52.3つ目のエリアへ
ブルオウガ
それが、三番目の街へと向かう途中に出てきたボス。
巨大な角を持った人面に蜘蛛の様な多脚の胴体。
全長10メートルはありそうな巨体では有ったけれど、その分動きは重鈍。
攻撃一つひとつの威力は大きいけれど、それはまともに喰らわなければ問題ない。
大地を踏みしめていた脚、八脚全て潰され身動き取れなくなったブルオウガ。
その命を削りきらんと武器を叩きつける三人を眺める。
結局、私達に向いているのはこういうわかりやすい敵なのだろう。
殴れる。殴り続ければ倒せる。
……脳筋揃い。
やがて、断末魔を上げながら巨体が粒子へと変わっていく。
ラストアタックは市松だったかな。
構えていた銃を下げ、皆のところへ。
そして、ハイタッチ。
◆
「で、この先が三つ目のエリアか。
よし、行くぞ!
シロ!」
「ワン!」
ブルオウガのいた場所のすぐ奥には大きな川が流れており、そこを渡るためには橋を通る必要がある。
真っ赤な欄干の細く長い橋。
「川、か」
「泳ごうとか、思ってる?」
橋の下を見ながら呟いたのをクロちゃんに聞かれていた。
「いや、思ってないよ」
星空の下で黒く大きな川がゆっくりと流れている。
「そう言えば、水場関係のスキルは見たこと無いですわね」
「釣りがあったわよ?」
「ああ、成る程。
水の中には入らない想定でしょうか?」
「スキル、要らないとか?」
泳ぐだけなら誰でも出来るのかも。
「溺れて死ぬわよ?」
「え? クロちゃん試したの?」
「……そうよ」
少し恥ずかしそうにクロちゃんが言う。
やっぱり水に入る為には何か必要なのか。
「因みに、その時鎧脱いだ?」
「え……脱いでないわ。
そんな事、考えもしなかったわ」
「じゃ、今度は脱いで試してみようか」
「……嫌よ。それで死ぬなら無駄死にじゃない!」
一瞬ちゃんと考えるあたり真面目なんだよなぁ。
クロちゃん。
「でしたら、わたくしが水着をお作りしましょう」
「良いね。全員で水着で!」
「水着じゃ戦えないじゃない!」
「市松。戦える水着ならOKみたいだよ!」
戦える水着って、なんだろう。
「成る程、難解ですが、頑張ります!」
「そう言う意味じゃないわよ!
もう嫌。この人達」
拗ね顔のクロちゃんも可愛いな。
「まあ、冗談はさておき。
水の中。
そこも当然視野に入れないといけないと思うんだ」
私は川の下流を眺めながら二人に言った。
この下の川。そして、さらに先の海。
「うお座、みずがめ座」
私が星座を二つ声に出す。
「みなみのうお座、かじき、とびうお、くじら、イルカ、うみへび、みずへび……」
それにクロちゃんが続ける。
「アルゴ船を形成する三星座も海と関連ありますわね」
そう言った後に市松は「りゅうこつ、ほ、とも」と、指を折りながら続ける。
そう。八十八の懸賞首は全て星座に関連する。
それは、リストを見た全員が気付いているだろう。
「水関連は今あげただけでも十二。
これを追うならばこの川の中へ飛び込み調べて来る事は避けては通れないと思う。
だけど、十二ってことは全体から見ればの一割とちょっと。
正直、捨ててしまっても良いんじゃないかとも思う」
ぱっと見、川幅は500メートルぐらい。
そんな川を泳いで何かを探す。
あるかどうかわからないものを……。
……なんか、ありそうだよね。
そう思うといきなりこの川が、ちょっと怪しく思えてきたぞ?
「……戦える……水着か」
「え、ちょっと、本気だったの!?」
「ここを探す……ですか……?」
三人で橋の真ん中で川を眺め、その徒労を想像する。
「……情報があってからにしようか」
「……情報があったらやるのね……」
「……わたくし、水中で戦えるでしょうか」
それは私も自信無いなぁ。
三人で川を眺めながら途方にくれる。
いや、水関連は切り捨てれば良いのよね。
「取り敢えず、そう言う情報見つけたら教えてよ。
ネットでも」
橋を歩きながらクロちゃんにお願い。
「嫌よ。何で私がエゴサ担当なのよ」
「得意そうだし」
「大体、ネット情報なんて信じられる訳ないじゃない」
「それは、ほら火のない所に煙は立たぬって言うしさ?」
「なら、次にヴァイオレットシャドウが現れたら即座に教えるわ」
あー。
そうだ。
さっき自分達がまさに他人の足を引っ張ろうとガセ情報を流したばかりだった。
「……その情報は要らないかなぁ」
しかし、そんな所業など可愛いものだとこの後思い知らされるのである。
◆
流石に三番目のエリア。
橋を渡ってから街へたどり着くまでも、敵が強く道も長い。
「クソ!
降りて来い!」
樹上から甲高い金切り声と共に小石が飛んで来る。
その攻撃を受けながらカエデが上を見上げ刀を乱暴に振り回す。
「カエデ、もう無理だよ。
行こう」
高所からおちょくる猿型のモンスター。
まともに相手をしていてはキリが無い。
いや、まともに相手をするならばやりようはある。
私が銃で撃ち落とすと言う方法が。
だが、夜の森の中。
木の陰に隠れた素早いモンスターを狙い撃つ事が困難なのだ。
そろそろ今日の活動時間上限に届く。
どうやったって集中力が持続しない。
端的に言うと疲れ。
これがまだボス戦とかならまだ話は違うが、行く手を邪魔する雑魚。
面倒な上に逃げれる戦い。
どうしたってテンションが上がらない。
「カエデ、ここは戦略的撤退」
「くそう。覚えてろ!」
負け惜しみみたいな捨て台詞をあざ笑うキーキーと鳴き声と、投げつけられる石や木の実の中、私とカエデを連れ逃げる。
クロちゃんと市松は既に先に行ってしまった。
あれだよね。
圧倒的なサポート不足。
「おい。武士」
「なにさ」
「あれを倒す為に弓か魔法を使うつもりはないかい?」
「無い!」
「即答かよ!」
ちょっとは考えろよ!
「そのうち木を駆け登ってぶった切ってやる!」
はいはい。脳筋脳筋。
ま、いっか。
楽しくやろうって言ったのは私だし。
「お待たせ」
道の先で待っていた二人と合流。
少し神妙な顔をしたクロちゃんと市松。
「どしたの?」
「ちょっと、この先の様子がおかしい」
「ん?」
確かに行く手は、夜にしては明るい。
「火山でもあるのでしょうか」
「そろそろ街がないと不味いよねぇ」
「私、テントを持ってるからいざとなったらそこでログアウトしましょう」
テントは一回使い切りでフィールドでログアウト出来るアイテム。
もうここでそれを使っても良いかなーなんて思ったのだけれど自分のアイテムじゃないしね。
「おーい。猿が追いかけて来た見たいだぞ」
「やばっ!
走って逃げるよ!」
後方で木々がざわめく。
私は先陣を切って逃げる。
実は、足は私が一番早い!




