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55.ラーメン屋にて

 四人がけのテーブルに私とクロちゃんが並んで座り、その向かいにトーファ。

 横のテーブルにカエデと市松。

 カエデ! ワンコを椅子に乗せるな!

 ワンコ! 両手をテーブルに乗せるな!!


 注文を終え、トーファはずいっと身を乗り出し本題を切り出した。


「グアンナの懸賞金を手に入れたの君らか?」


 私達の周りでは、他に何人かのプレイヤーが食事をしている。

 皆、それぞれの仲間との会話に興じていて私達の事なんて気にもしていない。


 だけれど、逆にそれが不自然なんだよね。

 

 今まで、他のプレイヤーを視線を一切遮断してきたからこそ気づいたのかも知れない。

 店に入った瞬間に、全員から視線を受けた事に。そして、瞬時にその気配を消し去った事に。


 トーファはそれなりに顔が売れていると考える。ここを拠点に活動するプレイヤーとして。

 さらには、ヒッペを討伐した黒天騎士団の一員として。

 それはクロちゃんもだ。

 ここに居るプレイヤーの全員がそれを知らないなんて不自然。

 一人くらい声をかけるんじゃない?


 完全にマークされちゃってるわけね。

 まあ、確信はないんでしょうけど。


「違いますよ。何でですか?」


 私は表情一つ変えず嘘を吐く。


「アレを倒したのは四人パーティだった。

 君達と同じ」

「一、二、三、四、五。

 残念、私達ではないですね」


 わざとらしくワンコを数に入れて否定する。


「大体、私達昨日ここに来たばかりですよ?」


 そして、関係のなさそうな理由で否定を重ねる。


「それは知ってる」

「なら、なおさら無関係じゃないですか」

「それはどういう意味だ?」

「え?」


 私はシロを見つめていた視線をトーファへ戻す。


「グアンナって、この辺に居たんじゃないんですか? 最前線ですよね?」

「違う……というよりよくわかってない。キノエネでそれらしい情報はあったらしいが、真偽は定かでない」

「えっ。そうなんですか?

 マジか。

 戻ろっか?」

「えっ?」


 話を振ると固まるクロちゃん。

 ……アドリブ弱し。

 市松に振れば良かった。


「その情報、もうちょっと聞かせてください。

 あー……情報交換か。

 交換できる情報……何かあるかな?」


 私はそれとなく市松へ視線を送る。


「ヨシノさん。

 終わった懸賞金の情報は要らないのではないですか?」

「うーん。

 でもさ、キノエネに懸賞金が眠ってたんなら動き方も変わるじゃん?

 先頭を追いかける必要なくなるよね?」

「ヴァイオレットシャドウ。

 そう言うパーティが現れたそうだ」

「……そうですか。あの方達が」


 市松が自分からトーファの話に乗った。

 やりおる。


「知ってるの?」


 トーファが市松へ問いかける。

 その市松は視線で私へ会話をパス。


「下品な紫の衣装の人達でしょ?」

「わたくし、あの方達好きになれません」

「そう?

 割とイケオジだったよ?」

「そう言う趣味はございませんもの。

 それでなくても……まあ、ヨシノさんに言っても栓の無いことですが、視線が下品でたまりませんでしたわ」

「それは、仕方ないじゃん?

 アバター越しにも溢れ出る魅力って奴」


 ……ヤバい。会話のゴールが見えないぞ?

 とりあえずヴァイオレットシャドウはイケオジの集団に決まった。今。それも、ちょいセクハラ紛いの。


「どんなプレイヤーなんだ?」

「イケオジ」

「下品な集団ですわ」


 そのままトーファはクロちゃんへと視線を向ける。


「私は、あんまり……好きじゃない……かな」


 棒読み!


「お、来た来た!

 唐揚げこっち!」

「ワンワン!」

「待て!」


 タイミング良くNPCが皿に山盛りの唐揚げを運んで来てカエデが手を上げる。

 その横で舌丸だしであらんばかりに尻尾を振るシロ。

 私は立ち上がって待てと左手で押さえるような仕草。


「何?」

「ワン」

「下で食べなさい!」

「いいじゃん」

「ワン」

「ダメ!

 クロちゃん、悪いけど場所変わって」

「え、ええ」


 私は立ち上がって山盛りの皿から少し唐揚げを取り分けてから、クロちゃんが座っていた椅子をどかし、私の横に置いた。

 すぐにシロが椅子から飛び降り寄ってくる。


「待て。

 まだだよ。

 まだ……よし」


 ちゃんと教えてないけど待てが出来るシロはなんて賢いのだろう。

 後で思いっきり撫で回してあげようと誓う。


「……すいません。

 リアルで犬とか飼った事ないもんで」

「ホワイトウルフだな。

 そろそろクラスチェンジか?」

「あ、そうなんですか?」


 私達の前にもラーメンと餃子が運ばれて来た。

 バーチャルなんだからもっと現実味の無いもの食べたかったな。

 ま、奢りらしいから文句は言わないけど。


「で、ヴァイオレットシャドウですよね?

 ぶっちゃけ、よく知らないんですよ。

 二、三回誘われたんですけど、一緒に行動はしてないし。

 一回ご飯ご馳走になったぐらいで」

「何か言ってたか?」

「んー……あー!

 そういえば、大分……ムカつく事を。

 そっか、今思えばそう言う事か!」

「何?」

「『いくら欲しい? 現実の君の値段を教えてよ』って」

「……そりゃ、クソな連中だ」

「まさか、あれって金が入ることを見越してか!?」

「それ、いつの事だ?」

「ヒッペのアナウンスがあった翌日だったかな。

 それ以降は会ってないですね」


 シロが皿を空にして、私をじっと見つめているので根負けし、餃子を一つ取り分ける。


「それで、トーファさん。

 この辺の賞金首の情報、ありますか?

