先が見えない旅III
施設は駅から歩いて15分程度の場所にあった。とてものどかな街並みだった。駅から降りると目立った建物はなく、あるのは名前の知らないコンビニ風のお店と美容室や郵便局などが数件あるだけだった。街探索はせずに真っ直ぐ施設へと足を進めることにした。
施設は思っていたよりも遠く感じた。俺は小田原のキャリーバックも一緒に持ちながら歩を進めた。彼女は俺が荷物を持つのを固辞したが、半ば強引に手から奪い去った。
施設に到着するとキャリーバックとボストンバックを受付に預け、お父さんが暮らしている部屋へと向かうことになった。
受付の人は最初、俺がいる事を不思議がっていたが、小田原が何か説明すると納得したようだった。部屋までは自分等だけで向かう為、2人でエレベーターの中に入った。
「俺の事何て説明したの?」
「いとこだって説明したよ。普段外国に住んでいて、なかなか来られなかったけど
今回長期休暇を取って、日本に帰ってきたので一緒に来ることになりました。って」
「考えてたの??」
「そう。電車に乗っている間、ずっと考えていたよ。」と言いながらニッコリと笑っていた。
「俺何も考えてなかった。ごめん。」
「一緒にいてくれるだけで心強いよ。嫌になったら逃げても良いからね。」
「絶対逃げないよ」
「いつまでそう言ってられるかな。」と微笑んだ。
微笑みと同時にエレベーターは到着した。部屋は5階にあり、エレベーターの近くにあった。小田原は迷いなく502号室の引き戸を引いた。
扉を開けると1人の男性がベットの上に座っていた。男は窓から外を眺めていた。
「お父さん。久しぶり。会いにきたよ。」どうやら目の前でベットに座っている男性こそが小田原の父らしい。
「こちらが私の友達の隆くん。よろしくね。」
小田原は明るい声で呼びかけていた。しかし返事はなかった。
「よろしくお願い致します。」俺も緊張しながら前に回り込み挨拶をした。
顔を上げるとお父さんの顔が確認出来た。目は焦点があっておらず何処を見ているのか分からない。口元は緩み、よだれが少し垂れていた。
俺は内心驚きを隠せず1歩後ろに下がった。本当は逃げ出したい気持ちになったが、小田原の顔を見て耐えることができた。
表情のない人間を見るのはこれが初めてだった。笑っているようであり、泣いているようであり、怒っているようでもあった。ここに確かに人はいるのにいないのと何も変わらないようだった。
「怖くなったでしょ。こんな重荷を隆くんに背負わせるわけにはいかないよ。逃げるなら今だよ。ホテルに今日は戻って明日の、、、。」
「俺は逃げないよ。一緒に解決して笑顔で家に帰る。そう決意したから。」
俺は小田原が言葉を終える前に強めの口調で話をした。
「分かった。ありがとう。少し待ってて。」
そういうと小田原はお父さんの抜け殻の肩に手を添えた。そして目を瞑った。
数分だろうか1時間位たっだだろうか。彼女はその姿勢を崩さぬまま祈りを捧げるように同じポーズをしていた。
「お父さんの未来が変わっていないかどうか確認していたの。」
突然小田原が話を始めた。
「未来は大きくは変わっていなかった。」
「そっかぁ。でも、抜け殻状態のお父さんはどうやって自殺するの??」
見る限り、意思があるようには見えない。俺は思った疑問をそのまま口にした。




