夢見る蛇の都 その24
高い土台に支えられたラピータ宮殿の前で、衆人環視の中、レプカールの乗る巨大な機械人形、「魔神兵」とにらみ合う、レダとボボンゴ。
少し離れた宮殿の出入り口に近い場所では、シュナンを初めとする他の三人の仲間たちが、肩を寄せ合って立っており、これから始まる戦いの様子を、固唾を呑んで見守っています。
また、ラピータ宮殿を支える高い土台は、周りを広い堀で囲まれており、その堀の中では、ペルセウス王の軍勢が、ひしめき合いながら、一斉に上を見上げ、高い土台のてっぺんに建つ宮殿の前で、今から展開するであろう激しい戦いの行方を、やはり注視しています。
まるで闘技場か、武闘会の会場の様な状態になった、ラピータ宮殿の周囲ですが、その異様な雰囲気の中で、レプカールの乗る巨大なロボット魔神兵と、シュナンの仲間たちとの激しい戦いが、ついに始まります。
衆人環視の中、ラピータ宮殿の建つ高い塔の様な土台の上で、魔術師レプカールが操る魔神兵と、距離を取ってにらみ合う、レダとボボンゴ。
レダは、ペガサスの剣を正眼に構えて、また巨人ボボンゴは全身に力をみなぎらせて、眼前にそびえ立つ、三階建ての建物ぐらいの大きさを持つ、巨大な機械人形と対峙していました。
魔術師レプカールは、そんな眼下に立つ二人を、モニター越しに見下ろしながら、魔神兵の内部の操縦席にその身をうずめ、冷静に状況を分析すると、いよいよ彼らに対して攻撃を開始します。
「この異種族どもめ。お前らの時代は、とうの昔に終わっているのだ。これからは我々、人間の時代だ。今からその事をわからせてやる」
魔神兵のスピーカーから、レプカールのくぐもった声が響くと同時に、その巨体の内部のモーターが唸りを上げ、かのロボットの巨大な片方の腕が、眼下に立つ巨人ボボンゴに向かって、振り下ろされます。
魔神兵の腕は、円筒形の巨大な胴体から突き出た、細い棒の様な上腕の先に、大きな分銅状の前腕部がついている、全体的には棒アイスみたいな形をしており、更にその先端の手の部分は、可動する球型のころになっていて、そこから3本指のかぎ爪が生えています。
その先端にかぎ爪のついた、丸っこい手の部分だけでも、ボボンゴをわしづかみに出来るほど大きく、そんな巨大な腕が、うなりを上げて振り下ろされたのだから、たまったものではありません。
ラピータ宮殿を支える高い土台の上に、レダと共に立つ巨人ボボンゴの頭上に、無慈悲に振り下ろされた、巨大なハンマーの如き、魔神兵の腕が迫ります。
魔神兵を内部から操る、魔術師レプカールは、その強烈な殴打による攻撃で、ボボンゴの身体を一撃で粉砕し、葬り去るつもりでした。
ブゥゥーンという異様な風切り音と共に、ボボンゴの頭上に、魔神兵の巨大な分銅状の腕が落下します。
その巨大な腕はボボンゴを直撃し、彼は無残にも、押しつぶされた様に見えました。
ところがー。
ガシッ!!!
