45.そして決着!
休む間も無く浴びせられる攻撃。
四方から攻め立てられ、標的となったグアンナは逆に反撃の的を絞れずにいる。
ほぼ棒立ち。
というか、サンドバック?
これ、勝てるかも。
なんて言うのは、甘かった。
開始からどれくらいだろう。
三十分経って、一時間には満たない頃だったと思う。
一方的なまでに斬りつけ殴りつけ、それでも未だに立っているグアンナ。その攻撃は単調の一言で、容易に受け止めて、躱し、再び斬りつけ殴りかかる。
幾度となく繰り返される同じパターンに集中が切れかけていたのだろう。
だから、変化に反応できたのは私達の中で唯一シロだけだった。
グアンナが大振りに振り回していた斧を止める。
その小さな変化を見て、私は愚かにも「あ、終わりかな?」と思い銃口を下げてしまう。
多分、他の三人も同じ事を思ったのだろう。
ここぞとばかりに武器を振りかぶり突っ込んでいく。
その標的であるグアンナは、横に大きく張り出した二本の角を青く光らせながら静かに槍斧の石突を地面に打ち付けた。
直後、光と音の奔流が、三人の悲鳴をかき消しながら辺りを支配する。
グアンナを中心に天より落ちた無数の雷。
それは、今まさにグアンナへと武器を振り下ろさんとしていた三人へ直撃した。
悲鳴を轟音が飲み込む中、後ろへ大きく弾き飛ばされた三人の体はそのまま地面に叩きつけられ転がって行く。
グアンナから離れていた私は唯一その被害を免れた。
だけれど、その時の私には目の前の状況を瞬時に理解する事は出来なかった。
……何が起きた?
地面に横たわる三人。
その中心に立つグアンナ。
そのグアンナが、一番身近にいるカエデへ向かい斧を振り上げ……。
「ワン!!」
鋭い声と共に、グアンナへとぶつかって行く白い塊が一つ。
……シロ。
シロだ!
呆けている場合じゃない!
三人のアバターはこの場にある。
それは即ち、まだ生きていると言う事。
素早く全員の状態を確認。
状態異常【ショック】。……一時的な行動不能状態。時間経過で回復する。でも、HPは皆、相応に減っている。一撃でも喰らえばアウトだろう。
「……こっちだ!」
体当たりを仕掛けたシロへヘイトを向けたグアンナへ続けざまに銃弾を浴びせかける。
全弾撃ち切ると同時に、手にしていたマスケット・シルバーを投げ捨て、ミニエー改2を取り出し引き金を引く。
私へヘイトを向けさせる為に。
幸か不幸か、私の狙いは果たされる。
続けざまに銃弾を浴びせられたグアンナが怒りの表情を私へと向けた。
距離は十分にある。
グアンナは、その場ですくい上げる様に斧を振り抜いた。
来る!
初めて見るその動作。私は直感に従い大きく横へ跳躍。
直後、グアンナから放たれた雷光が地面を割りながら真っ直ぐに私の居た場所を走り抜けた。
指向性の雷。
まさに紙一重でその攻撃を躱した私。
防具一つ装備して居ない私にとって、その一撃は致命だった筈。
だからこそ、距離を取り相手の間合いの外へと身を置いていた。
だけれど、今、相手はそんな私の目論見を打ち砕く様に遠距離攻撃を放って来たのだ。
同じ攻撃が、二度続け様に放たれていたら私はもうお仕舞いだったかもしれない。
だけれど、避けた私を襲う二の矢は無く。
そして、その間に状態異常から脱した三人が各々HPを回復させる。
「予備動作は覚えたわ。
怯まずに行きましょう!」
クロちゃんが立ち上がりながら檄を飛ばす。
「シロに負けてらんねぇもんな!」
カエデが再び刀を構える。
「なんたる失態。
回復を預かる身としてあるまじき事態でしたわ」
市松がメイスをまるでバトンの様にくるくると回す。
そして、再び一進一退の攻防が始まる。
グアンナの放った一撃は、全員を仕留めるには軽く、だが、目を覚まさせるには十分すぎる重さを持っていた。
◆
「退避!」
グアンナの動き出し。
その一瞬を捉えた私の叫びと同時に三人が後方へと大きく飛び退る。
その後に吹き荒れる落雷のスコール。
だけれど、グアンナを中心とした攻撃範囲には誰も居ず。
光と轟音が消え去ると同時に再び距離を詰め攻撃を浴びせかける三人と一匹。
一瞬たりとも気を抜く事が出来ぬ状態で動き続けた三人。
そんな彼女らを襲う物がもう一つ。
それは、疲労。
肉体の動きは変わらない。
だけれど、それを動かす頭脳は確実に蝕まれている。
それを三人は自覚しているだろうか。
「市松!」
彼女がグアンナから距離を置いた瞬間だった。
下からすくい上げる様に斧を動かすグアンナ。
地を走る雷。
「クッ!」
真っ直ぐに市松へ襲いかかるその攻撃を、クロちゃんが割り込み遮る。
文字通り身を盾にして。
「アァーっ……!」
悲鳴は轟音にかき消され、盾を構えたクロちゃんが大きく後方へ弾き飛ばされた。
その背後にいた市松をも巻き込み、二人が地面に転がっていく。
先に身を起こした市松が、クロちゃんへと回復魔法をかけるのを横目に私は引き金を引く。
あの二人の所へ追撃されたら不味い。
だが、光弾が直撃しようともヘイトが切り替わらない。
「うらぁ!」
弾き飛ばされた二人を追って歩き出したグアンナ。それに向かいカエデが叫びながら飛び込んで行く。
刀が振り下ろされる寸前、カエデの攻撃を迎え入れる様にグアンナは体の向きを変え、斧を横薙ぎに。
……今の動き……誘った?
