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夢見る蛇の都 その15

 「メデューサ・・・。どうしたの?」


シュナンはメデューサが、昨日と同じく、また突然、背後に現れ、その上、彼女が再び、ポロポロと涙をこぼすのを見て、びっくりしました。

彼は、その目隠しをした顔に、心配そうな表情を浮かべると、自分の前に立ちつくすメデューサの方に、ゆっくりと歩み寄ります。

そして彼女の目の前で、ピタリと足を止めて。そのまま側で寄り添うように立ちながら、蛇に覆われた顔を悲しげにうつむかせるその姿を、戸惑いながら見守ります。

シュナンは、恐らくメデューサは、「黄金の種子」が見つからないために悩んでいる、自分の事を心配して、泣いているのだと考えました。

シュナンは、自分の事を気づかってくれる、メデューサの心遣いに感謝し、他者を思いやる彼女の優しさに、改めて心打たれます。

一方、当のメデューサは、シュナン少年が自分の方へと近づき、目の前に立ち止まったのに気づくと、何とか、自分の気持ちを立て直し、懐に入れた「黄金の種子」の種籾が詰まった袋を、少年に手渡そうとします。

メデューサは、蛇の前髪で隠れている、涙で濡れた両眼を、片方の手でゴシゴシぬぐうと、精一杯の笑顔を浮かべて、シュナン少年に向き合います。


「シュナン、これー」


メデューサが、自分の服のポケットに入れた、「黄金の種子」が詰まった麻袋を取り出して、シュナン少年に見せようとした。その時でした。

彼女の眼前に立つ、シュナン少年の口から、意外な言葉が発せられます。


「メデューサ、僕と一緒に、魔の山に帰って、二人で暮らさないか?」


「えっ」


シュナンの、その意外な言葉に、麻袋を取り出そうとして、ポケットに突っ込んでいた、その手の動きを、思わず止める、メデューサ。

そんな風に、戸惑うメデューサに対して、彼女の眼前に立つシュナン少年は、師匠の杖を握りしめながら、自分の言葉の意図について語ります。


「本当は、「黄金の種子」を見つけた功績で、王からどこかの領地を貰い、そこで君と一緒に、静かに暮らそうかと思っていたんだ。でもー。どうやら、無理みたいだ。理由はわからないが、どうやら「黄金の種子」は、僕らには手の届かない、秘密の場所にあるようだ」


シュナンのその言葉を、目の前で聞くメデューサは、思わず、ポケットに入れた麻袋を、服の上から利き手で押さえます。

メデューサは一昨夜の経験から、メデューサ族の宝物殿の秘密について、ある程度、理解していました。

恐らく、あの宝の山で埋まった広大な宝物殿は、通常とは違う異空間に作られており、メデューサ族の王家の子孫しか、入れないようになっていると思われました。

しかも、普通の状態では入る事は出来ず、睡眠時に精神体の姿になって、初めてそこに出入り出来る仕様になっており、そしてその際に必要だと願った物だけを、現実世界に持ち帰れるシステムだったのです。

あの宝物殿内にあった、巨大な機械群の数々も、メデューサがそれを望んでいれば、きっと現実世界に出現していた事でしょう。

戸惑いの表情を、蛇の前髪の隙間から覗かせながら、バルコニーの床上に立つメデューサに対して、彼女の前に立つシュナン少年は、更に語り続けます。


「このまま、手ぶらで国に帰ったら、王から罰を受けるかもしれないし、もしかしたら、君とも引き離されてしまうかもしれない。だから二人で、どこか遠くの場所に行って、そこで暮らした方がいいと思う。もちろん君が、それで良ければの話だけどー」


シュナン少年は、高い塔に突き出たバルコニーのような場所でメデューサと向かい合いながら、彼女に懇願するみたいな口調で話し続けます。


「魔の山なら、人目につく事もないし、二人でひっそりと暮らせるだろう。君も、住み慣れてるだろうしね。僕はこんな目の見えない、身体の不自由な男だけど、君に助けてもらえれば、きっと簡単な野良仕事くらいは出来ると思う。君と幸せになるために、精一杯頑張るよ。だからー」


