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51.着衣の刻

 キノトウシへ着いた私達がまず向かったのが防具屋。


 そう。

 ついに。

 ゲーム開始から十日以上経ってから遂に!


 私の着衣の瞬間が訪れたのである。




【隠者のローブ】

 物理に対する耐性は皆無だが、隠密性に長け装備者の魔力を僅かに向上させる。


【ミリタリージャケット】

 防御よりは動きやすさを優先させた服。素早さを僅かに向上させる。


【ミリタリーパンツ】

 防御よりは動きやすさを優先させた服。素早さを僅かに向上させる。


【タクティカルブーツ】

 軽量だが、耐久性に高く滑りにくい。




 全部で7万。


「……あんま変わってなくないか?

 主に露出面積が」


 全身新調した服に着替えた私を見てのカエデの感想。


「そんな事ないよ。

 少なくとも、私の羞恥心はこれ以上ないくらいに万全に守られてるし」


 まあ、たしかに肌の露出はそれほど減っていない。

 それは、買った服をすぐに市松によって加工されたからだ。


 お店では長ズボンだったミリタリーパンツはローライズのショートパンツに変わり、体を保護すると言う本来の目的を見失っている。ジャケットに至ってはほぼビキニだ。

 しかし、いくら見た目を変えようが適正部位に装備していれば性能は変わらない。

 昨日までの半裸にちょっと毛の生えただけの格好だけれど、性能は段違いなのだ。

 体が軽い。

 そして、そんな肌を覆い隠す様に上から一枚羽織る。

 本来は足下まである長いローブなのだが、こちらも腰丈ぐらいのパーカーに変えられた。

 前のジップは締めてはならないらしい。


 市松の好み全開なのか少し中二病的な格好だけれど、痴女よりは良いでしょ?


「準備は良いわね? じゃ、行くわよ。カノエトラへ」


 そう。

 ここは通過点。


 この辺に詳しいのはクロちゃんだけ。

 彼女を先頭にフィールドへと繰り出していく。

 足元にはシロ。


 あいつ、いつの間にか先頭の横が定位置になってるな。

 ブラックウルフにしてクロクロコンビにしてもいいかも。


「この辺でヒッペを倒したのよね」


 森の中でクロちゃんが立ち止まり呟く。


「ヒッペは子馬でしたわよね?」

「そうね。

 木と木の間に隠れていて、なかなか捕まえられない厄介な相手だったわ」

「ふーん。

 あんな風にか?」

「ええ、ちょうどあんな感じで頭を……えッ!?」


 確かに居るね。

 月明かりの下で木の陰からちょこんとこちらを見ている馬が。


「あれ……ヒッペじゃない? え、再戦可能なの?」

「本当だね」


 識別のおかげで私にもその正体がわかる。



 ヒッペ【元懸賞首 No.035】Lv:???

 森へ隠れた乙女。



「懸賞金……二千万……か。皆、やるよ! 作戦は、各々考えて!」

「よし来た!」


 私は手近な木に手を掛けその枝へ飛び乗る。

 カエデとシロが弾ける様に走り出す。


 先手必勝。

 木の陰から頭だけ出したヒッペに素早く狙いをつけ引き金を引く。


「チッ」


 流石は賞金首。

 それはあっさりと躱された。


 ◆


 あちらに逃げたと思ったらいつの間にか逆の方向から現れる。

 私の銃は的を絞れず当たらない。

 直接攻撃の三人はそもそも追いつけない。


「終わらないですわよ?」


 今や完全に戦線離脱した市松が、私の登った木の下で私に問いかける。


「うーん……確かにこのままだとどうにもならないよね」


 これ、無理だな。

 途中で何度か止めようと思ったよ。正直。


 でも、完全にスイッチの入ったカエデを止める術を私は知らない。


「一応、作戦は立てたんだけど……聞く?」

「わたくしでお役に立てれば」


 市松はヒッペの早さについて行けず、戦意消失。意気消沈。

 敵を追いかけ走り回るカエデを三角座りで眺めている。


「ヒッペを飛ばすから、そこへ待ち構えて思いっきりメイスを振り下ろして見たらどうなるだろう?」

「やってみましょう!」


 ここぞとばかりに立ち上がる市松。

 ブンブンとメイスを素振りする。


「じゃ、一番仕留め易そうな場所でスタンバイお願い」

「承知しましたわ」


 追いかければ逃げられ、行く手を遮ろうとすれば避けられる。

 ならば、完全に不意を打てば良い。

 市松をヒッペの側へ飛ばすより、その逆の方が良いだろう。


 漠然とだが、ヒッペの逃走経路と言うかパターンも読めてきた。


 シロとカエデが敵を追い立てる。

 いつの間にか、カエデが鎧を脱いでいた。武器も持ってない。ああやって敏捷性を上げる作戦なのかな?

