37.普通は嫌がる
私と市松は宿を取り先にその一室へ。
「本当に要らないからね!
その分、自分のスキルとか買いなよ」
「……ですが!」
武器代を払うと言って聞かない市松。
頑固だな。
「良いから見てて」
私は彼女が壊した銃と【魔晶石】を取り出す。
「リペア!」
左手に握りしめた【魔晶石】が手の中で砕け散り、右手の壊れた銃が強烈な光を放つ。
修理というより再構成。
魔導小銃を構成する部品一つ一つがバラバラとなり、その全てに魔晶石の魔力が流れ込み強化され再び組み上がっていく。
眩い光の中で展開されたその光景を私は瞬きせずに見つめていた。
私のスキルによって起きた奇跡の様な光景を。
【魔導小銃】ミニエー 強化1
魔力を光弾に変換し撃ち出す魔導機械兵器。
職人の手で強化が施されている。
最大装填数:8
基本装填時間:19秒
有効射程:80m
「ちょっと、強くなった!」
手の中で輝きを放つ魔導小銃を市松の方へとかざして見せる。
「すごい。
何ですか? 今のは?」
「修理スキル。
次は市松の」
「え?」
「メイス、壊したんでしょ?」
「ええ……ですが……」
「リーダー命令。
あのさ、市松。
私の標的は五千万の賞金首。
それを倒す為には何だって使い倒すよ。
それがクラスメイトでも。
だから、武器、貸して」
「……わかりましたわ!」
市松が笑いながら壊れたメイスを差し出す。
それを受け取り、うーん、これならこれくらいで良いのかな。
仮想ウインドウに表示された、修理に必要な魔力量。
それを満たす鉱石を取り出す。
銀鉱石、四つ。
「リペア」
魔導小銃の時と違い、バラバラになって再び組み上がる事はなかったが眩い光を放ち、メイスが生まれ変わった。
【戦棍】シルバーメイス
聖職者が自らを守る為に振るう武器。
銀の輝きは不死者や邪なる者をより強く討ち払う。
菱形になった先端に重心があり、上から見ると十字に金属片が飛び出している。
ザ・鈍器。重い。
「パワーアップしてますわ!」
「え? そうなの?」
「壊れた武器を直して売れば良い商売になりそうですわね」
「え。これ、そんなに?」
「ええ。
性能的には、ヒノトウシの店売り以上でないでしょうか。
元は、チュートリアルの初期装備品ですわよ?」
なるほど!
このスキルでお金稼ぎ
「いやいやいや。
違う違う違う!
私達の目的は、五千万!
でしょ!?」
「そうでしたわね」
笑顔の市松に騙されるところだった。
と言うか、今日イチの笑顔なんだけどそんなに鈍器がそんなに嬉しいの? お嬢様?
◆
カエデとクロちゃんが戻り、私達は宿屋で情報のすり合わせ。
もうすぐログインの制限時間。
「祭壇を通る条件は、武器防具を装備しない事で確定の様ね。
武器や防具を身につけていたら、それは生贄とは呼べない。市松さんの予想通りね」
「なるほど。道理だな」
「その条件が本当に合っているのか。
明日、私とカエデさんもそれぞれ試すわ」
「半裸になるのか……」
「仕方ないじゃない。
他の人の目がないのだから覚悟を決めないと」
二人とも、何でそんな気まずそう目で私を見る?
「転移の条件はそれで良いとして、問題はどうやってボスを倒すか、なんだよ」
「武器が持ち込めないから、何も出来ないに等しいですわ」
「そこは、何か手段があると思うわ」
「レベルを上げて素手でぶん殴るんじゃ駄目か?」
と、カエデから脳筋らしい正論。
「それは、どれだけ時間がかかるのかしら?」
「まあ、一日二日の話じゃないよね。きっと」
「案外、それが正解かもしれませんわよ?
今の私達が挑むレベルではないと言うことも考えられませんでしょうか」
そうなのだろうか?
だけど、唯一賞金首と戦い勝利した経験のあるクロちゃんの意見は違った。
「ヒッペは、戦闘能力自体はそれ程でもなかった。
厄介だったのは、真っ先に逃亡を選択する思考ルーチン。
そして、それを可能にする敏捷性。
人の居ない方向を素早く見つけ逃げていく臆病者。
だけれど、その臆病な性格を逆手にとって周囲すべてをプレイヤーで囲むと言う方法で逃げ道を塞ぎ、パニックにさせた。
そうやって倒したの。
つまり、なんらかの攻略法は用意されていると思う。
現時点の私達でも勝てるような」
「なら、明日はその糸口を探す訳だ。…………半裸で」
「半裸を強調しないで……」
「せめて、軽装と言ってくれませんでしょうか……」
そんなに嫌か?
この格好。
「あ、それとスライム素材はオークションに流さない方が良いわね」
「え? その方がお金になりそうだけど?」
「もし誰かが出品したらあの場所を見つけたって事。
祭壇の仕掛けまではたどり着かないと思うけれど、それでも他者の動向は気を配るべきよ」
「なら、店で売るかギルドに卸すか、か。
ヨシノ。後で鑑定お願い」
「りょ。
二人は? 必要ならやっちゃうよ」
「では、わたくしもお願いできますでしょうか」
「私も……お代はいくら?」
「タダで良いよ?
その分、恩義を感じてもらえば!」
「世の中、タダより高いものは無いって言うわよね……」
そんなに警戒しなくても大丈夫なのに。
翌日、市松お嬢様はヨシノの自宅へ銃の代金十五万円を持って突撃を仕掛けようとします。
住所をカエデから聞き出そうとしたところで全力で止められますが。




