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67.エリアボスと魔剣

 実際、魔法小銃って不人気っぽいのよね。

 オークションを覗けば、結構な数の初期装備のマスケット出品されている。

 別に愛着はないけれど、その中で、壊れてしまった銃を私は格安で落札している。

【修理】すれば使えるし、その為の鉱石は猿退治の合間に手に入れていた。


 魔導小銃の使い勝手の悪さの一つ、全弾撃ちきった後のチャージ。リロードまでの待ち時間。それを、銃の数で補い回転数を上げることで解消できないかと目論んでいる。


 ただし、武器の持ち運びについては制限がある。武器は手持ちの装備品を含め四つまで。

 ちなみに防具に関しては数の制限はない。

 だけれど、武器防具類には個別に重量が設定されており、その重量分アバターの動作へ影響を与える。ざっくり言えば、重い荷物を持っている時ほど動きが遅い。

 つまり、戦闘職の場合、予備の防具を持ち運ぶことはあまり現実的でない。

 素材類も同様に重量が設定されているのだけれど、こちらは無視して良い程度の数値。


 しかし、私は【武器庫】というスキルを取得し、装備品を含め八つまで武器の所持が可能。

 更に、収納中の武器重量が半減という効果つき。


 零七組と言うか生産職の方々との交流がなければ、この発想には至らなかったと思う。


 彼女達には、彼女達の知識がある。

 護衛と称し私達と行動を共にさせながらも、道中ほとんど敵の姿を見ていない。


「魔除けの鈴。

 雑魚避けに持って来いなのよね」


 私の疑問に答える様に前を歩くレンナさんが振り返りながらウインク。


「つまらんけどな」


 それに、大きなハンマーを担いだユウさんが意見する。

 他のメンバーはどう思っているのだろう。

 一応、全員武器は手にしているが。


「やっぱり、私達要らないかったんじゃないですか?」

「これだけは、避けては通れないのよね。

 さ、出番よ」


 一団が立ち止まった。

 そして、私へ先を譲る様に零七組が左右に分かれて道を作る。

 その先で三人と一匹が横一列に並んでいる。

 さらにその奥に、私達を見下ろす巨大な獣。

 黄色に黒の縞模様。上顎から伸びた長い牙に鋭利な爪。虎の体、その背には折りたたまれた猛禽類の様な翼。


「窮奇。

 中国神話に登場する四凶の一つ。

 名のある怪物ですね。

 風神でもあるそうです」


 解説どうも。

 私は仲間達の横へ。


「飛びそうだね」

「その前に叩き斬るさ」


 その作戦はどう考えても無理だろ。


「実際問題、上から強襲されると厄介ね」


 そう言いながらクロちゃんは僅かに首をひねり、視線を後方へ。

 私達を飛び越え後ろを攻撃する事も可能、か。


「この……大きければ強いと言う雑なデザインはどうにも好きになれませんわ」


 足から頭まで……四メートル程だろうか。

 背中に四人くらい乗れそう。


「ま、勝って先に行ったプレイヤーもいるんだし。

 いざとなったらお客さん達にも働いてもらおう」


 私は、度重なる修理を経て強化されたミニエー強化3を握りしめ、討つべき敵を睨む。


「……散会!」


 私の号令と共に飛び出していくカエデと市松。そしてシロ。

 同時に敵も動く。

 頭を下げ、身を低くし再び持ち上げると同時に大きく口を開き咆哮。

 直後、突風。


 敵に向かい走り出していたカエデと市松が、その直撃を受け大きく弾き飛ばされた。シロは咄嗟に身を伏せやり過ごしたみたい。

 私はクロちゃんが盾になってくれ被害を免れた。


「不味っ……!」


 だが、そのクロちゃんも虎の体当たりを受け弾き飛ばされる。辛うじて盾を差し込み体への直撃は免れたみたいだけれど。

 しゃがんだ私の頭上をクロちゃんの体が越えて行った。


 私は真正面から迫る虎の鼻先を狙い引き金を引く。

 鼻っ面と眉間に一発ずつ。

 小さな衝撃と共に弾けた光弾は、虎の足を止めこそすれ、大したダメージにはなっていないだろう。


 だけれど、足を止めればそれに迫る影が一つ。

 起き上がったカエデが背後から迫る。

 横薙ぎに振るわれた刀。

 だが、それは甲高い音と共に素早く反転した虎の長い牙に阻まれ止められる。

 市松が、カエデの後を追っていた。

 刀を止められたカエデの背を踏み台に跳躍。

 見上げる程高い虎の更に上からメイスを振り下ろさんとする。

 だが、虎はそれを許さない。

 後ろに跳躍……いや、背の翼を羽ばたかせる飛翔。

 上昇する勢いに任せ、後ろ足で市松を蹴り上げた。


