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夢見る蛇の都 その19

 「メデューサはー。彼女は、僕の妻です。決して、誰にも渡しません」


シュナン少年の放つその言葉が、ラピータ宮殿の門前に朗々と響き、周囲の空気を伝わって、眼下に拡がる堀の中にまで届くと、そこにひしめくペルセウス王の軍陣から、大きな笑い声が上がります。


「あんな化け物娘と、結婚するなんて、頭がおかしいんじゅないか?」


「まぁ、お似合いではあるけどな」


「ゲテモノ好きにも、ほどがあるだろう」


「俺なら、絶対に、ごめんだぜー」


眼下の堀の中にいる兵たちは、そこに屹立する、ラピータ宮殿を下から支える、高い土台の足元を、ぐるりと包囲しており、そこから、宮殿前に居並ぶシュナン一行を、殺気をみなぎらせながら、見上げていました。

そして、堀の中で、ラピータ宮殿を支える土台を、ぐるりと包囲する彼らは、上の方から響くシュナン少年の、その言葉を聞くと、一斉に、下卑た声で笑いだしたのです。

彼らを率いるペルセウス王もまた、堀の中で大勢の兵に囲まれながら、シュナン少年のその言葉に、馬上で身体を大きく揺らし、大笑いしていました。


「妻だとー。メデューサとー。あの呪われた化け物とか!?これは、笑わせてくれるっ!!ガーッハッハッハーッ!!!」


黄金の鎧に包まれた身体を、大きく揺らして、大笑いする、馬上のペルセウス王。

周りにいる兵たちも、王につられるように、大声で笑っています。

一方、ラピータ宮殿の門前に居並んだシュナン一行は、宮殿を足元から支える大きな土台の上に立ちながら、眼下の堀の方から地鳴りのように響いてくる、ペルセウス王の兵たちの、あざけりの声を聞いて、全員が、憮然とした表情を浮かべています。

特にメデューサは、シュナン少年の隣で、その蛇で覆われた顔を上げる事も出来ずに、立ちすくみ、「黄金の種子」を胸にかき抱きながら、小さな身体を恥辱で震わせています。

メデューサは自分の事で、シュナン少年が馬鹿にされているのが、悔しくて悲しくて、なりませんでした。

自分が馬鹿にされるだけなら、いくらでも我慢しましたが、好きな人が自分の事を妻と呼んだせいで、笑われ、辱しめられているのは、耐えがたい苦痛でした。

蛇の前髪に覆われた顔を、恥ずかしげにうつ向かせ、わずかにのぞく口元を、悔しげに噛みしめる、メデューサ。

しかし、そんなメデューサに対して、側に立っていた、仲間の一人であるペガサスの少女レダが、後ろからがっしりと、肩をつかみます。

そして、叱咤するような口調で、メデューサに告げました。


「何を、顔を、伏せているの、メデューサ!?悪い事をしたわけじゃないのにー。シュナンを見なさい!」


レダの言葉を受けてメデューサが、隣に立つシュナン少年を、蛇の前髪の隙間から横目で見ると、彼はペルセウス軍の罵声にもひるむ事は無く、堂々と顔を上げていました。

背後からメデューサの肩をつかむ、レダの手に、力がこもります。


「シュナンが、あんなに堂々としているのに、肝心のあなたが、そんな事でどうするの!?女ならー。いえ、人間なら、好きな人に愛されてる事に、誇りを持つべきだわっ!顔を上げて、前を見なさい、ラーナ・メデューサ!!そして胸を張って、シュナンの隣に立つのよ!!」


