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夢見る蛇の都 その26

 「あいつの弱点は頭よ。頭部を切り落として、完全に破壊すれば、もう身体は再生しないはず。あたしの剣が届く間合いになるまで、あいつに接近出来れば、こっちのものよ。ボボンゴ、力を貸して」


「わかった、レダ。俺の、背中、隠れろ。俺、盾にして、あいつに、近づけ。あいつの、懐、入るまで、お前守る」


ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、魔神兵と対峙するレダとボボンゴは、互いに耳打ちをして計策を練り、目の前にそびえ立つ不死身の怪物を、一致協力して倒そうとしていました。

ボボンゴはレダをその広い背中にかばい、断続的に襲いかかる正面にそびえ立つ魔神兵の攻撃を、一身に受け続けています。

そして、魔神兵の懐に飛び込んで、そのウィークポイントである頭を破壊する作戦を立てた二人は、ボボンゴを先頭にその後ろにレダが隠れる形で直列に並ぶと、目の前の魔神兵に向かって、じりじりと前進を開始します。

レプカールが内部で操縦する魔神兵は、眼下の床に直列に居並んだ二人が、ボボンゴを先頭にじりじりと接近して来るのに気付くと、その巨大な両腕で次々と攻撃を加えます。


「この異種族どもめ!打ち殺してくれるわっ!」


魔神兵の振り上げたその巨腕が、異様な唸りを上げて、レダをかばって立つボボンゴの頭上に、次々と打ち下ろされました。

一方、仲間たちのその戦う姿を、シュナンとメデューサは吟遊詩人デイスと共に、少し距離をとったラピータ宮殿の出入り口に近い場所で居並びながら、固唾を飲んで見守っていました。

レダを背後にかばいつつ、魔神兵にじりじりと近づくボボンゴのその姿を、視力を取り戻したばかりの青い瞳で見つめるシュナン少年は、手に持つ師匠の杖を、血の気が無くなるほど強く握りしめています。


「だめだ・・・ボボンゴ、レダ。うかつに魔神兵に近づいては」



レダをその背中にかばいつつ、魔神兵による激しい打擲攻撃に耐えながら、少しずつ前進を続けるボボンゴは、徐々に相手との距離を詰め、眼前にそびえ立つ巨大な機械人形にいよいよ迫りつつありました。

そして、ボボンゴのタフさに業を煮やしたレプカールが、狂ったように魔神兵の腕を操り、懐に飛び込んできた巨人ボボンゴを連続で打擲したその時でした。

ボボンゴが頭上に掲げて魔神兵の打擲を防いでいた、その腕の骨が折れる音がポキリと響き、さすがの大巨人も苦痛に顔をゆがめます。

しかし、彼は苦痛に顔を歪めながらも、自分の背中に張り付いているレダに向かって叫びます。


「レダ、今っ!!!」


その声に呼応したレダが、隠れていたボボンゴの背中から、猛然と飛び出します。

すでに彼らは、手を伸ばせば届くくらいの距離にまで魔神兵に肉迫しており、レダがボボンゴの背後から飛び出してその巨体に向かって跳躍すると、件のロボットの頭部は、すでに彼女の目と鼻の先にありました。

レダはその目の前にそびえ立つ、魔神兵の頭部を支える細い首に向かって、跳躍しながら、剣を大きく真横に振りかざします。


「ペガサス真空横一文字斬りーっ!!」


魔神兵の懐に入り込んだレダが、跳躍しながら横一文字に構えたその剣を、巨大な機械人形の首に目がけて振るおうとしたその時でしたー。


「きゃっ!!」


魔神兵の円筒形の巨大な身体から、光の帯の様なものが飛び出て、空中にジャンプしていたレダを、まるでロープみたいにからめ取り、その身体を拘束します。

魔神兵が発射した光の帯に、空中で拘束されたレダは、身体のコントロールを失い、まるで叩きつけられるように地面に落下します。

そしてー。


「くっ!!何っ、これっ!?」


最初はまるでロープか鞭のような形状だった、魔神兵の円筒形のボディから発射されたその光の帯は、レダが石造りの地面に落下したとたんに、まるでリングのような形状になり、彼女を身動き出来ないようガッチリと拘束しました。

