夢見る蛇の都 その18
高い土台の上に建てられた、ラピータ宮殿の門前に集まったシュナン一行は、周囲に広がる深い堀の中にひしめく、ペルセウス軍の様子を高所から見下ろしながら、それぞれの顔に、戸惑いの表情を浮かべていました。
メデューサと、彼女が持つ「黄金の種子」を引き渡すように、主人であるペルセウス王に要求されたシュナン少年は、眼下の堀の中にいる王の方に、手に持つ杖を向けながら、静かな声で聞きました。
「陛下、「黄金の種子」はともかく、メデューサを引き渡せとは、いったい、どういうおつもりですか?メデューサを、どうするつもりなのです」
多数の兵と共に、シュナンたちがその上に立つ、ラピータ宮殿を支える土台を包囲する、ペルセウス王は、馬上から冷徹な声を発すると、高所からこちらを見下ろしているショナン少年に対し、自分の目的を告げました。
「もちろん、メデューサを通して、メデューサ族の宝を手に入れるためだよ。予想通り、メデューサ族の宝物殿である「夢幻宮」には、メデューサ王の子孫である、その娘しか入れないようだからな。メデューサを使ってわたしは、宝物殿の宝を、すべて手に入れるつもりなのだ。特に超兵器「ギガス」をな。あれがあれば、世界はわたしのものー」
黄金の鎧を光らせながら、馬にまたがるペルセウス王は、自分の目的と野望を大声で語り、高所から自分を見下ろしているシュナン少年を、説得しようとします。
「そうすれば、このわたしー。ペルセウス王の名の元に、世界は一つに統一される。そうすれば国々同士の争いは無くなり、平和な世界が到来する。お前が夢見ていた、争いのない時代が、千年王国が実現するのだ。素晴らしい事ではないか、シュナンドリック。だから、悪いことは言わん、わたしに協力しろ。おとなしくメデューサを、こちらに引き渡すのだー」
そんな時、ラピータ宮殿の前で、シュナンと向かい合っていたメデューサが、いきなり蛇の前髪を逆立てると、眼下の深い堀の中を、赤い目でにらみつけました。
そしてその堀の中で、宮殿を支える土台を、部下たちと共に包囲している、ペルセウス王に向かって、叫びます。
「冗談じゃないわっ!!誰があんた達に、そんな危険な物を渡すもんですかっ!シュナンはともかく、あんたらに、そんな兵器を渡したら、悪い事に使うに決まってる!!この都市を、滅ぼしたみたいにね!!絶対に渡さないわっ!!!」
しかし、そんな風に、高所から怒鳴り散らすメデューサに対し、ペルセウス王は、眼下の堀の中から、冷徹な目で彼女を見つめ、余裕の笑みを浮かべています。
そして今度は、その王の傍らで、彼の麾下の兵士たちの間に屹立する、巨大なロボットー。
魔術師レプカールが、内部から操縦する機械人形、「魔神兵」が、声を発します。
レプカールは、魔神兵の頭部内の操縦席から、そこに付いたモニターを通じて、自分たちの包囲する、宮殿を支える高い土台の上に立つ、メデューサを見上げ、くぐもった声で彼女に告げました。
「フハハハ、威勢のいい、お姫様だな。だが、お前のような小娘に、言う事を聞かせる方法など、いくらでもあるのだ。精神を支配して、操り人形にする事も出来る。お前もシュナンと一緒に、長い間旅をしてきたのだ。魔法使いの術の恐ろしさは、身にしみてわかっているだろう」
その言葉を聞いた、宮殿の前に立つメデューサは、「黄金の種子」の入った麻袋を、胸にかき抱くと、怯えたように身を縮こまらせます。
メデューサの隣に立つシュナンは、そんな彼女の姿を、杖を通じて見て、その目隠しをした顔に、心配そうな表情を浮かべます。
そして彼は、自分たちが立つ、ラピータ宮殿の土台をぐるりと包囲する、堀の中のペルセウス軍を、一べつすると、彼らを率いる王に対して言いました。
「陛下ー。確かに、メデューサ族の兵器類を使えば、全世界の征服も、充分可能でしょう。無数の人々を殺戮した上でー。でもそれは、しょせん、ひと時の事です。やがて、その偽りの平和は破られ、今度は、互いに超兵器を使った恐ろしい戦いが、再び始まる事でしょう。そして、その戦いが終われば、また次の戦いがー。いや、もしかしたら人類自体が、その前に、滅びてしまうかもしれません」