シュナンと向かい合いながら、彼の言葉を聞くメデューサは、ずっと、その蛇で覆われた顔をうつ向かせていました。

彼女は、シュナンの話の途中で、何度もポケットから麻袋を取り出して、少年に手渡そうと思いました。

けれどその度に、メデューサの手は痺れたように動かなくなり、結局、彼女が「黄金の種子」をポケットから、取り出す事はありませんでした。

この彼女が持つ「黄金の種子」の麻袋さえ、シュナンに手渡せば、彼の目的は達成され、万事が上手くいくはずでした。

シュナンには、その功績により、名誉と財産が与えられ、もしかしたら美しい姫と結婚して、王室の一員にさえ、なれるかもしれません。

幼少時から苦労して、魔法の修行をし、みんなのために頑張ってきた彼が、やっと報われ、幸せになれるのです。

メデューサ個人の、勝手な理由で、邪魔をして言い訳がありません。

もしかしたら、そのために、シュナン少年が、メデューサからは、手の届かない人になってしまい、彼女が、また一人ぼっちになってしまうのだとしてもー。

メデューサは、シュナンが自分にした提案に、激しく心を動かされながらも、ここはやはり、ポケットから麻袋を取り出して、彼に渡すべきだと思いました。

たとえ、そのせいで、自分が、シュナン少年から、忘れ去られてしまったとしてもー。

意を決したメデューサは、再び麻袋の入ったポケットに手を伸ばし、それを取り出して、シュナン少年に手渡そうとします。

しかしー。


「も、もう、しょうがないなぁ。でも・・・うん、わかったよ。二人で、魔の山に戻りましょう。なんか、出戻りみたいで、かっこ悪いけどー。大丈夫、心配しないで。シュナンの面倒は、あたしがちゃんとー」


メデューサは、足をガタガタ震わせながら、そう言うと、ポケットから出そうとしていた麻袋を、再び奥に、押し込んでしまいます。

その時、ずっと無言だった、シュナン少年が持つ師匠の杖が、声を発しました。


「それで、いいのかね。メデューサ」


その言葉を聞いたメデューサは、ポケットに突っ込んで麻袋を握っていた手を、ギクリと震わせました。

そして、シュナンの手に握られている、その先端に大きな目を持つ杖を、蛇の前髪の隙間から、おずおずと見上げると、上ずった声で言いました。


「一体、何の事?な、何を言ってるのか、分からないわ。レプカール師匠・・・」


蛇に覆われた顔を、恥じる様にうつ向かせて、バルコニーの石造りの床を、じっと凝視するメデューサ。

そんなうなだれる彼女の姿を、シュナンが手に持つ師匠の杖は、その先端の円板についた大きな目を光らせながら、冷徹な視線で見ています。

一方、双方のやり取りを聞いていたシュナン少年は、二人?のやり取りの意味が全くわからず、手に持つ杖と、正面に立つメデューサとの間で、首をひねっていました。

その時、塔の上階から突き出た、物見台のような場所に立つ二人の耳に、遠くから、地鳴りみたいな音が聞こえてきました。

シュナンとメデューサが驚いて、音のする方向に振り向くと、どうやら、その音は、パロ・メデューサの街並みの方から、聞こえてくるようでした。

シュナンとメデューサは、塔より突き出たバルコニーの外縁を、囲むみたいに設けられた、石の欄干に近づくと、そこから見える、パロ・メデューサの街並みの遠景に、目を馳せます。

するとそこにはー。

パロ・メデューサの街並みの間を縫うように、こちらに向かって近づいてくる、雲霞の如き、大軍勢の姿がありました。

それは、シュナン一行の後を追って、西の都を出立した、ペルセウス13世が率いる、竜騎兵を中心とした、五千を超える大軍勢でした。

そして、ペルセウス王の参謀であり、またシュナン少年の師である、大魔術師レプカールの操縦する、巨大なロボットの姿も、その軍勢の中にありました。

高い塔のてっぺん近くに突き出た、バルコニーの外縁部で、そこに設けられた、象牙色の石の欄干の内側に立つ、二人が見下ろす、眼下の風景は、ペルセウス王の大軍勢によって、黒々と覆われていきます。

シュナンの隣で、バルコニーの欄干に両手でつかまり、こちらに向かって押し寄せる、その軍勢の姿を見つめるメデューサは、それが自分に対する罰だと感じていました。

シュナン少年を失うのを恐れるあまり、「黄金の種子」が見つかった事を彼に内緒にし、それを手渡すのをためらった、自分の「罪」に対する「罰」だとー。

一方、彼女の隣で、石の欄干の前に立つシュナン少年は、急に一言も喋らなくなった、師匠の杖を握りしめながら、今やラピータ宮殿に迫りつつある、その大軍勢の姿を、杖を通じて見つめ、目隠しをした顔に、どこか、決然とした表情を浮かべています。

騎馬隊を中心とした、ペルセウス軍の進軍速度は異様に早く、その先陣はすでに、シュナン一行がいるラピータ宮殿の足元に、到達しつつありました。

大魔術師レプカールが操縦する巨大な機械人形も、一般兵の背後から、パロ・メデューサの高層建築の間をぬって、こちらに向かって、徐々に近づいて来ており、その異様な姿が遠目で確認できます。

シュナンとメデューサの、そして第五人類の命運を決める、最後の戦いが今、幕を開けようとしていました。


[続く]


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