リング状の光線に上半身を拘束されて地面に倒れ込み、ラピータ宮殿前の石造りの床の上で、ジダバタとあがくレダ。


「レダ!!」


地面に倒れ込んだレダの姿に驚いたボボンゴは、彼女に慌てて駆け寄ろうとします。

しかしー。


「うっ、何だ、これ。ち、力、入らない」


魔神兵の巨大なボディから、再び帯状の光線が再び発射され、今度は巨人ボボンゴの身体にグルグルと巻きつきます。

そしてまたしても、リング状に変化した件の光線に、その大きな身体を拘束されたボボンゴは、レダと同じく、ラピータ宮殿前の石造りの床の上に、バタリと倒れ込みます。

輪状の光線に身体を拘束された二人は、石の床の上でバタバタとあがき、何とか身体を起こそうとしますが、何故か力が入らず、ジタバタと地を這いずる事しか出来ません。

そんな彼らの様子を、魔神兵の内部から見つめる魔術師レプカールは、モニター越しに映る自分の足元で這いずる二人のその姿に、操縦席内でニヤリとほくそ笑みます。


「どうだ。対異種族用に開発した拘束光線の味は?身体に力が入るまい。そのリング型の光線は、お前たち異種族の生体エネルギーを吸収する働きがあるのだ。わしが、お前たちのような化け物共相手に、何も手を打っていないとでも思ったか?」


「くっ!本当に力が入らないー」


「ぐぬぬーっ、おのれーっ」


上半身を輪状の光線で拘束されて、立つ事も出来ず、石造りの床の地面で、ジタバタと這いずるレダとボボンゴ、

そんな足元の地面でうごめく二人の様子を、魔神兵の内部から冷徹な目で見下ろす魔術師レプカールは、いよいよ拘束された彼らにとどめを刺すため、魔神兵の巨大な身体を稼働させます。

魔神兵は、ずしりずしりと音を立てて歩き、近くの石床の上にまるでイモムシのように横たわる、身体を拘束されたレダとボボンゴに迫ります。

そして、その巨腕を振り上げて、眼下の地面に横たわる身動きが取れないレダたちを、打ち据えようとします。


「これで終わりだ。くたばれ」


音声機から発する耳障りな音と共に、魔神兵の巨腕が、無防備なレダたちの身体に振り下ろされようとしたその時ー。


「待てっ!!それまでだ!!」


空気を切り裂くような鋭い声が、あたり一帯に響き渡りました。

振り下ろされようとしていた魔神兵の、巨腕の動きがピタリと止まります。

驚いたレプカールが、魔神兵のモニターを声のする方へ振り向けます。

なんと、そこにはー。


「シュナン・・・」


レプカールの見つめる魔神兵の操縦席のモニター内には、自身の搭乗する魔神兵の足元近くの石床の上で、杖を構えて立つシュナン少年の姿がありました。

少し離れた場所で、メデューサたちと共に戦いの様子を見守っていたはずのシュナン少年が、いつのまにかこちらに近寄って来ており、レプカールの乗る魔神兵の足元近くに立って、その巨体を涼しい目で見上げていたのです。

戦いの場から少し離れた宮殿の出入り口に近い場所で、メデューサたちとレダたちが奮戦する姿を、固唾を飲んで見守っていたシュナン少年ですが、戦況危うしと見るや、メデューサの守りを吟遊詩人デイスに託し、自らはただ一人前に歩み出て、倒れ伏した仲間たちを守るために、魔神兵の巨体の前に立ちはだかったのです。

魔神兵の動きを制止するために、戦いの場に割り込んで来たシュナン少年は、眼前にそびえ立つ魔神兵の巨体に注意を向けながら、宮殿前の石床の上に倒れ伏したレダたちに歩み寄り、その場で膝をつきます。

