別れ
夏休みが終わり学校が始まったが、結愛と話す機会はほとんどなかった。
席が離れているせいで、彼女と話せなかったし、授業が終わった後彼女が逃げるように帰宅するので話しかける隙がない。
明らかに避けられているのは分かっていた。
大人気ないのは分かっているけれど、正直私はそれに怒りを覚えていた。
今までずっと彼女の為に、様々な努力をしてきたつもりだ。
彼女の気持ちを尊重しようと一生懸命に頑張った。
それなのに、たった一言だけで私のことを完全に無視するなんて。
私はあんなに彼女に歩み寄ろうと努力したけれど、彼女は私のことを考えたことがあるのだろうか? 私を大切な人だと思ったことなんてあるのだろうか?
彼女と直接話そうと、学校内で歩み寄ると、彼女はそれを察知してすぐに移動してしまう。他の人たちがいる中で、走って追いかけるわけにもいかなかったので、結局彼女にメッセージで聞くしかなかった。
「ねぇ、何で避けるの?」
すると、急に彼女から電話がかかってきた。電話に出た途端、彼女に詰め寄られた。
「考えれば分かるでしょ」
「私がグランピングで言ったこと?」
「貴方ね、あんなこと言っておいて、当たり前でしょ」
「言っちゃいけないことを言ったのは分かってる。けど、辛かったの。結愛、私より美和子とかまさとの方が距離が近くて、私、結愛にとってなんでもないなと思って」
「それは貴方の思い込みでしょ。私そんなこと言った?」
「……言ってない」
「貴方だから付き合おうと思ったんだよ? 燈佳のこと信頼してたからだって分からない?」
美和子やまさ、他の誰でもなく、私だったから付き合ってくれたと言ってるのだろうか? そんなこと想像もしなかった。
「私たち、これで別れるの?」
その言葉に、結愛は笑った。
「まだ付き合ってるとかどうとか言ってるの?」
「うん」
「そうだね。これでお別れだね」
「そっか。今までありがとう」
「さよなら」その一言で電話が切られた。
明らかに私と話している時間すら苦痛とでも言いたげだった。
それから彼女と会話をしたことは一度もない。
結愛から聞いたのか、私から話したのかは覚えていないが、美和子もまさも私と結愛を引き合わせるような状況を避けてくれているようだった。
まるで初めから、結愛とは知り合っていなかったかのような日々が続いた。
その後、私たちはコースを終え、それぞれの大学に進学した。
気まずくて彼女の連絡先を携帯から消したし、彼女は元々インスタグラムやフェイスブックをする人じゃなかったので、今どこでどうしているのかは分からない。分からないし、特別知りたいとも思わなかった。
いつか彼女に、どうして自分と付き合ってくれることにしたのか、聞いたことがあった。
彼女は小首を傾げて「んー、燈佳には聞こえが悪くて申し訳ないんだけど、実験かな。自分でも恋愛関係ができるのかどうか。私、燈佳と別れることになったら、多分もう誰ともできないだろうね」
結局彼女の実験は失敗してしまった。
私は、彼女と付き合っていた時、どう振舞うべきだったのだろうか。今でも分からない。けれど、私は精一杯誠実に正直に付き合ったつもりだ。
ただ自分の実力や人間性が彼女に見合わなかったのだと思う。
ただただ何が正解だったのだろうかと今でも考える。
まるで風がそよぐ時のように、時々彼女と過ごした日々を思い出す。
けれど、写真フォルダを見かえしても、私と彼女が一緒に写っているものは一つもなかった。




