夢見る蛇の都 その25
そして、その魔神兵の恐るべき能力は、少し離れた宮殿の出入り口に近い場所で固まって立つ、戦いの様子を見守っている、シュナンたちの目にも映っていました。
「レダさんに切り落とされた腕が、また生えてきましたぜっ!一体、どうなってるんですかい!?」
吟遊詩人デイスが、思わず叫びます。
「恐らく、強い復元能力を持っているのだろう。ある種の金属は、初期形状を、ずっと記憶していて、何度破壊されても、元通りに復元する性質を持つという。多分、その技術を応用しているのだろう」
シュナン少年が持つ師匠の杖が、重々しい口調で、声を発します。
「それじゃ、あの怪物は不死身って事なの?それじゃ、絶対に勝てないじゃない・・・」
シュナン少年の隣で、彼に寄り添うメデューサが、絶望したような声で、つぶやきます。
しかし、彼女の隣に立つシュナン少年だけは、魔神兵の恐るべき能力を目の当たりにしても、何も声を上げず、その澄んだ瞳で、少し離れた場所で繰り広げられる戦いの様子を、じっと見つめていました。
自分とメデューサを守るために、強大な敵と戦う仲間たちの、その姿をー。
「ペガサス彗星剣!!」
レダが、超音速で振動させた剣を、横一文字に振り抜くと、その先端から、まるでレーザーのような衝撃波が、空間を貫きます。
そして、その白熱光のような衝撃波は、レダたちの眼前にそびえ立つ、魔神兵の円筒形のボディに炸裂し、その巨体に大穴を開けました。
しかしー。
「くっ、また再生してるー」
レダが必殺技で破壊して、機械部が露出した、その魔神兵に空いた大穴は、瞬く間に黒い泡で覆われ、あっという間に、元通りの傷一つ無いボディに、復元してしまいます。
そして、レダが悔しげに息を吐き、足を止めたその瞬間でしたー。
「あっ!!」
眼前の床上に立つ魔神兵の振り回す巨腕が、再びレダの頭上に、振り下ろされます。
ブウゥゥーンッ!!!
「し、しまった!!」
レダの一瞬の隙をついて振り下ろされた、その大きな腕は、彼女を直撃し、その美しい身体を、バラバラに打ち砕くかに思われました。
しかしー。
ガツンッ!!!
「ボッ、ボボンゴ!!」
なんと、魔神兵の巨腕が、レダに振り下ろされたその瞬間に、隣にいた巨人ボボンゴが、彼女をかばうように前に出ると、自らの身体を盾にして、かの巨大ロボの、ハンマーみたいな腕の攻撃から、少女を守っていました。
巨人ボボンゴは、自らの巨体で、レダを背後にかばいつつ、防御の構えをとっており、揃えた両腕を額にぴったりと押し付けながら、その体勢から繰り出す手の動きで、頭上から襲い来る、魔神兵の巨腕を防ぎ、はね返していました。
その格闘技でいう、パリィ(受け流し)という技によく似た動きは、守戦を得意とする巨人族の、伝統的な戦闘スタイルの一つであり、彼らの頭目であり歴戦の勇士であるボボンゴだからこそ出来る、驚異の防御技でした。
「おのれーっ!!!」
ボボンゴに、レダに対する攻撃を邪魔された事に怒ったレプカールは、魔神兵の両腕を操って激しく動かし、自分の乗る魔神兵と、レダとの間に立ち塞がる巨人ボボンゴに、激しい打擲を加えます。
魔神兵の両腕の巨大な拳が、何度もレダを背中にかばうボボンゴの頭上に振り下ろされ、その度にボボンゴは頭上に掲げた両腕で、その攻撃をはじき返しています。
彼の背中の後ろにいるレダは、自分をかばって魔神兵の連続攻撃を受け続ける、仲間のその姿に、思わず息を呑みます。
「ぼ、ボボンゴ、大丈夫?」
彼女を背中にかばいつつ、眼前にそびえ立つ魔神兵の殴打を断続的に受け続けるボボンゴは、その顔に不敵な笑みを浮かべます。