そして、未だにリング状の光線によって、ぐるりと上半身を縛られ、倒れたまま動けない二人の仲間に声をかけます。


「ありがとう、レダ、ボボンゴ。本当によく戦ってくれた。僕とメデューサの為にー。でも後は僕に任せてくれ。この戦いは人間の王を決める戦いだ。だから結局は、人間同士で決着をつけるべきだと思う。たとえそのせいで、僕やメデューサの手が血塗られたとしてもー」


光の輪に拘束されながら、ラピータ宮殿の前に広がる石で出来た地面の上に転がっているレダとボボンゴは、地に這うようなその姿勢から懸命に顔を上げると、自分たちの側で床上にひざまずくシュナン少年の姿をじっと見つめます。


「シュナン、ごめんなさい・・・」


「力、及ばなかった。すまん・・・」


ラピータ宮殿の前で石床の上に膝をつくシュナン少年は、そんな二人の言葉にコクリとうなずくと、静かな口調で未だに地に伏せる彼らに告げました。


「二人共もう少しの間、辛抱しててくれー。師匠との決着をつけたらすぐに助けるからね」


シュナン少年はそう言ってから、スクッとその場に立ち上がると、目の前にそびえ立つレプカールが操る魔神兵と、あらためてラピータ宮殿を支える高い土台の上で向かい合います。

一方、魔神兵に乗る魔術師レプカールは、操縦席のモニターを通じて、足元近くに転がる仲間たちをかばうように眼下の床上に立つシュナン少年の姿を、じっと見下ろしています。

そして、そのレプカールが、魔神兵の発声装置を通し、眼下に向かって発した、くぐもった声が、仲間たちをかばいながら石床の上に立つ、シュナン少年の耳に、雷鳴のごとく轟きます。


「どうだ、シュナン。わしの力を思い知ったろう。まぁ、確かに対策をしていなければ危なかったがな。もう一度だけ聞くが、考え直す気は無いか?おとなしくメデューサを、こちらに引き渡すのー」


レプカールが魔神兵に付いた発声機を通じて、その言葉を言い終わるが早いか、眼下の石床の上に立つシュナン少年の口から怒声が発せられ、周囲の空気をビリビリと震わせます。


「くどいっ!!!」


仲間たちを傷つけられたシュナン少年は、いつになくその怒りをあらわにしており、視力が戻ったばかりの青い瞳で、眼前にそびえ立つ魔神兵の巨体を、下からにらみ上げています。

魔神兵の内部で操縦席に座る魔術師レプカールは、そんな風に眼下の床の上で、杖を片手に仁王立ちになっている弟子の姿を、外部モニターを通じて見下ろすと、操縦席の座椅子に深く身体をうずめ大きく息を吐きます。


「よく考えろ、シュナン。ペルセウス陛下とメデューサ、どちらが我々の王としてふさわしいのかをー。メデューサが王の器だとはとても思えん。あの小娘がー」


しかしシュナン少年は、レプカールのその言葉を聞くと即座に首を横に振ります。


「そんな事はありません。彼女こそ真の王です。少なくとも僕にとってはー。何故なら彼女こそ僕にとって、生涯に渡って忠を尽くすべき大切な人なのですからー」


弟子の発した、その歯の浮く様なセリフを聞いた魔術師レプカールは、魔神兵の内部でギリギリと歯ぎしりをします。


「くっ、この愚か者め、色に迷ったかー。おまえは・・・破門だ」


手に持つ師匠の杖を頭上に大きく掲げ、眼前にそびえ立つ魔神兵に向かって鋭く突き出すシュナン少年。


「望むところー」


ラピータ宮殿を支える石造りの高い土台の上で、少し距離をとって向かい合う、シュナン少年とレプカールが乗る巨大な戦闘ロボット魔神兵ー。

巨人と小人のような両者の戦いは、衆人環視の中、まるで闘技場と化したかのような石造りの高所の上で、今まさに火ぶたを切らんとしています。

こうして、シュナン少年と、その魔法の師であるレプカール。

二人の魔術師の、最大にして最後の戦いが、ついに始まったのです。


[続く]


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