 それが功をそうしたのか、馬の後ろにピタリとついて離れず走るカエデ。

 でも、それじゃ攻撃できないじゃん。


 いつの間にか彼女の中での目的が、馬に走り勝つことにすり替わっているのではないかと心配しながら私はヒッペの逃げる先を予想する。

 目線はヒッペに固定したまま、片手で市松へ合図を送る。


 二点同時に陣を出現させる。

 入り口はヒッペの行く手に。出口は市松の前に。


「……縮地陣・起動・陰、承接・陽!」


 バッチリ!

 絶対に避けれないタイミングでヒッペの前に陣を出現させた。


「……あ」

「え……えぇ!?」

「覚悟ぉおお!?」


 結論から言うとタイミングはバッチリだった。

 だけれど、ヒッペは眼前に出現した魔法陣をピョンと飛び越したのだ。

 そして、その後ろを爆走していたカエデが避けきれずに魔法陣の中へ。

 その出口で待ち構えていたのは市松のメイスのフルスイング。

 身を仰け反らぜ避けるカエデの鼻先を掠めるメイス。咄嗟に力の向きを変えようとした市松が体勢を崩し、カエデを巻き込み転倒。

 一瞬で大惨事……。


「大丈夫ー?」


 樹上から飛び降り駆け寄っていく。

 もうヒッペとか言ってられる状況ではなかった。


「いてててて……」

「……すいません。いま、どきますわ」


 重なった二つのアバター。


「痛みは無いし、同士討ちはダメージ入らないからさ、下手にカエデが避けずに食らった方が良かったんじゃ……」

「おま……鉄の塊が正面から高速で迫ってくるのを顔面で受け止めろと?」

「冗談だよ」


 市松とカエデの手を引き起き上がらせる。


「ていうか、そういう作戦なら事前に教えてくれても良いじゃん」

「いや、咄嗟に思いついたもんだから」

「まさか、カエデさんが飛び出てくるとは……」


 にわか作戦大失敗。


「貴女達がコントをしている間にヒッペは逃げていったわ」


 クロちゃんがシロと一緒に私達のところで合流。


「では、少し休憩としましょうか」


 市松がレジャーシートを広げ、私はその上に料理キットを出す。

 今日のハーブティーは、蜂蜜入り。


 ◆


「ま、倒したところで懸賞金はもらえないだろうし」

「え、そうなのか?」


 それを確かめる為に倒したかったのだけれど、普通に考えれば何度も貰えるはずが無い。

 メニューから確認出来る懸賞首リストの中のヒッペはグレーアウトしているのだから。


「なら、どうして挑んだのよ?」

「好奇心? 2000万設定の敵は、5000万とどれだけ違うのかなって」

「おそらく、単純に単体での強さだけじゃなくて、遭遇の難しさとかも加味されているのでしょう」

「そんな感じだね」


 クロちゃんが、森の奥を見つめながら私に問いかける。


「それで、ヨシノさん。

 貴女なら、どうやってヒッペを倒す?」

「え、私?」


 不意に問われ、考える。

 そして、結論。


「無視する」

「え?」

「今の私達に取ってヒッペと言う敵はさほど重要な相手ではない。

 仮に懸賞金の2000万が生きていたとしても、アイツを倒すために必要なピースと時間を考えるとメリットは少ないように思える。

 なら、アレに拘って悪戯に時間を消費する必要は無いかなって」

「なるほど。

 私が聞きたかったのは、倒し方なのだけれど……」

「うーん、罠をいくつか作って動けないようにする。

 ていうのが今の所有効かなと思うんだけど、そのためのスキルと道具をそろえて、それをここで何度か試行して。

 で、そうやってると嫌でも目立つから、他のプレイヤーの目はどうやって欺こうかな……。

 いや、そもそもそこまでする価値、ある?

 と、私の思考はここで止まります。

 結論、私達四人には向いてない敵。

 なら、その時間をもっと高額の賞金首捜索に使った方が良いよね?」

「他のパーティと協力はしないの?」

「しない。理由は一つ。

 信用出来ないから。これは、多分この先どれだけ行ってもこの点は変わらない。

 このゲームは他人を欺ける奴が勝つ。

 その事を否定するつもりはないけど、欺かれて嫌な思いするのを甘受する事とイコールじゃないから」

「そう」

「もちろん、クロちゃんがどうしても倒したいって言うならそれは協力する。

 他のパーティと合同だとしても。

 何時だったか言ったよね。パーティの方針。

『楽しくやろう!』って」

「覚えてるわ」


 なんか、まとまらない話になってしまったけれど伝わっただろうか。


「このお茶、美味しいわね」


 クロちゃんはカップを持ち上げ笑う。

 彼女は何のためにこのゲームをしているのだろう。

 いつか、その目的を聞かないと。

 でも、今ではない。

 もう少し、距離を縮めてから。

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