 そのまま宙返りし、地面に落とされた市松を見据え……


「シロ!」


 私の声と同時に走り出したシロが地面に叩きつけられた市松の首に噛みつき、自分より大きな荷物を咥え跳躍。

 上から市松を踏みつけんとした虎の攻撃を紙一重で回避する。


 シロが新たに覚えたスキル。

【咥える】。

 対象を傷付ける事なく運ぶ技。

 木の枝を投げれば、上手に口に咥え戻ってくる。

 ますますワンコに磨きがかかるスキルである。


 狙いを外した虎が、シロと市松へ再び迫る前に銃弾を当てヘイトをこちらに。


 虎が私めがけ、翼を羽ばたかせた。

 直後、立っていられないほどの強風に吹き飛ばされる。

 更に肩から脇腹へかけて一直線にダメージエフェクト。

 一撃で、三割近くHPを削られた。


「窮奇は、カマイタチのモデルでもあるそうよ」


 アイテムで私を回復させながら、守る様に虎と私の間に立つクロちゃん。


「切断属性か」


 軽装備の私や市松にとって、苦手な部類の攻撃だ。

 切断って基本的に武器による攻撃が主だったからなぁ。

 私がヘイトを受け持つ時点で既に歯車が狂っているのだけど……。

 ま、対応しないとね。


「後ろに隠れて良い?」

「ええ。

 吹き飛ばしも、タイミングはわかったから踏みとどまれるわ」

「じゃ、攻めは二人に任せてサポートに専念しますか」




 虎……窮奇は見た目の巨体からは想像出来ない程に素早い。

 私達の中で一番俊敏なシロに匹敵する程に。

 考えなしに近寄ろうとしても簡単に逃げられる。

 では、不意を突けば。

 その場合、風を操り跳ね返される。

 正面から襲いくる強風はまさに壁。

 剃刀の様な鋭利な刃物を伴った壁である。


 私達とシロが虎の意識を散らし、アタッカー二人が同時に襲いかかる。片方は囮となって。

 そうやって、何度か攻撃を当てたけれどまるで手ごたえはない。巨体ゆえにタフなのだろう。


「攻撃一辺倒じゃ、流石に厳しいわね」

「不意を突く……のは、出来なくはないけど……」


 私は零七組と街を出て以来、陣魔法を一度たりとも使っていない。


「本当に見てるだけのギャラリーにサービスする必要はないでしょう?」

「でも、そうでもしないと勝てなそうだし」


 二人共攻めあぐねているのが手に取る様にわかる。


「私も行くわ」

「りょ」


 クロちゃんが新たに手に入れた黒い魔剣を手にゆっくりと歩き出す。

 私は下がり、虎から距離を置く。


「ユナイト」


 ミニエー強化3の最大装填数は11発分。

 この一撃で倒せるとは思ってはいないが、翼に風穴くらいは空けてやりたい。

 そうすれば、少しは楽になるはず。


 クロちゃんが盾で前面をガードしながら虎へと歩み寄って行く。ゆっくりと。


 近寄る新手に何かを感じ取ったのか、虎は翼を大きく広げ空へ逃れんとする。

 だが、やすやすとそれをさせる様な相手ではないのだ。お前が戦っている私の仲間は。


 虎の注意がクロちゃんへと向いた隙に同時に動き出した二人。

 まず、市松が渾身の力を込め振るったメイスが下顎を捉える。

 そしてカエデが虎の前脚へタックル。

 そのまま両手で片脚を抱え込み、その足をそこ軸にして全身を回転させ、両足で反対の脚を刈る。

 上に飛び上がるために地を蹴る。その前動作として前傾姿勢になったその一瞬を捉えた二人の攻撃。

 完全にバランスを崩し、巨体が横向きに地に倒れた。

 そこへ、飛び込んだクロちゃんが静かに剣を振り下ろす。

 艷羽色の彼女の髪と比類する程に黒い刀身。

 それが、一瞬長く伸びた様に見えた。

 直後、窮奇の片翼が根元からバッサリと断ち切られ粒子と化し消えて行く。

 切断面からはまるで吹き出る血の様な真っ赤なエフェクト。


 それは、初めて見る現象だった。


 痛みか、それとも怒りか。

 絶叫を上げる窮奇へクロちゃんの追撃。

 下から上に。

 ただ腕を上げただけ。そんな風にも見えた攻撃。

 だが手の先にあった剣先は窮奇の胴の半ば近くまで潜り込んでいた。

 剣が通り抜け、一拍遅れ胴体をぐるりと半分切り裂いた傷口から大量のエフェクトが吹き出す。

 窮奇が二度目の絶叫を放つ前に、振り下ろした剣がアッサリと首を跳ねていた。


 ……一方的。

 カエデと市松、二人を相手取ってなお余裕を見せていた敵が、たった三度の攻撃で消滅してしまった。


「……強くね?」


 なに?

 あれ。

 チート?

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