音源制作 その1
バンドが再結成して数日経ったころ、自主制作をしようという話になった。私たちは今までに数曲作った事があるが、それはいずれもライブで演奏したのみであり、しっかりとレコーディングをしたことがなかったのだ。せっかく曲を作ったのなら、レコーディングをしてみたい。いつしかメンバーの中でそのような感情が沸々と沸き起こっていたものの、照れがあったのか、誰も口にしなかった。
スタジオに来てもセッションをするだけ。携帯で録音することはあっても、大抵はクロの力強いシンバル以外はほとんど音が入らず、何をやっているか分からないものだけだった。
ある日、ケンちゃんが言った。
「なぁ、俺たちそろそろレコーディングしても良いと思う」
レコーディングするのに資格がいるかのような言い方だったが、改めて口にされるとみんなウズウズしていた。
「ああ、賛成だ」
と私が言うと
「でも、私たちにはどうやってレコーディングするのか分からないわ。誰か知ってるの?」
と飯田が言うとみんな黙ってしまった。
「……そう言えば、このスタジオはマイクを借りれるんじゃないか?」
ケンがそういうと、飯田が
「確かに、まさやミッキーのコーラスマイクはここのスタジオのマイクを借りてるし、レコーディング用のマイクも借りれるはずよ!」
といい、盛り上がったためその勢いでスタジオの管理人に尋ねた。
「すいません、音源を録音するために使うマイクを貸して欲しいんです」
すると管理人はこう言った。
「借りる分には構わないが、君たち、テープやらパソコンやらは持ってきてるのか?」
メンバー全員が訝しげな顔をすると管理人は続けた。
「マイクだけあっても、録音はできないよ。例えばカセットにつなぐマルチレコーダーとか、あとはパソコンのDAWにつなぐインターフェースとかがないと録れないよ」
私達はなにやら暗号のようなものを話された。一同が理解に苦しんでいると、
「君たち、わかってないようだね、なんのことだか。まぁいいよ。今回は機材を貸してあげる。いろいろ教えてあげるよ。あ、悪いけどカセットを切らしているからそれだけどこかで買ってきてくれないか」
メンバー全員がクロを見つめた。
「俺はパシリかよ!」
クロがカセットを購入してきたため、なんとかレコーディングを始めることができた。
「まずはこのデッキにカセットを入れて、電源を入れる。そして、マイクを繋いでいく。この機材はマイクが八本繋げられる。これは機材によって異なるけど、簡易的なものはこのくらいで録れる。」
管理人が親切に説明してくれた。
私達はマイクのセッティングをしようとした。しかし前のライブではエンジニアの方々がしてくれたため自分たちでどうやるのか分からなかった。
「私がやってあげるよ」
管理人が素早くやってくれた。音の分離を良くするために私とケンちゃんのアンプは反対に向けて他のマイクに入らないようにしてくれた。ベースはマイクで録らずに直接レコーダーに突っ込んだ。
「ドラムだが、今回は二本で録音してみよう。トップに一本、キックに一本。これでバランス良く録れるはずだ」
普段なら何本も立てるらしいが、今回はかなり少なめに録っているらしい。コーラスマイクが足らなくなるからだ。
「よし、これで録れるはずだ。一発録り、テープは30分ほど録れるかな。まぁ、頑張ってくれ」
そして、私達はレコーディングを始めた。失敗は残したくない。そうやって緊張していると、迫力に欠けてしまった。
「もう少し、勢いある方がいいんじゃない?」
だが、飯田にそう言われてもこっちはかなり緊張しているのである。ミスができない、そう思うと手の震えが止まらなかった。
「マサ、手が震えすぎ」
飯田が喝を入れる。だがそんな彼女の声も遠くに聞こえる。まるで意識が昏睡しているかのような、そんな気分だ。
「もう、しっかりしてよ。変なのが残ったら、それこそイヤよ」
彼女の言う通りだ。気をしっかり保て。そう言い聞かせてもう一度録音した。
記憶はここでなくなっている。アドレナリンがドパドパと出ていた気がするが、むやみやたらに掻き鳴らし、飛び跳ね、ギターをアンプに近づけたりしてハウリングさせたりしたことはすっかり忘れていた。とにかく狂喜乱舞のパフォーマンスで、気付いたら曲が終わって、耳鳴りだけが残った。
「いい感じじゃない?」
息切れしながらミッキーが言った。マサの目は一点を見つめ、呆然としている。
「……マサ?」
名前を呼ばれてハッとした。とにかくハイになっていた。しかしなんとかやり切ったようだった。そう分かると、アンプにもたれかかり、へなへなとしゃがみ込んだ。
アンプの上に乗せていたピック入れがガラガラと崩れ落ちる音を拾って、テープは止まった。