 出来れば私達だけ(・・・・)で倒せる奴」

「ない。

 仮にあったとしても、教えるわけないだろ?」

「そっか。残念」


 ま、そんなの教えてもらえるとも思ってなかったけど。

 一応、共闘するつもりはございませんと暗に伝えたのだ。もう絡んでくる事もあるまい。


 あー、疲れた。


 ◆


「次! 二体!」

『ペース、早いって』

『カエデさん、後ろ!』

『シロ、カバー!』


 下のフィールドが若干混乱し始めているが、私は構わず引き金を引く。

 一発。

 木の枝から宙へ跳躍したタイミングで猿型のモンスター『タイガーエイプ』の頭を撃ち抜く。

 クリティカル判定。ショックの状態異常付きで地面へと落下していくモンスター。

 もう一体。

 銃口を振って、『タイガーエイプ』がぶら下がる木の枝、その付け根を素早く撃ち抜く。


「ひとつ、無傷で落下!」

『オーライ、ですわ!』


 落下地点で待ち構えていた市松のメイスがエイプの頭部を捉え、体ごと弾き飛ばす。

 跳ね飛ばされた落下地点へ私が追撃。そしてシロが飛びかかる。


 次!


 周囲を見回し、敵を探す。

 木の枝から枝へと飛び移り近寄ってくる『タイガーエイプ』。

 その姿を捉え、狙撃し、地面に引きずり落とすのが私の仕事。


「……!!??」


 私が腰を下ろしていた木の枝が不意に大きく揺れる。鈍い、大きな音とともに。

 奇襲!?

 だけど、敵の気配は無かった。いや、不味い! 体勢が保てない!

 攻撃!? どこから?? 地震???

 いや、それより体勢をヲをおおおおおオオォォォぉぉ!!!!????


 二度目の衝撃で私は登っていた枝から振り落とされた。


 攻撃を警戒して、咄嗟に両手から銃を手放す事が出来なかった私はそのまま着地に失敗して地面と激しい口づけを交わすはめに……。


「ストップですわ」


 そんな私を笑顔で見下ろす市松。

 その後ろで私の登っていた木の幹に大きな真新しい傷があるのが目に入る。

 ……犯人は、こいつか。私を無理やり落っことした。


「前線が息切れしておりますわよ」


 言われ、彼女の視線の先へ目をやる。

 五体の『タイガーエイプ』に囲まれ、互いの背を守りながら戦うカエデとクロちゃん。


「まずっ」


 私は慌てて体勢を整え……銃口をそちらに向け……。

 引き金を引く前に、スッと市松のメイスによって射線が遮られた。


「新手がなければ大丈夫でしょう」

「ん……そっか」


 銃口を下げ、MPをチャージしながら立ち上がる。


「溜飲は下がりませんか?」


 横に並んだ市松にそう問われた。


「ん……いや、うーん……ごめん」


 そっか。

 私はイラついていたのだな。

 トーファに絡まれるというよくわからない状況に。


 それで、みんなに迷惑をかけた。

 ……訂正。今現在も掛け続けている。

 カエデが盛大に猿に噛み付かれていた。

 でも、クロちゃんとシロが引き剥がしに動いたから大丈夫だろう。


「確かに、少々居心地の悪い食事ではありました」

「いや、それでもなぁ。

 うん。

 もうちょっと、上手くやり過ごせたかな。

 あんな嘘までついちゃって」


 ヴァイオレットシャドウに会ったなんて嘘。


(それ)を気にしてらっしゃったのですか?」

「完全に嘘だしね。

 本気で調べれば、そんな事実はないと露見すると思う。

 まあ、そこまでの労力を払うとは考えにくいけれどあれは悪手だったんじゃないかなって」


 三文芝居に付き合ってくれた市松には申し訳ないけれど。

 そんな事に皆を巻き込んだ。それが、この先にどんな影を落とすだろうか。


「なら……」

「ん?」


 市松は顎に指を当て少し考えるように首を傾げ、そして笑う。


「嘘で無くしてしまいましょうか?」

「え?」

「本当のヴァイオレットシャドウが、キノトネに現れれば良いのですよ!」

「……は?」


 本物って、それ私達じゃん。

 そんな芝居こそ、無駄。時間の浪費。


「四人程、ゲームを遊ばせるなど容易いですわ。

 そうですね!

 それならいっそ、プロゲーマーを雇ってはどうでしょう!?」

「はあ!?」


 全く斜め上の発想に私は空いた口が塞がらない。

 そんな私の前で市松は微笑んだ。


「でしょう?」


 その悪戯っぽい笑みで、彼女なりの冗談だとわかる。


「いやー、流石にやり過ぎだなぁ」


 私も笑いながら返す。

 いや、ひょっとしたらそれでもやり過ぎではないのかもしれない。

 つまり、そんな状況なんだ。

 このゲームは。


「そうですか?」

「うん。

 それは少し私の手に余るもん。

 でも、そんな方法もあるんだね」


 そもそも、先に私達を欺き招き入れたのは向こうだしな。

 そのやり方に憤ってやり返そうとか考えたら駄目。同じ土俵に乗ろうとした時点で私達の負け。

 冷静になろう。


「ありがと。

 目が覚めた」

「そうですか。

 ……残念です」


 ……冗談だよね?

 …………冗談だよね!?

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