シュナンは、宮殿を支える土台の上から、真摯な声と表情で、眼下のペルセウス王に訴えかけ、彼の野望に、少しでも歯止めを、かけようとしていました。
メデューサを始めとした、宮殿前にいる彼の仲間たちは、そんな少年の姿を、心配そうに見つめています。
「我々が作るべきなのは、そんな砂上の楼閣のような国では、ないはずです。全ての人々が、いつまでも幸せに、平和に暮らせるー。そんな、真の千年王国のはずです。そしてそれは、メデューサ族の恐ろしい兵器になど頼らなくても、きっと、作ることが出来ます。そうです。偉大な陛下ならば、きっとー」
シュナン少年の、王に諫言する声は、当のペルセウス王はもちろん、その傍らで、巨大なロボットに乗り組んだ魔術師レプカール、そして、彼らの周りにいる、眼下の堀の中でひしめく、包囲陣の兵士たちの耳にも、切々と、響いていました。
しかしー。
シュナンたちが、その上に立つ、ラピータ宮殿を支える高い土台を、堀の中にひしめく麾下の兵たちと共に、足元から包囲するペルセウス王は、馬上で薄ら笑いを浮かべながら、少年の言葉を一蹴します。
「シュナンドリック、お前の考えは解る。だが甘い、甘すぎる。人間はしょせん、愚かな生き物。力で押さえつけなければ、すぐに悪に走り、どこまでも際限なく、堕落する存在なのだ。だから、多少の犠牲が出たとしても、強く優れた者が、力で支配して、愚民どもを導いてやらねばー。そうだな、レプカール」
国王の傍らで兵士たちの間に屹立する、巨大な機械人形が、くぐもった声を発します。
「御意でこざいます、陛下。シュナンは、まだ非常に若く、我々のように、人間の愚かさに、絶望しておりません。ただ、それだけの事ー。いずれ、我が不詳の弟子にも、人間の愚かさと、陛下の偉大な御心が、分かる日が、きっと来るでしょう」
レプカールの乗ったロボットの言葉に、満足げにうなずく、馬上のペルセウス王。
一方、王の言葉を聞いたシュナン少年は、ラピータ宮殿を支える高い土台の上で、その目隠しをした顔を、悲しげに振ります。
「違う・・・。人間は誰だって、正しく生きる事が出来るはずだ。そうだ、ほんの、ほんの小さなチャンスさえあればー。例えば、「黄金の種子」のような。だから僕はー」
杖を強く握りしめながら、顔を伏せる、シュナン。
メデューサはそんなシュナンを、他の仲間たちと共に見守りながら、両手で胸にかき抱いた、「黄金の種子」の麻袋を、そっと口元に寄せました。
さて、そんなやり取りにも、そろそろ飽きたのか、馬上のペルセウス王は、ラピータ宮殿を支える高い土台の上に立つシュナン少年を、堀の底の地面から見上げながら、冷徹な声で決断を迫ります。
「さぁ、シュナンドリックよ。さっさとメデューサを、こちらに引き渡すのだ。ついでに「黄金の種子」もな。朕の怒りを買わぬうちに、言う通りにした方がいいぞ。なぁに、遠慮する事は無い。メデューサはお前を裏切って、「黄金の種子」を独り占めしようとした、身勝手な性悪女だ。お前が、自分の栄光を捨ててまで、守る価値など微塵も無いわ」
シュナン少年を更に動揺させる為に、メデューサをおとしめる言葉を、続けざまに発する、ペルセウス王。
そんな王に対してシュナン少年は、冷静な表情で杖を構えると、主人である王の方に、その杖を静かに振りかざします。
そして、眼下の堀の中にいるペルセウス王や、その傍らで、兵士たちの間に屹立する、レプカールの乗るロボット、更に二人の指揮下にある、宮殿の土台を取り巻く軍勢を、杖を通じて一べつします。
それから彼は、自分の傍らで、他の仲間たちと共に、心配そうにこちらを見つめる、「黄金の種子」を持ったメデューサの視線を、背中に感じながら、もう一度、眼下の堀の中で大勢の兵士たちに囲まれている、ペルセウス王の方に、その目隠しをした顔を向けました。
師匠の杖を強く握りしめ、仲間たちと共に立つ、高い土台に支えられたラピータ宮殿の門前から、はっきりとした声で、眼下のペルセウス王に向かって、自分の意思を告げる、シュナン少年。
「いくら陛下であっても、メデューサを引き渡す事は出来ません。彼女はー。メデューサは、僕の妻です。決して、誰にも渡しません」
[続く]