「な、何ーっ!!!」
魔神兵の内部の操縦席に座る、魔術師レプカールの顔が、驚愕の表情を浮かべます。
なんと巨人ボボンゴは、頭上から振り下ろされた、魔神兵の大きな腕を、真正面から受け止め、その、かぎ爪のついた丸っこい拳を、たくましい双腕で、羽交い締めにするみたいに、がっしりと捕らえていました。
魔神兵のかぎ爪がついた拳は、巨人であるボボンゴが両腕をいっぱいに拡げて、やっと腕の中に収める事が出来るぐらいに大きく、彼は何かにしがみつくような姿勢をとりながら、全身の筋肉を使って、ようやく、その大岩みたいな拳を、受け止めています。
「なんという、怪力だ。信じられん」
ボボンゴが、魔神兵の巨大な拳を受け止めた事に対して驚愕する、魔術師レプカール。
慌てた彼は、魔神兵の腕を操縦して、眼下のボボンゴが、身体の正面でがっしりと捕らえている、魔神兵の拳を、ボボンゴの懐の中から、引き抜こうとします。
しかしー。
「ぬ、抜けんーっ」
なんと、ボボンゴが、身体の正面で受け止めている、魔神兵の巨大な拳は、彼の左右の剛腕でがっしりと捕らえられており、レプカールがその拳を、ボボンゴの懐の中から引き抜こうと思っても、ピクリとも動かなかったのです。
「お、おのれ化け物め!!」
レプカールは操縦桿を激しく動かして、何とか魔神兵の片腕を、ボボンゴの懐の中から引き抜こうとしましたが、そのかぎ爪の付いた丸っこい拳は、巨人である彼のたくましい両腕で、締め付けるように捕らえられており、どうしても引き抜く事が出来ません。
そしてボボンゴは、魔神兵の巨大な拳を両腕で捕らえながら、その拳を懸命に引き抜こうとしている魔神兵と、引っ張り合いをするような姿勢のまま、隣に立つレダに向かって叫びます。
「レダ!!今っ!!」
レプカールが操縦する魔神兵は、その片方の拳を、しっかりとボボンゴに捕らえてられており、片腕が拘束されて、自由に動けない状態でした。
ボボンゴは、一方の腕を拘束された魔神兵が、自分と引っ張り合いをしている、今こそが、絶好の攻撃のチャンスだと考え、隣に立つレダに呼びかけたのです。
「わかったわ!!」
ボボンゴの言葉に応えて、剣を構え直し、魔神兵に突っ込む体勢をとる、ペガサスの少女レダ。
しかし、その事に気付いた、レプカールが乗る魔神兵は、ボボンゴに片腕を拘束されたままの状態で、もう一方の腕を、レダに向かって振り下ろします。
ブーン!!!
異様な風切り音と共に、先端が分銅みたいになっている魔神兵の腕が、レダが立っている地面に向かって、振り下ろされます。
ガツンッ!!!
レプカールの操縦する魔神兵の腕が、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に落下し、その先端についたかぎ爪が、石造りの床を激しく粉砕します。
しかし、そこに立っているはずの、レダの姿はすでにありません。
魔神兵のハンマーのような腕が、むなしく地面を叩いた事に気付いた、魔神兵を操縦するレプカールは、魔神兵の片腕をボボンゴにつかまれたまま、頭部のモニターで、視界から消え失せたレダの姿を捜し求めます。
その時、レダの放つ甲高い声が、はるか上空から響いて来ました。
「ここよっ!のろまっ!!」
レダのその声は、魔神兵の内部にいる魔術師レプカールの耳にも届き、彼は、操縦席についたモニターを、すぐに声がした、頭上の方角へと振り向けます。
すると、そこにはー。
「何いっ!?あれはー」
レプカールが驚きのあまり、目を大きく見開くのも、仕方のない事でした。
彼が見た、魔神兵のモニターの画面の中には、上空を天翔ける白鳥のように飛ぶ、レダの姿が、映っていたからです。
しかし、彼女はいつものように、ペガサスに変身したわけではありませんでした。
その姿は上下の革製の黒ビキニに、両肩には肩パッド、両腕の上腕部には手甲をつけており、両足にはブーツを履いています。
つまりは、いつもの通りの、人間の姿だったのですが、それにも関わらず、彼女は空を飛んでいました。
一体、何故ー。
信じ難い事に、彼女の背中には、一対の大きな翼が生えていました。
まるで天使のようにー。
これは身体の一部だけを、ペガサス形態に変える、天馬族に伝わる秘技であり、いわば裏技でした。
長剣を手にして天翔けるその姿は、まさしく、伝説の戦乙女「ヴァルキリー」の再来でした。
「天使形態」になったレダは、その美しい両翼で、天高く舞い上がります。
そして、ボボンゴに片腕を拘束されて、自由に動けない、レプカールが操る巨大なロボット、魔神兵に向かって、その身体を急降下させました。
レダは天使のような姿で、上空から身体を急降下させると、それと同時に、手にした剣を大上段の構えから真一文字に振り下ろし、真下にいる魔神兵に対して、必殺の一撃を加えます。