まさか、アイツ、学習しているのか? 戦い方を。
刃と刃がぶつかり甲高い音が響く。
カエデは刀を縦にしその一撃を受け止めた。
そのまま二人で押し合いの力比べとなる……が、カエデの方が押されているか。
「くっ……こんのぉ!」
という言葉とは裏腹に徐々に押され体制を崩されていくカエデ。
グアンナの背後からシロが襲いかかるが気にも止めず。
「GURUAAAA!」
「くぁぁっ!」
カエデが押し負け体制を崩された。
すかざす斧を振り上げるグアンナ。
尻餅をつかされたカエデ。退避は間に合わない。振り下ろされる渾身の一撃を受け止めるのも無理そう。
「縮地陣・起動・陰、並びに承接・陽!」
咄嗟に放つ陣魔法。
陰はカエデの足元に。陽は私の前へ。
「……死んだ?」
「死んでない」
「ヨシノ? え?」
目を丸くしたままのカエデにHPポーションを。
「ギリ間に合った」
「転移魔法か!?」
「そう」
これ、使える。
とは言え、いきなり他人を飛ばすと混乱させちゃうな。
「力負けしてるじゃん」
「あと、ほんの少しなんだけどな。
根性だけじゃ無理か」
「数値は正直だね」
補助魔法は既にかけてある。
それで上回れない以上、真正面からぶつかって勝つのは無理なのだろう。
再び立ち上がったクロちゃんがグアンナの攻めを受け止めている。
それを挟み込む様にシロが動き隙を伺う。
「陣で隙を突いて倒す。
それで行こう」
「いや、アタシが正面からぶつかって崩す」
「無理っしょ?」
「さっきの勝ち誇った顔が目に焼き付いてるんだよ」
「そんな感情みたいなもの、持ってる訳?」
相手はAIだよ?
……いや、AIだからこそ、この戦いの間に学習する様になっているのか?
「アイツに無くともこっちにはある」
うーん。
妖怪負けず嫌い。
でも、ステータスで負けている以上、それは覆し様がない。
それを補うのはスキル、魔法、装備。
今この場で足らないからといって手に入るものではない。
……ん。
待てよ?
「とっておきがあった」
「ん?」
「これで駄目ならもう無理だと思うけど。
前、向いてて」
「ああ」
私はカエデの背後へ立つ。
そしてその頭部に私が持っていたアクセサリーを巻き、後ろで縛る。
【鉢巻】。
私が、このゲームを始めた時からずっと身につけていたものだ。
「気合の証、鉢巻。これで、攻撃力が上がる筈!
こっちを振り返らず行って来い!」
「おう!」
カエデの背を思いっきり叩いて送り出した。
「市松」
「はい! ……は?」
こちらを向いた市松はぽかんと口を開けた。
が、無視。
「さっきの見てた?
タイミング見て飛ばすよ!」
「あ、はい。どこへ?」
私は転送先を指差す。
その意図を察し、彼女は頷く。
「さあ、そろそろ決めよう!」
「「「おお!」」」
疲労はある。
だけれど、それを上回る事が出来る筈だ。
人は。気持ちと言うやつで。
それを証明してやる。
「はあっ!」
カエデが刀を振り下ろし、それをグアンナが斧で受け止める。
膠着。拮抗。
だが……僅かにカエデが勝る!
「らぁっ!」
押し勝ち、グアンナを突き飛ばすカエデ。
「縮地陣・起動・陰、並びに承接・陽!」
体制を崩し、先程とは逆に片膝をつかされたグアンナの頭上へ市松を飛ばす。
「慈割!」
いきなり空中へ放り出されると言う状況にも動ぜず、落下の勢いと全体重をメイスに乗せ、渾身の一撃を放つ市松。
それを、グアンナは斧を使い己の頭上で受け止める。
ぶつかり合うメイスと斧。衝撃波がエフェクトとなって奔る。
ピシッと言う音の後に、グアンナの持っていた斧が砕け散った。
市松はそのままメイスをグアンナの眉間へ叩き込む。
苦悶の叫び声を上げながらグアンナは身を捩り、丸太の様な腕を振り回した。
「縮地陣・起動・陰、並びに承接・陽」
その腕が市松を捉える前に、私の術により、彼女の姿は搔き消えた。
大きく空振り、よろけたグアンナの下顎をかち上げる様に下からシロが体当たりを食らわせる。
「落滝剣!」
カエデが両手に持った二刀を天高くから一気に振り下ろした。
側頭部から伸びた二本の角が、根元から断ち切られる。
「Ruhe in Frieden」
クロちゃんのエストックがグアンナの眉間へと深々と突き刺さった。
そして、グアンナは動きを止める。