「心配、するな。それより、このままじゃ、らちあかない。あいつ倒す方法、無いのか 」
ボボンゴの広い背中に守られながら、魔神兵の攻撃を正面から受け続ける彼の姿を、その後ろで苦しげに見つめるレダは、喉の奥から絞り出す様な声で、自らの考えを告げます。
「一つあるわ。あいつの弱点を見つけたの。もっともあの怪物に、さっきの怪光線以外の、飛び道具がなければの話だけどー」
レダの言葉を聞いたボボンゴが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべます。
彼の両腕は、魔神兵の巨腕による打撃を、何度もガードした為に、傷だらけになり、包帯状の革製サポーターを巻いた、手首付近には、血がにじんでいます。
「上等ー。守りは、任せろ。俺たちで、あいつ、倒す。この戦い、終わらせる。シュナンとメデューサ、二人の為に」
その言葉を聞いたレダは、自分を守るボボンゴの背中を見つめながら、コクリとうなずきます。
「そうね、わかったわ。わたしとあなたで魔神兵を倒しましょう。あいつの弱点は頭よ。あいつに接近して、操縦席がある、中枢部分の頭を切り落として、完全に破壊すれば、恐らくもう復活する事はないわ。あいつの攻撃をかいくぐって、わたしの剣の技があいつの首に届くまで、間合いを詰めれば、わたしたちの勝ちよ」
レダは、その優れた戦闘センスで、魔神兵の弱点を、短期間のうちに、見抜いていました。
高い土台に支えられた、ラピータ宮殿の前に広がる石造りの床の上で、前後に居並んで、目の前にそびえ立つ魔神兵を打ち倒すための、作戦を話し合う、ボボンゴとレダ。
その間にも、前面に立つボボンゴに対する魔神兵の打撃攻撃は続き、レダを背中にかばいながらラピータ宮殿前に立つ彼の頭上に、巨大な分銅のような腕が、次々と振り下ろされます。
ボボンゴは、その攻撃を頭上に掲げた両腕で次々とはじき返し、背後にいるレダと共に、反撃の機会をじっとうかがっています。
すでに彼のたくましい双腕は、魔神兵の攻撃を受け続けて、傷だらけになっていました。
やがて、レダとの打ち合わせを終えて、機が熟したと考えた巨人ボボンゴは、カッと目を見開いて、後ろの少女に対し、野太い声を発します。
「よし、行くぞ、レダ。ついてこい、俺が、盾になって、お前、守る」
ペガサスの少女レダが、彼の背中に密着しながら、真剣な表情で、コクリとうなずきます。
「了解よ、ボボンゴ。それじゃ、今から作戦通り、わたしの剣が届く間合いにまで、あいつに接近するわよ。間合いに入る、それまではー。悪いけど、あなたの背中に隠れさせて。大変だろうけどー。あの馬鹿でっかい図体の、懐に入るまでの辛抱よ。それに、わたしたちが地面の上にいる限り、あの超威力の破壊光線は、使えないはずだしね」
レダを背中に張り付かせたまま、眼前に立つ魔神兵の打擲攻撃を受け続ける、ボボンゴが尋ねます。
「何故?」
ボボンゴの背中越しに、前方で狂ったように両腕を振るう魔神兵の姿を睨みつけるレダは、冷静な口調で巨人の質問に答えます。
「あんなに威力の大きい武器を、人工的に造られた、こんな高い塔みたいな場所で、簡単に使えると思う?使ったら大変よ。足元を支える土台が破壊されて、下手すると、ラピータ宮殿ごと、眼下の堀の中に崩れ落ちるわ」
頭上に落下してきた魔神兵の巨大な腕を、またしてもその剛力ではねのけながら、ボボンゴはニヤリと笑いました。
「なるほど、納得。それは、好都合。了解した」
[続く]




