巨大な腕は、眼前を羽虫のごとく飛ぶシュナン少年を、力任せに空中からはたき落とそうとしています。
その姿ははたから見ると、まるで石で出来た高い土台の上で、目の前につきまとう虫を、払いのけようとする大男の様です。
一方、シュナン少年は、巨大なハンマーみたいに自分に向かって迫る、魔神兵の、その巨腕を、空中を飛びながら身体をひるがえして、次々と回避します。
彼は、魔神兵が絶え間なく振り回す巨腕を、空中で素早く飛び回りながらギリギリでかわし続け、その合間にその巨体に対して、遠隔魔法による攻撃を試みます。
「フレイム!!」
頭上から振り下ろされた、魔神兵のかぎ爪のついたハンマーの様な腕を、間一髪でかわすと同時に、空中で浮遊しながら杖を持っていない方の片腕を前方に突き出し、その腕先から得意の火炎魔法を放つシュナン少年。
その突き出した片腕から連続で発射された火の玉は、空中で楕円軌道を描いて、次々と魔神兵の巨体にヒットします。
しかしー。
シュナン少年が放った強力な火炎弾は、魔神兵のボディに次々とヒットして、ボコボコと風穴を開けたものの、その穴は魔神兵が持つ復元能力によって、あっという間にふさがり、元どおりに修復してしまいます。
それを見た空中で浮遊するシュナン少年は、巨大な腕による攻撃を避けながら、更に強力な魔法攻撃を魔神兵の巨体に向かって放ちます。
「エル・サンダー!!」
先ほどと同じく空中を飛び回りながら、魔神兵のハンマーの様な腕を避けつつ、その合間をぬって、手先から攻撃魔法を発射するシュナン少年。
今度は空中を浮遊する彼の片腕の手先から、強力な雷撃が発射され、その青白い光は、眼下のラピータ宮殿前で両腕を振り回す魔神兵の巨体を激しく打ちます。
しかしまたしてもシュナンの魔法は、魔神兵の巨体を深々と傷つけたものの、その傷はすぐに修復し、わずかなダメージを与える事も出来ません。
それを見たシュナン少年は、空中を激しく移動しながら、その端正な顔に困惑した表情を浮かべます。
「何か、戦いにくいー。何故だろう」
空中を浮遊しながら戸惑う弟子に対して、彼の持つ師匠の杖は、声を発してその疑問に答えます。
「お前は常にわしを通じて、周囲の状況を把握していたから、まだ自分自身の目で物を見たり、認識したりする事に慣れていないのだ。もしかしたら、レプカールがお前の視覚を戻したのはそれが狙いだったのかも知れんな」
宙を切り裂きながら空中を移動するシュナン少年が、手に持つ杖のその言葉にうなずいたその時でした。
「シュナン、覚悟しろ。この魔神兵、最大の武器でお前を葬り去ってくれる。仲間たちを気づかって空中戦を選択したのが仇となったな。「魔光砲」発射、なぎ払え!」
魔神兵の音声装置から聞こえるくぐもった声と共に、そののっぺりとした頭部から巨大な光線が発射され、空中を飛ぶシュナン少年を襲いましたー。
[続く]