「ペガサス流奥義!!天空唐竹割りーっ!!!」
レダは、天使形態のその身体を急降下させると同時に、真一文字に剣を振るい、ボボンゴにつかまれて拘束された魔神兵の片腕を、肩口から文字通り、真っ二つに切り落とします。
レダに切り落とされたその巨大な腕は、ボボンゴがつかんでいた、その拳を放すと同時に、ラピータ宮殿を支える高い土台の上から、ペルセウス王の軍勢のひしめく堀の中へと、音も無く落下して行きます。
その落下した腕は、ラピータ宮殿の周りに広がる堀の中にひしめく、宮殿を包囲する兵士たちが立つ、石で出来た地面の間に、粉塵を立てて激突し、逃げ遅れた何人かの兵士が、巨大な腕の下敷きになりました。
そして、すぐ側で生じたそんな事態にも、平然とした態度を崩さない、馬上のペルセウス王は、堀の中で大勢の部下に囲まれながら、冷徹な眼で、高所で行われている、激しい戦いの様子を見上げます。
「やれやれ、どうやら、少し手こずっているようだな。レプカール」
ペルセウス王の言う通り、レプカールの搭乗する魔神兵は、レダとボボンゴとのコンビによる攻撃により、大ダメージを受けていました。
レダの必殺剣によって、片方の肩口から先をスッパリと斬り落とされた魔神兵は、完全に身体のバランスを崩し、その巨体は、ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、徐々に傾いて行きます。
「ぐうーっ!!おのれーっ!!!」
大きく傾きつつある、魔神兵の内部で、悔しげな声を上げる、魔術師レプカール。
やがて、彼が操縦する魔神兵の巨体は、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に崩れ落ち、その片膝をガクンと、宮殿前に広がる石造りの床につきます。
一方、レダは、剣を片手に、その天使の翼をはためかせながら、空中から身体を降下させ、ラピータ宮殿を背に仁王立ちになっている、ボボンゴの側に、フワリと降り立ちます。
レダとボボンゴが居並ぶ目の前には、レプカールが操縦する魔神兵が、肩口から片腕を切り落とされ、バランスを崩したのか、宮殿前の石造りの床に片膝を落とした姿で、その巨体をうずくまらせています。
そんな風に、片腕を肩から切り落とされ、大ダメージを受けた魔神兵と、ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、少し距離をとって対峙する、レダとボボンゴのコンビは、再び連携攻撃を仕掛けて、その巨大な機械人形を完全に破壊しようと、慎重に機をうかがっています。
ちなみにレダは、空中から降り立つと同時に、背中に生やした翼を体内に吸収して、天使の姿から、通常の人間体の姿に戻っていました。
それは、中途半端な変身は、彼女の肉体と精神を、いちじるしく、消耗させるからでした。
そして、そんなレダが、隣に立つボボンゴと目配せをして、彼と共に魔神兵にとどめを刺す為に、再度攻撃を仕掛けんとした、その瞬間に、目の前にうずくまる魔神兵の、傷ついた身体に異変が起こります。
「あ、あれ、見ろっ!!レダ!!」
魔神兵に起こった異変を見て、巨人ボボンゴが叫びます。
「ーっ、再生、してる」
剣を正眼に身構えて立つレダも、眼前の石床にうずくまる魔神兵に起こった異変に、その目を丸くします。
レダたちが驚くのも、無理はありません。
なんとレダが言った通り、彼女とボボンゴとの協力プレイによって切り落としたはずの、魔神兵の片腕が、肩口の切断面からまた生えてきて、あっという間に、元の通りに再生してしまったのです。
片腕を失った魔神兵の、切り落とされた肩口から、黒い泡のようなものが、ボコボコと吹き出すと、その泡は、見る見るうちに、巨大ロボの失われた腕の形に変形していきます。
そしてー。
瞬く間に、その切り落とされた片腕は、元通りに再生し、いつのまにか、魔神兵の生体金属で出来た巨体は、ダメージを受ける前と全く同じ姿で、レダとボボンゴの前に、そびえ立っていました。
あまりの事に、魔神兵と向かい合いながら、その顔に、愕然とした表情を浮かべる、レダとボボンゴ。
魔術師レプカールは、魔神兵の内部から、そんな二人の様子を、モニター越しに見下ろして、ニヤリとほくそ笑みます。
「クククッ、驚いたか。この魔神兵は、無限の再生能力を備えているのだ。少々のダメージを受けたところで、どうという事もないわ」
魔神兵の音声装置を通じて聞こえる、魔術師レプカールの渇いた笑い声が、高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に、耳障りな残響音と共に、鳴り響きました。
[続く]