レダの言葉を聞いてメデューサは、その蛇の前髪で覆われた顔を、ガクガクと震わせます。


「レダー」


すると、そんな両者のやり取りを見て、義憤にかられたのか、その場にいる他の旅の仲間たちもまた、次々と、メデューサに声をかけて、彼女を励まそうとします。


「人の純粋な気持ち、あざ笑う。最低な奴ら。あんなの、相手に、する事ない」


その顔に、怒りの表情を浮かべながら、自分たちを包囲する眼下のペルセウス軍を、ギロリと睨みつける、巨人ボボンゴ。


「そうですぜ。あんな連中、相手にする事無いですせ。メデューサ族の宝が、何ですか。どんな宝石も、お二人の愛ほど、輝きはしませんぜ。自信を持って下さい」


吟遊詩人デイスも、懐から取り出した竪琴を、ポロンポロン弾き鳴らして、メデューサを励まします。

そんな仲間たちの、励ましの言葉が功を奏したのか、メデューサは、うつ向かせていた顔を、ようやく上げて、前を見つめます。

そして、すぐ側にいるシュナン少年の方に、更に歩み寄ると、彼のすぐ隣に並び立ちます。

メデューサは両手で、「黄金の種子」の麻袋を持っており、それを胸にかき抱くようにしています。

シュナン少年は自分の隣に、「黄金の種子」の麻袋を持つメデューサが、寄り添うように立った事に気づくと、彼女の方に、目隠しをした、その顔を向け、にっこりと笑いました。

ラピータ宮殿がその上に立つ、高い土台をぐるりと包囲している、深く広い堀の中にひしめくペルセウス軍の兵士たちは、メデューサがシュナン少年と共に襟を正して、宮殿前に並び立つのを見て、二人をあざ笑うのをやめ、一転して、水を打ったように静かになります。

それは、堂々と立つ二人の若者の姿が、兵士たちに対して、決して軽んじてはならない、大切な何かがある事を、思い起こさせたからでした。

しかし、彼らを率いる、もう一人の王であるペルセウス13世は、馬上から、宮殿前に並ぶ二人を、冷徹な目で見つめ、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に、メデューサと共に立つ、シュナン少年に向かって、大声で呼びかけます。


「なるほど、お前の気持ちは、分かった。まったく、つくづく、変わった奴よ。目がくらむような栄誉より、そんな蛇娘を、選ぶとはー。だがお前は、一人の男である前に、朕の臣下の一人である。その義務については、どう考えるのか。臣下としての義務は、人として、何よりも優先すべきもの。それともお前は、そんな事も知らぬ、不忠者なのか」


ペルセウス王の軍勢と共に、彼の傍らで、深い堀の中から、目の前にそびえ立つラピータ宮殿を支える高い土台の上にいる、シュナンたちを見上げている、ロボットに乗った魔術師レプカールもまた、弟子であるシュナンを責める言葉を、音声装置を通じて発します。


「そうだぞ、シュナン。生まれた村で両親を亡くした、孤児のお前を引き取って、ここまで育ててやったのは誰なのかー。お前の師である、わしであり、主人(あるじ)である、陛下ではないか。あのまま、あの村にいたら、お前はとっくの昔に、野垂死にしていたわ。メデューサと「黄金の種子」を、王にお渡しして、ご恩返しするのは当然の事よ」


その時でしたー。

高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前に、仲間たちと共に立ち、眼下の深い堀の中にひしめく軍勢の方から聞こえてくる、王と師の声に耳を傾けていたシュナン少年に対し、まったく別の方向から、声をかける者がいました。

それはシュナンが、その手に持つ、師匠の杖でした。

なんと、シュナンが手に持つ師匠の杖が、長い沈黙を破って、弟子である彼に、声をかけてきたのです。

その杖を遠隔操作しているはずの、魔術師レプカールの本体は、眼下の堀の中で、ロボットの内部に鎮座しており、今の今まで音声装置を使って、高所にいるシュナン少年に、話しかけていました。

それなのに、何故ー。


「あいつらに、恩義を感じる、必要など無い。シュナンよ。お前の両親を殺したのは、魔術師レプカールだ。魔法の才を持つお前を、手に入れるために、王の命令でな。お前の視覚を奪ったのも、あいつだ。お前を自分に依存させ、思うがままに、操るためにな」


シュナンたちがその上にいる、ラピータ宮殿を下支えする、階段のついた高い土台が中心に立っている、宮殿の周りに広がる深い堀の中で、他の兵たちと共に弟子の様子をうかがっていた魔術師レプカールは、秘密がバレた事に気づいたのか、ロボットの操縦席で思わず毒づきます。


「チッ!杖めっ!勝手に再起動したな。やはり、中枢回路を自立式にしたのは、間違いだったかー。わしとした事が、しくじったわい」


[続く]


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